Satoshi Hara

いつか思い出になる日々

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父の死と15641日の向こう側

親が早く死ぬことは、子供の人格形成にどのような影響をおよぼすのだろう。 僕の父親は、僕が高校一年生の春に死んだ。 1994年3月20日。肝臓がん。 42歳だった。 父親が早くに死んだことで、僕は、あらゆる物事の判断において、「人はどうせ死ぬのだから」という前提条件を無視できない人間になった。 それは時として、さまざまな事情や虚飾を無力化し、人生の本質を見つめることの役に立ったが、ある面では、いささかニヒリズムで自暴自棄的な 色彩を帯びることもあったように思う。 父親が

    • 冬。夜明け前。糸島にて。

      ストーブに薪をくべながら、木がゆっくりと灰に変わっていくのを見ている。 いつか未来(それは明日かもしれないし、60年後かもしれない)、僕も灰に変わる。その日のことを思い浮かべている。 去年も(あまつさえ昨日も!)多くの人が灰へと帰っていった。 死は生の対立概念ではなく、生の一部として存在する、と昔、ある芸術家は言った。僕は生という容器に死という液体をゆっくりと注いでいくイメージを頭に思い浮かべている。 生きてる僕はこの文章を書き、生きてるあなたがこの文章を読む。そう、

      • カレーを食べながら泣いた話

        ランニングの初期衝動。 とあるサマーオブラブの物語である。 はじめて「サロマ湖100キロウルトラマラソン」に出場したのは、震災のあった2011年だった。 きっかけはささいなことで、年始に一年の目標を立てるにあたり、健康に良くかつ楽しく一年かけて遊べそうな遠大な目標がほしかったのだ。当時はまだエントリー合戦などなくて、のんびりとしたものだったと記憶している。 そこそこ練習した、と思ってた。はじめてガーミンを買い「ログを残す」ということをしはじめたのもこの時だった。結果はD

        • 走り続けることについて語るとき、私たちの語ること。あるいは、100連走目に寄せる覚え書き。

          2018年の11月2日から毎日ランニングをしています。それを「連走プロジェクト」と名前をつけ、今日でちょうど「100連走目」になりました。 そもそも、「連走」というのをはじめて意識したのは、Twitterで、バティさん(@batistutakuji)のツイートを見ていたとき。毎日走り、その報告として「今日は◯◯連走目」と簡単な写真とともにアップしていました。 別にそんなに絡みはなく、単純に見ていただけなんですが、そんな毎日の繰り返しをだんだんと楽しみに心待ちにするようにな

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        父の死と15641日の向こう側

          橋本治と僕の青春

          橋本治さんが亡くなられた。僕がnoteを書く基準はひとつ。「その瞬間の気持ちを文章で記録したい」ということ。写真を撮るように、気持ちを残す。文章でもって。粗は承知の上なので許してほしい。 橋本治、その名前をはじめて意識したのは、浅羽通明の著作の中でだったと思う。浅羽通明の「ニセ学生マニュアル」の三部作は教養という肥沃な世界のガイド役として、中学生・高校生の僕をおおいに興奮させた。 橋本治氏が亡くなって、いちばん最初の感慨は、「ああ、直接会うことはなかったなぁ」という思いだ

          橋本治と僕の青春

          冬の葉山/風景のデッサン(1)

          夏のよりも冬の閑散とした葉山が好きなのは、 自分が冬生まれだからかもしれない。 弱々しい太陽と深く濃い海の碧。 光があれば影ができる。 勝者がいれば敗者がいる。 強さがあれば弱さがある。 大きな自然は人間の営みの小ささを 教えてくれる。 葉山のホテル音羽ノ森のレストランで、かつてマイケルジャクソンの座っていたという椅子を眺めながら、彼にとっての幸せとはなんだったのだろうか、と僕は考えた。 遠い街の物語を歌うスティーリー・ダンの優しい音楽が海と繋がる窓辺の部屋に小さく

          冬の葉山/風景のデッサン(1)

          ハセツネ2018挑戦記

            Vol.1【準備は楽しい】  ハセツネは準備から楽しい。なんといってもはじめてだから、不安になるほど、荷物は無限に増えていく。夜が怖いからライトが増え、ライトが増えるから、予備の電池も増えていく。夜の山は経験がない。どこまで寒くなるかわからないし、僕は寒さにめっぽう弱い。つまりは服も増える。ひもじい思いはしたくないから、食料もどんどん増える。膨れ上がったザックの重さは約10キロだった。 Vol.2【余裕は大事】  当日の朝は予想外の渋滞に巻き込まれることに。空いてれば家

          ハセツネ2018挑戦記