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裁判員に選ばれる年齢「18歳以上」に法改正ーーーもっと知り、考える機会を

裁判員に選ばれる年齢がこれまでの「20歳以上」から「18歳以上」になる法改正がなされました。最高裁判所のホームページに「裁判員の選任資格に関する法改正について」という記事が掲載されています。その記事では「裁判員に選ばれる年齢が、20歳以上から18歳以上になると聞きましたが、本当ですか」との質問に対して、「本当です」と答える形で、来年11月頃に発送される裁判員候補者名簿掲載通知は18歳、19歳にも届くことになり、2023年1月1日から18歳、19歳も裁判員に選ばれる可能性がある旨が記されています。

みなさんは、裁判員の選任資格が「18歳以上」に変更される法改正があったことを知っていたでしょうか。

私は、数日前にたまたま最高裁判所のホームページで記事を見つけました。記事が掲載されたのは今年7月のようです。これまで裁判員に選ばれる年齢が変更になったニュースを見聞きした記憶もありませんし、法改正の動きがあることも知りませんでした。

そこで、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以下、「裁判員法」といいます。)公職選挙法を調べてみたところ、まだ改正は反映されていませんでした。国会の立法情報を探しても該当する裁判員法や公職選挙法の改正を見つけることはできませんでした。


なぜ公職選挙法の改正を探したかというと、裁判員の選任資格は「裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から、この節の定めるところにより、選任するものとする。」(裁判員法第13条)と定められているからです。公職選挙法が改正されて、既に選挙権は「18歳以上」からになっています。

公職選挙法の改正時には裁判員の選任資格は「20歳以上」のままとして、公職選挙法附則第10条で20歳未満の者は就職禁止事由にあたる者とみなされて裁判員候補者名簿から消除することが定められていました(※1)。したがって、裁判員の選任資格を「18歳以上」とするためには公職選挙法附則第10条の変更が必要になるのです。しかし、公職選挙法附則第10条の改正をなかなか見つけることはできませんでした。


裁判員法
(裁判員の選任資格)
第十三条 裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から、この節の定めるところにより、選任するものとする。

公職選挙法
附 則 (平成二七年六月一九日法律第四三号) 抄
(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律の適用の特例)
第十条 年齢満十八年以上満二十年未満の者については、当分の間、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(平成十六年法律第六十三号)第十五条第一項各号に掲げる者とみなして、同法の規定を適用する。
2 地方裁判所は、当分の間、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第二十三条第一項(同法第二十四条第二項の規定により読み替えて準用する場合を含む。)の規定により裁判員候補者名簿を調製したときは、直ちに、同法第二十条第一項の通知をした年の次年の一月一日の時点における年齢満二十年未満の者を、裁判員候補者名簿から消除しなければならない

裁判員法や公職選挙法附則第10条の改正を見つけることができなかったので、いつ、どのように法改正されたのか、最高裁判所と法務省に問い合わせることにしました。

その結果、2021年5月に「少年法等の一部を改正する法律案」として公職選挙法附則第10条の削除が提案され、可決成立していたことがわかりました。「少年法等の一部を改正する法律」の附則第17条に公職選挙法附則第10条の削除が盛り込まれていたのです。

裁判員の選任資格がこれまでの「20歳以上」から「18歳以上」に変更となったことは法改正された条文の文言からは直接はわかりません。

「少年法等の一部を改正する法律」の「等」として法改正がなされたため、正面から裁判員の選任資格の年齢引き下げの是非が議論されることはありませんでした。これは司法への市民参加の制度である裁判員制度にとって大きな問題です。裁判員として参加する市民が主体的に議論することなく、重大な改正が行われたことになります。

裁判員制度は、国民主権の原理に基づくものですから、裁判員の選任資格の年齢を選挙権年齢に合わせることに合理性はあります。裁判員法も選任資格を「衆議院議員の選挙権を有する者」(同法第13条)としています。そして、2022年4月1日には民法の成人年齢が18歳に引き下げられます。

しかし、裁判員の選任資格は民法の成人年齢と一致することが求められるわけではありません。また、国民主権の原理に基づくとしても、選挙権と被選挙権の年齢は異なります。これまで18歳以上20歳未満は裁判員に選ばれなかったので、選挙権と裁判員に選ばれる年齢が異なる制度設計もあり得るはずです。改正された少年法でも18歳以上20歳未満と20歳以上では異なる取扱いがなされています(※2)。少なくとも今回の少年法改正によって裁判員に選ばれる年齢を自動的に引き下げる理由はなかったように思います。



少年法等の一部を改正する法律案

附則
(施行期日)
第一条 この法律は、令和四年四月一日から施行する。
<略>
(公職選挙法等の一部を改正する法律の一部改正)
第十七条 公職選挙法等の一部を改正する法律(平成二十七年法律第四十三号)の一部を次のように改正する。
  附則第五条から第十条までを削る。

  附則第十一条中「少年法」の下に「(昭和二十三年法律第百六十八号)」を加え、同条を附則第五条とする。


裁判員に選ばれる年齢が「18歳以上」に変更される法改正を知らなかったこと、法改正前に裁判員になるかもしれない市民の間で知り、考える機会をつくることができなかったことについて、裁判員制度に取り組んできた法律家、市民の一人として、とても悔しい思いを抱いています。

裁判員制度は、市民が司法に直接参加する制度です。裁判員制度のあり方について、法律の専門家だけではなく、司法の新しい「担い手」となった市民の声を反映させることが必要です。今回の裁判員に選ばれる年齢引き下げは十分な議論のうえで行われたものとは言えません。法律の専門家や政治家の間でも正面から議論は行われていませんでした。

裁判員に選ばれる年齢を18歳以上に変更することの是非を、裁判員になるかもしれない市民の間で幅広く議論して決めていくことが本来のあるべき姿であったと思います。

裁判員に選ばれる年齢が18歳以上になることで、学校でも社会でも法教育の役割はより重要になってきます。私たち一人ひとりの市民が裁判員制度をもっと知り、考える機会をつくることが大切であり、そのためにできることをできる限り行っていきたいと改めて決意しました。

市民の視点から裁判員制度を考える活動をしてきた一般社団法人裁判員ネットでもこの問題に取り組んでいきますのでご注目ください。


※1 公職選挙法で選挙権年齢が「18歳以上」に変更された時に裁判員に選ばれる年齢は「20歳以上」のままとしたことについて、衆議院の「政治倫理の確立及び公職選挙法改正に関する特別委員会」(2015年5月28日)では「十八、十九というのは今までも申し上げましたように少年法の適用を受けている者たちでございまして、もちろん、一部適用除外のような形になっておりますけれども、もともとは少年として扱っているということからしまして、人を裁く、そういうような立場になることが果たして妥当かどうかということで議論いたしまして、これは除外をするということにいたした次第でございます」と説明されていました。今回の少年法改正では18歳以上20歳未満を「特定少年」として原則逆送事件が拡大されるなどしましたが、少年法の適用を受けることには変わりありません。 

※2 法務省の「少年法改正Q&A」では18歳以上20歳未満に少年法が適用されることについて次のように記載されています。

Q7  選挙権年齢や民法の成年年齢は18歳に引き下げられたのに,なぜ18・19歳の者に少年法を適用するのですか。
A7 18・19歳の者は,成長途上にあり,罪を犯した場合にも適切な教育や処遇による更生が期待できます。そのため,今回の改正では,18・19歳の者も「特定少年」として引き続き少年法の適用対象とし,全ての事件を家庭裁判所に送って,原則として,更生のための保護処分を行うという少年法の基本的な枠組みを維持しています。他方で,18・19歳の者は,選挙権年齢や民法の成年年齢の引下げにより,重要な権利・自由を認められ,責任ある主体として社会に参加することが期待される立場となりました。
そこで,18・19歳の者については,少年法においても,その立場に応じた取扱いをするため,原則逆送対象事件を拡大し,実名等の報道(推知報道)を一部解禁するなど,17歳以下の少年とは異なる特例を定めることとなりました。


(本稿は2021年9月27日時点の情報に基づく記事です。)

       ※1及び※2は2021年10月4日に加筆しました。

                       文責 弁護士 大城聡


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