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iPhone 12 Pro Max と LEITZ PHONE 1

昨年のクリスマスにiPhone 12 Pro Maxを買った。
iPhone 13シリーズが発表になったところだが、約9ヶ月使ってみた感想を書いてみる。先月2021年8月に発売になったばかりのライカのスマホLEITZ PHONE 1も気になるので、店頭で触った印象も含めて。

私はプロの写真家である。
仕事では、撮影後に明るさや色調などを調整できるRAWという形式で撮影するが、iPhone 12シリーズから本格的にこのRAW形式で画像を記録できるようになったと聞き、初めてカメラとしてiPhoneを買った。
買ってすぐ、昨年12月に銀座で撮影中の様子を撮ってみてがっかりした。
あまりにも不自然。カメラの設定でスマートHDRをオフにしてみたが結果は全く変わらなかった。

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この後も色々撮ってみたが、やはり「絵をつくり過ぎる」印象が強く、仕事で使えるかも、という期待は落胆に変わった。
RAW形式で撮影したデータも、昨年末の時点では現像ソフトの対応が不完全で思ったような調整は出来ず・・すっかり熱が冷めたまま数ヶ月が経ってしまった。

次のnoteには残念なiPhone12Proについて書いてやろうと思いながら時間が経ってしまったが、書く前にあらためて画質を検証してみて驚いた!

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同じ場所を撮った写真だが、ホワイトバランスが大幅に改善され、かなりナチュラルに見えるようになっていた。
アドビの現像ソフトCameraRAWでも、Apple ProRawプロファイルが完全にサポートされ、仕事で使っているカメラと同じ、とまではいかないが、かなりの調整ができるようになっていた。

銀座の写真(縦構図の2枚)は調整なしの撮って出しHEIFだが、DNGからRaw現像した写真をお見せする。上がAdobe Camera Raw(ACR)でApple ProRawプロファイルを適用し、そのまま出力したもの。下がCapture One Pro 21 Pro(C1-21)でDNGスタンダードプロファイルを適用し、調整を加えて出力したもの。

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ACR出力には調整を加えていないので、iPhoneデフォルトのHEIFで記録された画像と基本的に同じと思うが、興味深いのはApple ProRawに対応した現像ソフトACRでは、複数の露出を組み合わせた結果を反映したRAWデータが表示されること。
私が知り得るかぎり、複数の露出を組み合わせたRAWデータは見たことがない。

最初に書いたとおり、HDR(ハイダイナミック)生成されているため、テクスチャがぬるっとして、青や緑の原色がやや強調されて全体として「つくった感」が否めないが、C1-21でDNGスタンダードから現像した画像では色の誇張が抑えられ、テクスチャ(とくに向かいのホームの波板の屋根をみてほしい)も自然に再現されている。
上:ACR(Apple ProRaw適用)
下:C1-21(DNGスタンダード適用)

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C1-21でDNGスタンダードを適用して最初にプレビューされる画面は、下のように白飛び黒つぶれでぎょっとするが、ハイライトとシャドーを調整すると上の絵のようにディテール・トーンとも復活する。RAWデータが複数の露出を組み合わせた情報を持っていなければここまでの明暗差の調整は不可能だろう。
私はもっぱらRAW現像をC1-21で行っているので、C1-21でDNGスタンダードを適用した結果を紹介したが、ACRでも汎用のDNGプロファイルを適用するとほぼ同様のデフォルトプレビュー画面が表示される。
同じように調整をすれば、ディテール・トーンとも自然な絵が再現できる。

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第一印象が悪かったせいで、iPhone 12 Pro Maxは仕事には使えない・使いたくない!と決めつけていた自分の勉強不足・挑戦不足を大いに反省。米粒1個ほどの大きさのセンサーでこれだけの写真を生み出すAppleの技術にあらためて恐れ入った。
このサイズのセンサーでは1枚の露出で満足なダイナミックレンジは得られないから、複数の露出を組み合わせる技術を発展させてきたのだと思うが、35mmフルサイズセンサー搭載のカメラでも1枚の露出では再現が難しい手前ホームのシャドー部とホームの奥に見える建物のハイライト部、青空を見事に再現している。

「iPhoneで撮った方が綺麗なんだよね」この言葉を口にしたり聞いたりしたことはないだろうか。
それは、青空に輝く入道雲だったり、窓の外に見える景色など、明暗差が大きくて1枚露出では表現が難しいシーンがiPhoneだとふつうに撮れてしてしまうからだ。

コンデジがスマホに取って代わられたのは、純粋に写真の写り(仕上がり)で負けたからだ。AIを駆使し人間の眼で見た世界の再現に純粋に取り組んだAppleはあっぱれだと思う。
まだまだ不自然な点も多いが、複数露出を合成したRAWデータは、今後AIの学習が積み上がれば我々プロ写真家が多くの時間を費やして仕上げているレベルの写真を簡単に生み出してしまう可能性を秘めている。

ずいぶんとiPhoneについて語ってしまったが、先月2021年8月に発売になったLEITZ PHONE 1は、iPhoneよりも数倍大きな1インチセンサー(13.2x8.8mm)を搭載している。ライカストアでは画像データの持ち帰りが出来なかったので、写真の仕上がりを比較できないのが残念だが、どれほどの写真が撮れるのかぜひ試してみたい。

純正ケース装着時のサイズは、iPhone 12 Pro Maxとほぼ同じ。高さ(長手のサイズ)がLEITZ PHONE 1の方がわずかに長い。タイトル写真の右側、LEITZ PHONE 1の右に写っている銀色の丸いものは磁石で固定される仕組みのレンズキャップ。
外観デザインはライカらしくミニマルでシックだが、iPhoneしか使ったことがない私にはアンドロイドOSのUIがどうにも馴染めない。スマホカメラはOSに依存せざるを得ないところがネックだ。

iPhone 12 Pro Maxには、35mm判換算で13mm、26mm、65mmに相当するレンズを備えた超広角・広角・望遠の3つのカメラが搭載されているが、LEITZ PHONE 1には19mm相当の超広角レンズを備えたカメラ1つしか搭載されていない。より大型の2,020万画素センサーを採用し、19mm超広角カメラの画面をクロップすることでデジタルズームを行う仕組みだ。
iPhone 12 Pro Maxの超広角13mmと望遠65mmカメラのセンサーは、広角26mmカメラのセンサーよりサイズが一回り小さく、超広角13mmの画面を19mm相当にクロップするとさらに小さいセンサーで撮っているのと同じになるので、19mm相当の画角で撮る場合にはLEITZ PHONE 1の方が高画質な写真が撮れるに違いない。26mm相当の画角で比較するとさてどうだろう?65mm相当ではiPhone 12 Pro Maxの方が確実に有利だろう。

写真の「画質」は単純に画素数だけでは比較出来ないが、iPhone 12 Pro Maxの超広角カメラ1,200万画素を19mm相当にクロップすると計算上は850万画素程度。対してLEITZ PHONE 1は2,020万画素だから、19mmの画角では圧倒的に有利だ。

19mm相当の画角、実は建築やランドスケープ、日本庭園を撮っている私にとっては使用頻度が高く大いに興味がある。引きがない場所で広く撮りたいとき、iPhoneの26mm広角カメラ(1x)だとちょっと狭い、でも13mm(0.5x)だと遠近感が誇張され過ぎて気持ち悪い「0.7x〜0.8xあたりがちょうど良い」と感じた経験はないだろうか。
19mm〜26mmくらいでの使用が多いことを考えると是非とも使ってみたいのだが、13mmや65mmが使えるメリットも捨てがたく悩ましいところだ。

スマホカメラの画質は、もちろん35mm判フルサイズや中判センサーとは比べるべくもない。しかし、何と言っても常に携帯していてあらゆるシャッターチャンスに対応できること、プロだとわかる機材を持参すると撮影許可を求められるような場面でも撮れる、ホテルのちょっとしか開かない窓の隙間からスマホを出して窓外の風景を撮れる、など撮影の幅が大きく広がることは間違いない。

スマホを仕事で使う時代がもう始まっている。




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