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【院長への道 ep.16 〜開業戦線異常なし】開院、そして院長へ、、、

 そうそう、開業の前日に地域住民に向けて、院内の内覧会を行なった。

 内覧会は、周囲の人々に対して、

【ここに新たに歯科医院が出来ますよ】

 と、認識してもらうため。そして、

医院の中はこんな風で、こんな設備や機械がありますよ。そして、治療してくれる先生やスタッフはこんな人達ですよ

 と、医院のハードとソフト、そして医院の雰囲気とスペックを一挙に紹介できる大きなチャンスなのだ。

 さらに、そこにプラスして、

良かったら、ついでに予約もどうですか?

 と、未来の患者さんまで獲得できる可能性がある大事なイベントだ。

 しかし、この時の私は全くそんな事は考えていなかった。

 『こんなに何ヶ月も前から工事してるし、大きな看板も付けてるし、周りの人も(あ、あそこに歯医者さん出来るんやわ)って噂してるやろから、わざわざ内覧会を、そこまで気合い入れてする必要無いやろ。』

『ほんで、とりあえず新しもん好きの人が様子見に来てくれるから、そこでしっかりと良い治療をしていけば口コミが広まって、そこから紹介の患者さんがドンドンきてくれるはずや!』

 と、のんきに考えていた。

 だから内覧会のお知らせも、開業のお知らせのチラシの片隅にオマケ程度に載せておいただけだった。

 結果、1日医院を開けて行った内覧会の結果は、なんと驚異の参加者

2人!

 しかも、そのうちの1人は1番最寄りの歯科医院の院長先生だったので、実質1人。

 近隣の先生は、新しく出来るライバルの歯科医院がどんなもんか偵察に来たのだった。

 おそらく中を見て(ほっ)とした事だろう。これなら恐るるに足らず。そんな安堵した顔をしながら、近隣の先生は、

 『頑張ってね!』

 と笑顔で2〜3分院内を見回すと、そそくさと帰っていった。

 この時は(内覧会といっても、近所の人はそんなに誰も興味を持ってくれないもんだなぁ)と思ったものだった。

 今は内覧会の重要性も認識され、それ専門の業者さんもいるくらいだから、いかに当時の自分の認識が甘かったのかを痛感している。

 その証拠に、開業後10年くらいしてもなお、

 『毎日、前を通ってるけど、今までこんなとこに歯医者さんあるの知らんかったわ』

 と言う、新患さんが結構いらっしゃるのをみても、いかに最初の宣伝が大事かと言う事がわかる。

 人は、自分が興味の無いものには、ほとんど意識が向かないものである。だから、日常で特に歯やお口の中に困った事が無ければ、当然歯医者さんがどこにあるかなんて気にもしてないのである。

 逆に興味があるものは、途端に目につくようになる。欲しい車や、ブランドの鞄があったりすると、実際は今まで目にしていた頻度は変わらなくても、急に街の中でその車や鞄を目にする機会が多くなったように感じるのと一緒である。

 内覧会の専門業者に頼むと、費用はだいたい100〜150万くらいかかる(2022年現在)ようだ。

 内容は、周囲の人に宣伝をする事に特化したスタッフが、アイキャッチのための専用の【のぼり】や【看板】、そして子供が喜ぶ風船やおもちゃなどを巧みに使い、その辺りを歩いている人を捕まえて内覧会へと誘導してくれる。

 院内には、医院と先生を宣伝するチラシやパンフレット、そして簡単な粗品などを準備して、万全の体制で将来の患者さん予備軍の人たちを、精一杯の笑顔とホスピタリティでおもてなしする。

 気に入っていただいた方には、すぐにその場で治療や検診のアポイントを取って帰ってもらう。場合によっては、この内覧会だけで100人近いアポイントが取れる場合もあるそうだ。(まあ、100人というのはよっぽど立地に恵まれている場合だと思うが)

 駅前や、人通りの多い場所ではなく、少し住宅街の中に入ったようなわかりにくい場所で開業するなら、この内覧会専門業者にお願いするのは、スタートダッシュという意味ではとても大きな力になってくれるだろう。

 この辺りは費用対効果を考えて、慎重に決められると良いだろう。

 今なら私も間違いなく、頼むかもしれない。

 しかし、なんにせよこの時はお金がなく、開業費用を少しでもケチりたかったので、頼まなかったかもしれない(笑)。

 兎にも角にも、この時の内覧会はとても暇で、みんなでお茶を飲んでいた記憶しかない。

 そして長かった1日が終わり、家に帰って布団に入ると、だんだんと『いよいよ明日、自分が院長になるんだ』という実感が湧いてきて、興奮でなかなか眠れなかった。

 しかし、そうこうしているうちに、いつの間にか眠りに落ち、そして日付が変わった2003年5月2日。遂に私は院長としての記念すべき一歩を踏み出す事となった。

院長への道 〜開業戦線異常なし〜立志編

【完】


 

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