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ブルーノ・ムナーリ展で姿勢を正した話

神奈川県立近代美術館でブルーノ・ムナーリの回顧展『ブルーノ・ムナーリ こどもの心をもちつづけるということ』が開催されている。4月の中旬頃に行ったのだけど、本当に良かった。

ブルーノ・ムナーリは20世紀に活躍した芸術家であり、グラフィックデザイナーやプロダクトデザイナーでもあり、なんなら絵本作家や編集者でもあったりと、とにかく活動の幅が広いため、彼の活動を一言で表すのはとても難しい。しかしこの回顧展で、すべての活動は地続きであり、多種多様な作品は長期間におよぶ、たくさんの試行錯誤の結果だと分かった。

木の描き方が記された『木をかこう』(1978)の試作は本が発売される二年前の1976年から始まっている。さらにこの本が発売される五年前には『葉っぱをつけよう:木』(1973)、『葉っぱをつけよう:つた』(1975)の子供向けの作品がある。「木」や「つた」が印刷された色紙に、葉っぱのスタンプで木に葉を茂らせて遊ぶ。このスタンプは『葉っぱをつけよう』シリーズで初めて試されたものではなく、『みどりずきんちゃん』という作品でスタンプの試作(1972)が確認できた。みどりずきんちゃんで試行錯誤された木や葉の表現が、「木」そのものへの関心へと変化し、新たな作品を生んでいた。

また、ブルーノ・ムナーリは人の手には届かない芸術作品ではなく、あくまでも、人の手に行き届く既製品を目指していた。1950年から30年以上ものあいだ、継続して制作されている『陰と陽』というミニマムな作品は、ラフの段階から部屋に飾られることが想定されていることが展示物から分かった。

ブルーノ・ムナーリの作品は、数年かけて作成されたものばかりだった。

現在、モノ作りに関わる人間は『バズる』という厄介な現象に巻き込まれている。どうしても短期的にウケたかどうかが気になってしまう。しかし、ウケたからといって作品が受け入れられたわけじゃないし、バズったところで作品が売れるわけでもないし、当然それが良いモノであるかは別の話だ。

ブルーノ・ムナーリの姿勢はバズるといった短期的で空虚な現象からは程遠いものだった。『本質的』という表現は手垢がすぎているので避けたいところだが、ブルーノ・ムナーリの姿勢は本質的であった。試行錯誤を繰り返し、コンセプトを洗練させ、子供向けから大人向けまでの作品を生み出し、さらにその思考を教育者となって広めていく。

考えることと手を動かすことをサボってはいけない、短絡的なウケを狙ってはいけない、私は姿勢を正さないわけにはいかなかった(無理かもしれないけど)。

ブルーノ・ムナーリ こどもの心をもちつづけるということ』は神奈川県立近代美術館で6月10日まで開催されている。気になったかたは、ぜひ足を運んでいただきたい。神奈川県立近代美術館から見える海もきれいでしたよ。また 、2018年11月17日から2019年1月27日のあいだ、世田谷美術館でもブルーノ・ムナーリの企画展『ブルーノ・ムナーリ——役に立たない機械をつくった男』が開催される。神奈川県立近代美術館と同じ展示かどうかは分からないが、期間中に足を運べないかたは世田谷美術館の展示を観ていただきたい。

#コラム #デザイン

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