日記:初めてのバイト

 中学3年生の、夏休みのことだった。
 この時期になると進路やら受験やら色々と決まってきて、受験勉強なんて単語が出てくるが、自分はそれとはまったく無縁の生活だった。

 それが良いか悪いかは置いといて、夏休みになると、この年齢ではさすがに祖父母の実家に帰ることもできず、親がせっせと働いている間、子はぐーたらと家で一日中ネットやゲームを楽しんでいるのである。

 そんなある日、母親の姉の旦那さんが自営業をしており、それの手伝いでもしないか?と母に誘われた。いわゆる、親戚のお手伝いだった。
 高校に上がったら遊ぶ金欲しさにバイトもしたいし、親戚のおじさんも恐らくそういった社会経験やら卒業祝いの前倒しも兼ねているのかな、といまさらながらに思う。

 午前6時、一駅分ほどの距離にある親戚の家に着く。
 後部座席がまるまる脚立だとか作業道具の置き場になったハイエースの助手席に座り、恐らく市内のマンションへ向かった。
 その間、おじさんと何の会話をしたか分からないが、おじさんの他に雇っている従業員の車も後ろからついているのは分かった。

 現地で若い男性――二十台前後か――二人に挨拶をしたような気がする。気のいい「お兄さん」だったのは今でも覚えている。

 肝心の仕事、といっても本当に雑用だった。
 本業の仕事内容は、エアコンや室外機などのパイプの交換?取付?だった。自分はその作業過程で出たゴミをせっせと集めて、ゴミ袋に入れるだけだった。
 職業体験でしか出来なかった仕事の経験は、自分にとってはとても新鮮で、とてもやりがいを感じていたのは記憶に残っている。

 昼になると、コンビニで弁当を買って、ハイエースの蔭で食べる。
 季節は夏で、とても暑かった。炎天下の中で食べる弁当はとても美味しかった。

 作業のめどがついたのか、夕方前に撤収作業をした。車内でおじさんに「はい、お疲れさま」と封筒を渡された。
 生まれて初めての、給与袋だった。

 家に帰ると、母親が既に夕飯を作ってくれていた。
 テレビを見ながら、テーブルに給与袋を置き、その中身をおそるおそる取り出した。
 今でも覚えている。8000円、入っていた。

 この後、夏休みが終わるまでに数回程、おじさんの手伝いもといバイトをしてもらった。
 夏休み中の女子高校に合法的に入れたことや、バカでかい工場で脚立に足を打ち付け大出血した話など思い出はあるが・・・ああいった経験をさせてくれるのは本当に良いことだと、今になって身に染みる。

 自分もいつか、そういった貴重な経験をさせていきたいなぁと思った。

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