中二病の宇宙論 第三章

第三章 系外惑星で生命は誕生し進化できるの?


系外惑星ってそんなに数があるの?

さてここからは第一章の一番目の疑問「系外惑星に誕生する生命」について中二脳で検討してみましょう。究極には最新の系外惑星の科学や宇宙生物論で考えた場合、「地球から数光年から30光年ぐらいの近場に知的文明の惑星があって、そこに宇宙人がいる」可能性がどれくらいありうるのか?を、ひとつひとつ細部にわたって中二の知識の範囲内で検討していくわけです。
そもそも太陽系の近くのそれくらいの範囲内には恒星が300個ぐらいあるとして、そこには系外惑星ってどれくらいあるんでしょうか?
中学生らしくウィキペディアで調べてみると、太陽から10光年未満の範囲内には14個の恒星があります。そのうち惑星が発見されている恒星はプロキシマ・ケンタウリやバーナード星など全部で4個。だとすれば系外惑星が存在する可能性は低いように一見見えますが、実はそうではありません。系外惑星発見の方法と歴史を調べてみると違う実態が見えてきます。
太陽系の外に最初に惑星系が確認されたのは1992年です。最初に発見されたのはホットジュピターと呼ばれるタイプの惑星でした。これは水星よりも内側の軌道に木星よりも大きな惑星が回っているという、太陽系の常識では考えられないタイプの惑星でした。
その発見をきっかけに系外惑星はつぎつぎと発見されるようになって、直近の2019年11月には累計で4126個の太陽系外惑星が確認されています。
これらの発見のうち、直接観測された惑星はせいぜい7つから十数個ぐらい。直接見えるのは当然のことながらすべて巨大なものばかりです。木星の4倍以上で基本的に生命が住める重力ではない惑星ばかり。それ以外のほとんどの系外惑星、つまり生命が誕生する可能性のある系外惑星はすべて間接的な方法で発見されています。
系外惑星の大半は、ふたつの方法で発見されてきました。ひとつがドップラー分光法、もうひとつがトランジット法です。
1992年から2003年まで、初期の系外惑星のほとんどはドップラー分光法で発見されました。恒星の周りを惑星が回ると惑星の重力で恒星がわずかに揺れ動きます。これは大きな惑星が存在しているときでも本当にわずかな揺れにしかならないのですが、それでも高性能な分光器ならこの変化を計測できます。
ドップラー分光法が有効なのは、特に発見初期で言えば太陽系に近い恒星で、かつ惑星が恒星に近い場合。だからはじめの頃発見された系外惑星はホットジュピターが多かったのです。
もうひとつドップラー分光法が有効なのは恒星の質量が小さい場合。地球から一番近いプロキシマケンタウリの場合は赤色矮星のため質量が小さく、ハビタブルゾーンにいる惑星プロキシマケンタウリbがその近くを回っていたために、ドップラー分光法で発見されました。
ただドップラー分光法は誤りのケースも少なくありません。2010年に「地球から20光年離れた場所にある地球に非常に似た惑星だ」と発表されたグリーゼ581gの場合、他の天文台では再検出ができず、現在では誤った観測結果だったとされています。
ふたつめの発見法がトランジット法です。地球から見て系外惑星が恒星の手前を通過すると、その時間は恒星からの光がわずかに減光します。星がちらつかない宇宙空間の望遠鏡で観測すれば、一定の時間間隔で恒星が減光する星には惑星が存在することがわかるということです。
2006年に欧州のコロー衛星が、2009年にはアメリカのケプラー宇宙望遠鏡が打ち上げられたことで、トランジット法による系外惑星はつぎつぎと発見されるようになりました。
トランジット法の利点は、宇宙のある領域を撮影して恒星の光を観測する方法なので、一度に大量の恒星をチェックすることができるということです。こうしてトランジット法では2010年以降毎年50を越えるペースで系外惑星を発見し、探索が本格化した2014年には一気に850個以上の系外惑星を発見するという成果を上げています。
さらに2018年にはTESSというトランジット法による系外惑星探査専門の宇宙望遠鏡も打ち上げられたことで、発見される系外惑星の数はさらに増加することでしょう。


系外惑星が発見されないからといって、、、

こうしてウィキペディアの「(太陽に)近い恒星の一覧」をみると、ぽつりぽつりと系外惑星を含む恒星と、そこで発見された惑星の数が表記されるようになりました。
しかしそのリストを見ていると、惑星の発見されていない恒星が多いのも事実です。
「じゃあ、近くの恒星を探査しても惑星がないケースが多いの?」
と思うかもしれませんが、そう結論づけるのは早すぎます。
そもそもドップラー分光法では4光年離れた場所から太陽を観察した場合に、そこに地球を発見することは技術的に難しいといいます。
ではトランジット法ならどうでしょう。トランジット法にも大きな欠点があります。トランジット法で惑星が発見されるためには、その惑星の軌道が地球の方向を向いていなければだめだということです。
これも逆を考えればわかりやすいでしょう。太陽系外の恒星から太陽を観測して地球ないしは木星を発見できる条件はどのようなものでしょうか。それは天球儀で考えた場合に黄道上に位置する恒星系からしか地球を発見できないということです。そういった位置関係にないと、遠くの恒星系から太陽を観測しても地球や木星は太陽面を通過しないからです。
具体的には星占いで知られる黄道十二星座の適切な位置にある恒星からならばトランジット法で地球を発見できる可能性はありますが、そこから外れたらトランジット法を用いても地球を発見することはできません。
「でもほとんどの恒星は銀河系の円盤と同じ向きでガスが回転してできたわけでしょう?だったら多くの恒星の軌道面はだいたい同じ方向なんじゃないの?」
という中二病らしい反論が思い浮かぶかもしれません。私も実際、中二病なのでそのことを思いつきました。それで天球儀を見て気づいたのですが、そうだとしたら黄道と天の川は一致するはずです。しかし実際はこのふたつの位置はズレている。
つまり地球から見てその恒星を横切るように惑星が通過する星系のほうがレアケースなのだということです。
実際に太陽と同じくらいの大きさの恒星の周囲を、地球と同じ距離で地球と同じ大きさの惑星が回っている場合、たまたまその軌道傾斜角がトランジット法で検出できる範囲内に治まる確率はわずかに0.47%しかないとウィキペディアに書かれています。だとすれば99.5%の恒星系については、トランジット法では系外惑星を発見できないのです。
ではそこから導かれる結論はいったい何でしょうか?それは系外惑星が発見されていない恒星を含めて、実はほぼすべての恒星には惑星系が存在していると考える方が普通だということです。
つまり太陽系の誕生モデルと同じように他の恒星も回転するガス雲から誕生したことを想定すれば、系外惑星が観測されているかいないかは問題ではなく、銀河系の2000億の恒星系それぞれには必ず惑星系が形作られると考えたほうが自然だということです。
「じゃあ系外惑星の観測活動って意味ないじゃないの?」
と思うかもしれませんが、そうでもありません。
太陽系の8つの惑星はどれもだいたいおなじ平面上で太陽の周りを回っています。これは恒星系が誕生するシミュレーションモデルで確認されているメカニズムで、渦巻状に集まり始めた巨大なガス雲は、最後は同じ平面上を回る恒星と惑星に育っていくのです。
だとしたらトランジット法の精度が上がり、かつ観測期間も1年以上の時間をかければ、その恒星系にある複数の系外惑星が次々とに発見されるようになるはずです。
そして発見された惑星についてスペクトルを分析することでその惑星がハビタブルゾーンにあるかどうか、そして水などの分子が存在するかどうかといったことはわかる。
つまりこういった形でトランジット法で観測できる系外惑星を分析していけば、地球から惑星系が観測できない恒星を含め一般的に恒星の中の何%ぐらいにハビタブル惑星が存在するのか、その確率を計算することはできるようになるわけです。
さて、将来にはもっと詳しく確率がわかるようになるとして、現時点ではどう考えることが主流なのでしょう?
まず「すべての恒星系に惑星がある」という仮定は天文学者にとっては常識になりつつあります。ガス雲から恒星が誕生する過程を大型のコンピュータでシミュレーションすると、惑星系が誕生するのが当たり前で、惑星が存在しない恒星が誕生するシナリオを作るほうがはるかに難易度が高いのです。
そして銀河系に2000億個の恒星が存在するとした場合に、ハビタブルゾーン内に地球サイズの惑星が存在する確率は5分の1ぐらいだと考えている人が多いようです。つまりオトナの科学者の予測では銀河系の中にハビタブルな惑星は400億個も存在するのです。
ちなみにその多くはプロキシマケンタウリのように赤色矮星である場合が多く、太陽と同じような恒星の周りにハビタブルな惑星が回っているケースは銀河系全体で110億個ぐらいだと予想されています。
ここは重要なポイントなので、400億個とか110億個、ないしは5分の1の確率だという数字を覚えておきましょう。だとすればざっくり太陽の近郊30光年以内にある300個の恒星のうち、60個ぐらいの恒星系には、ハビタブルな惑星が回っていると考えられるということなのです。
近場には生命が誕生しうる星がけっこうたくさんあるのです。


プロキシマケンタウリbに生物は棲めるの?

さて、すでに一度お話したように、地球から一番近い恒星であるプロキシマケンタウリにはプロキシマケンタウリbという惑星があって、それは生命が棲むことが可能なハビタブルゾーンに位置することがわかっています。それで今、わかっている範囲内の情報で、そこに知的生命が存在するのかどうかが議論になっています。
これは他の銀河系内の赤色矮星のハビタブル惑星でも当てはまる話にもなるので、この可能性を検討してみたいと思います。
情報を整理してみましょう。繰り返しになりますがプロキシマケンタウリは恒星としては赤色矮星に分類されます。直径は太陽の7分の1ぐらい。小さくて暗くて赤い恒星です。その周囲を回る惑星プロキシマケンタウリbは下限質量が地球の1.3倍程度と、地球に近い大きさの惑星で、その表面には液体の水が存在する可能性があるといわれています。
ここまでの情報を見ると地球に近い惑星のように思えますが、その実態は全然違います。
まず公転周期は約11日。つまり恒星のすぐ近くを回っているわけで、距離で言えば太陽と水星の距離よりもさらに内側に相当します。にもかかわらずハビタブルゾーンだというのは、恒星が暗いからというわけです。
ただこれだけ恒星の近くを回る惑星の場合、潮汐ロックという現象が起きます。公転周期と自転周期が同期してしまう現象です。主星に近い惑星は公転周期と自転周期が一致して、つねに惑星の同じ面が恒星の側を向くようになります。
この一番身近な現象は地球と地球の衛星である月の関係です。潮汐ロックで月が地球の周囲を回る周期と、月の自転周期が一致してしまった結果、月は常に地球に同じ面ばかりを向けて回っているのです。
プロキシマケンタウリbは同様に潮汐ロックがおき、主星であるプロキシマケンタウリにいつも同じ面を向けている可能性が高いと考えられています。そのため、恒星の側を向いた面は灼熱地獄で、特に恒星の真正面にあたる場所は400度もの高熱の白い目玉のような形になる。アイボールアース、つまり目玉のような惑星になっているるのです。
一方でその裏側は常に夜が支配する極寒の世界になり、そのどちらにも到底生命が棲むことは難しい極限環境となります。
ただその場合でもふたつの半球の中間の部分、昼と夜の中間部にはちょうどいい温度の帯状のエリアが広がり、そこでは液体の水が存在できる温度が保たれている可能性があります。そこは常に地平線に沈まない赤い太陽が輝く世界で、地球とはまったく違った光景が広がっているはずです。
2019年に放送されたNHKスペシャルでは、最新の科学データをもとにプロキシマケンタウリbに知的生命体が存在する可能性を研究した番組が放送されました。嵐の櫻井翔さんがMCを務めたので記憶に残っている方も多いかもしれません。
プロキシマケンタウリbに潮汐ロックが起きている場合でも、その中間地帯には生命が誕生している可能性は比較的大きいというのがその番組のメッセージでした。
その理由はプロキシマケンタウリbに地球と同じような大気があるとしたら、大気の対流のおかげで、生命が生息可能な領域は、トワイライトゾーンの狭い部分だけでなく、昼の側、そして夜の側に若干ですが広がる可能性がある。だとすれば多様な生命体が進化できる環境にはあるというわけです。
このようなことからNHKスペシャルでは、プロキシマケンタウリbには地球とは異なる植物や生物が繁殖しているかもしれないと想定して、その星で進化した独自の生物がどのような姿になるかを科学者に検討してもらい、それを映像化していました。
ただプロキシマケンタウリbは恒星にとても近い場所を公転していることから、いわゆる太陽風に直接さらされる危険性が高いという欠点もあります。特に赤色矮星の場合太陽以上に活発なフレア活動を起こすことが知られていて、そのフレアが放出するX線のような強い電磁波で大気が吹き飛ばされてしまう可能性も指摘されています。
大気が吹き飛ばされれば陸上に生物が育つ可能性はなくなるわけですが、ここは科学者の間でも意見がわかれるところで、フレアのおかげで逆に地球よりも分厚いオゾン層ができる可能性もあって、その場合はプロキシマケンタウリbの生命は守られるという説もあります。
また木星の衛星のイオが、木星に近いことによる潮汐効果で活発なマグマ活動が起きていることから、主星に近いプロキシマケンタウリbも、その内部は地球のコア以上に液体金属が活発に流動している可能性があります。
だとしたら地球のバンアレン帯よりも強力な磁場がプロキシマケンタウリbを覆い、強烈なフレアによる太陽風から地表を守っている可能性もあります。
結論として考えると、プロキシマケンタウリbに海と大気があって、生命が育つ環境がある可能性は中二脳で判断すると半々ぐらい。だとすれば太陽系の近辺にあるたくさんの赤色矮星の中のハビタブル系外惑星の中には、微生物よりもずっと複雑な生命が誕生している惑星がいくつかはあるはずだと考えていいのではないでしょうか。


赤色矮星に複雑な生命が生まれるのにどれくらい時間がかかる?

さて、仮にです。仮に太陽系近隣の赤色矮星のハビタブル惑星の環境が、太陽風から守られて、地球並の気温と大気と海で構成されていたとしたら、そこで誕生する生命はどこまで進化するのでしょうか。そこにサカナやカエルやネズミのような生物が棲むだけではなく、人間よりも進化した知的生命が誕生していて、地球よりもすぐれた文明が存在する可能性はあるのでしょうか。
そもそも本来、赤色矮星には太陽よりも寿命が長いという特徴があります。ですから寿命の長い赤色矮星なら、その中のハビタブル惑星にアミノ酸分子から誕生した原始生命が、より複雑な進化していくのに、地球の場合よりもずっと長い期間を想定することができます。
地球の場合、最初の生命が誕生したのは地質年代で冥王代と呼ばれる40億年以上前の時代でした。細菌やバクテリアのような生物です。
そこから本格的な生命が誕生するまでの時間は実に長い。冥王代に誕生した微生物が三葉虫や海草のような複雑な生物に進化するまでにかかった時間はそこから実に35億年です。
この微生物しか存在しなかった時代は先カンブリア時代というネーミングで知られるとてもとても長い時代です。宇宙の時間スケールで見ると、地球上には細菌や単細胞生物といった原始的な生命体だけが存在していた時代のほうがずっと長いわけです。
そして今から5億年前のカンブリア紀が、複雑な生命体の誕生の起源ということになります。この時代になって初めてカンブリア大爆発と呼ばれる生物群の爆発的な多様化が起き、そこから現在のようなさまざまな生物の先祖が出揃いました。脊椎動物が繁栄するのはカンブリア紀以降の出来事です。
宇宙生物学ではアミノ酸が比較的単純な微生物に進化する確率はそこそこ高いと考える人が多い一方で、それがカンブリア大爆発のような現象が起きて三葉虫やサンゴ、魚の先祖のような複雑な生命体へと進化する確率についてはどの程度なのか意見がわかれるところです。
地球ですらというか、それが僕たち人類が知っている唯一の例なので仕方ないのですが、複雑な生命が誕生するまでに35億年の時間がかかったわけなので、同じことが他のハビタブル惑星に起きるためにもそれくらいかそれ以上の時間がかかることが推測されるというわけです。
プロキシマケンタウリやその近辺のケンタウルス座α星AやBの場合は、星が誕生したタイミングが太陽とほぼ同時期のため、高等生命が誕生する確率については太陽と同じような時間がかかると思われます。地球が誕生して今、45億年がたったわけですが、その45億年でもまだ微生物のままかもしれませんし、逆に地球よりも10億年ぐらい早いタイミングでカンブリア大爆発が起きたかもしれません。
しかし太陽よりも歴史が古い赤色矮星もたくさんあります。そしてそのような赤色矮星を母星とするハビタブル惑星では、生命が誕生するために地球以上に十分な時間があったことになります。その点でそこからが高度な文明に発展する確率も地球より有利になります。
中二脳で考えると、太陽系から二番目に近い恒星系であるバーナード星という赤色矮星は誕生からの年齢が太陽の倍の100億年なので、この星系にもしハビタブル惑星があれば、そこで進化した生命は、高度な文明に発展するまでに十分優位な時間があったと思えてきますがどうでしょうか。


高度な文明が生まれるための生物の条件は?

ではカンブリア大爆発で誕生した複雑な生命体が知性を持つ確率はどうでしょうか。
ここで考えるべきはドレイク方程式のゴールである「電波を利用して他の惑星系の文明と通信をしあえるほどの進化」を遂げる確率です。そのような生物の条件を中二病的に挙げれば、進化のポイントとしては、
① 仲間同士で複雑なコミュニケーションができるようになる
② 手が進化して道具が使えるようになる
③ 文字が発明され後の世代に記録を残せるようになる
という3つの点が重要でしょう。
このうち一番目の条件に関しては、地球上でもそこそこ多くの生物がクリアしています。哺乳類でいえばオオカミや鹿などある程度の大きさの動物は、群れの中でお互いがコミュニケーションをして行動できます。
さらに知的なコミュニケーションということで言えば、イルカは高度な判断力を備えて仲間同士で言語をやりとりしていることで知られます。また昆虫でもミツバチは人間以上にひとつの集団が社会として成立していて、ダンスを用いたコミュニケーションで花畑のありかを知らせあったりできます。
人類に一番近いボノボは手話を教えるとかなり複雑なコミュニケーションをわたしたちとできるようになることが知られていますが、これは生命進化という観点で考えれば人類の近縁種なので、人間の進化と同じと考えてもいいかもしれません。
さてイルカがいくら頭がよくても二番目の手の進化という観点では人類のような文明を築くまでにはまだまだ長い時間がかかりそうです。イルカの仲間のシャチなどは人類よりも頭がいいという説もあるぐらいですが、ではシャチが高度な文明を築くことができるかというと、手が使えない以上それは難しそうです。
この視点では類人猿以外の脊椎動物はこの条件をクリアすることができていません。一方で別の種で多くの生物がこの条件を満たすのが昆虫です。
実際、昆虫の体は脊椎動物よりもメカニカルな観点で言えば進化していて、手足だけで6本、それに羽を加えれば8本の稼動域があることで、歩く、掴む、飛ぶといった作業を分業できる。つまり進化としては有利な構造です。
この二番目の条件である手を器用に使うというところまでは昆虫はいい形で進化を遂げていますし、時期的にも昆虫は4億年前には誕生していましたから進化に関して言えば人類よりもはるかに有利だったはずです。
ただ昆虫はその大きさの制約から、脳を大きくする余地がなく、そのことで4億年間進化が止まってしまっているきらいはあります。古代にはメガネウラのような巨大昆虫も誕生しましたがペルム紀の大量絶滅でこの世から姿を消してしまいました。
もしネコぐらいの大きさの昆虫が今日まで絶滅せずに生き延びていたとしたら、もっと早い段階で地球は昆虫文明に支配されていたかもしれません。
これに対して脊椎動物は昆虫よりも手足については構造が不利です。魚だった頃の名残で、手足は全部で4本しかありません。そのうちの2本を歩行に用いて、残りの2本を別の作業に使うという進化を遂げることを考慮すると、選択肢としては人間のように手に進化させるのか、それとも(恐竜から)鳥への進化のように翼に進化させるのか、そのどちらかを選ばなくてはいけません。
生命が自然淘汰の原理の中で生き残ることを考えると、実は「飛べる」方向に進化したほうがはるかに優位です。ですから恐竜が鳥に進化することを選んだのは、生存という観点では賢い選択でした。
実際、地球上の哺乳類は飛べないことでその運命は悪い方向へと向かいます。そもそもヒトはそもそも誕生当初は生態系の食物連鎖の中では弱者でびくびくと暮らしている存在でした。
ところが逆に人類が手を進化させ道具を使うことになったことで、ヒトは凶悪な捕食動物となります。そしてその誕生によって空に逃げることができないすべての大型動物はほぼ絶滅リストに載せられてしまったのです。
マンモスもサーベルタイガーもモアもメガテリウムも巨大生物はすべて人類の乱獲によって絶滅されられてしまいます。
その結果、現代の地球上の哺乳類を重量ベースで計測するとその95%はヒトか家畜かペットだけです。つまりヒトが地球を支配した結果、ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ウマ、ロバ、ブタ、イヌ、ネコ以外の大型動物は、その大半が淘汰されつつあるのです。
その現実を見ると鳥に進化することの有利さがわかります。いくら人類が地上を支配しても、鳥にはなかなか手を出せないでいるのですから。
話を戻すと、僕たち霊長類の先祖は翼ではなく手を選んだ。そのことで道具が使えるようになったのです。そして道具を使うことでさらには文字を残せるようになった。ここが文明への進化としては重要な点で、文字が発明されて以降、人類は記録を後の世代に残せるようになり、自分で何かを発見しなくても、過去の人から教わることができるようになりました。
こうしてわずか4000年ぐらいの短い期間で、原人だった先祖から僕たちは、電波で通信ができる人類へと進化できたわけです。


文明が誕生するまでどれくらいの時間がかかるの?

ただそう考えると、地球ではない別の星に誕生した生命の場合、地球で言うカンブリア大爆発の頃にもっと進化に適した設計をなされた種が進化すれば、人類よりもずっと早く文明に到達したとも言えるわけです。
脊椎動物に最初から8対のヒレがそなわっていれば、両生類になって陸上を歩き、そのうち4本の足で歩きながら、2本の手でものを掴み、2つの翼で空を飛ぶような進化もできたわけです。これはケンタウロスに翼がある生物をイメージして話をしているのですが、コンセプトとしてみれば進化には有利な生命ではないですか。
なので人類が奇跡のように進化したと考えることもできる一方で、人類よりも有利な初期条件で生命の誕生が始まった系外惑星であれば、文明への道筋はもっとスムースだったはずだともいえるわけです。
さて、そもそも人類は西暦1900年頃に電波で通信を初め、2000年頃になってようやく宇宙に進出を始めたわけですが、本来であればいつごろ同じような進化を遂げた可能性があったのでしょうか。
ひとつわかりやすい可能性を挙げれば今から2000年前という考え方はありえます。ギリシャ・ローマ時代の文明とその科学レベルは、1800年代の西洋文明に匹敵するものがありました。実際、ローマ時代の遺構建築物は、現在の技術力で見ても驚くべき精度で設計されています。
この時代、エジプトのアレクサンドロス図書館に集積された科学の知見は非常に進んだものがありました。だとしたらその後の戦乱での焼失がなければ、そしてエジプトの科学力とローマの科学力がひとつになって発展したとしたら、西暦200年ごろには人類は現在の科学レベルに到達していたと考えるのは不思議な前提ではありません。
さらに昔だった可能性もあります。後の章に詳細はゆずりますが、今から1万2000年ほど前にも人類史から忘れ去られた文明があった証拠が残っています。これらの文明は氷河期の終わりに起きた大洪水で消え去ったといわれていますが、それがなければ高度な古代文明が1万年前に誕生していたかもしれません。
さて、さらに歴史を遡れば、いつごろ地球上に他の惑星系を探査できるような文明が6600万年前の地球にも誕生していたかもしれません。恐竜の進化です。
最近の研究によれば、恐竜が絶滅する直前の白亜紀後半には、手が大きく進化した恐竜や、知能が高く狩りをしていた恐竜が発見されています。
1982年にカナダの古生物学者デイル・ラッセルが提唱したダイノサウロイドという概念があります。トロオドンという恐竜が体の大きさに対して大きな頭蓋骨を持ち、ある程度は物を掴むことができる手を持っていたことから、そのままこの恐竜が進化をしたとしたら、いずれヒトのような形をした高等生物に進化をしたのではないかという推論です。
この考え方は生物学的にはそれほどおかしな話ではありません。生物の進化においては収斂進化という現象があって、同じ環境下で進化をした場合、まったく違う種が同じような進化を遂げる例がいくつもあるのです。
収斂進化の例を挙げると、サメとイルカは種がまったく違いますが、小型の魚を狩るために同じような形態に進化しました。爬虫類である翼竜、鳥類、そして哺乳類のコウモリはいずれも手を翼に進化させて空を飛ぶようになりました。
同じように、獰猛な肉食恐竜が支配する地球上で、熱帯雨林でそれらの大型肉食恐竜から隠れるように暮らしてきたトロオドンの子孫が、やがて森を出てサバンナで進化を続けたらヒト型爬虫類であるダイノサウロイドに進化をするという考え方はおかしな話ではありません。
それがさらに道具、科学、文字へと進めば、6600万年前に地球上に科学文明の時代が到来してもおかしくはなかったわけです。


大量絶滅が起こらなければもっと早く文明が出現した?

ではなぜそうならなかったのでしょう。僕らがよく知っているように、恐竜は6600万年前にユカタン半島に落ちてきた小惑星によって絶滅しました。
せっかく生命が進化しようとしても、惑星の場合、空から小惑星が墜落してきたらそこで進化が止まりリセットされます。そしてそれは地球だけでなく、すべての恒星系で起きる可能性がある天災です。
地球はこれまで恐竜の絶滅に匹敵する生物の大量絶滅を5回経験してきました。三葉虫の大半が絶滅したオルドビス紀末の大量絶滅、デボン紀後期に起きた甲冑魚類を絶滅させた大量絶滅、海陸すべての95%の種を絶滅された史上最悪のペルム紀末の大量絶滅、アンモナイトを絶滅させた三畳紀末の大量絶滅、そして恐竜を絶滅させた白亜紀末の大量絶滅です。
白亜紀以外の大量絶滅では大陸の分裂によるマグマの噴出や、海洋の無酸素状態の発生などさまざまな学説が提唱されています。が、その一方で、三畳紀末やペルム紀末については白亜紀同様に巨大隕石が衝突した痕跡も発見され、それが原因ではないかという説も有力です。
そうだとすると、カンブリア紀に生命が爆発的に分化して以降の5億年間で、地球は約1億年に一度のペースで、巨大隕石の墜落でその生命を絶滅させてきた可能性もあります。そして地球を取り巻く宇宙環境を考えると、そのような悲劇が繰り返される蓋然性は十分にあることも理解できます。
このことからわかることがひとつあります。生命が誕生する可能性がある系外惑星のうち、巨大隕石の直撃を経験する確率が地球よりもはるかに小さい惑星があれば、そこには進んだ文明が誕生している確率は高いということです。
たとえばプロキシマケンタウリbはその条件に当てはまるかもしれません。公転軌道が恒星に近すぎるからです。地球の場合、1億年に一度のペースで大きくなった生物が死に絶えて進化が振り出しに戻るという過酷なルールで生命の進化レースが行われてきましたが、そのような小天体による大量絶滅が起きない環境の星ならば、一度カンブリア大爆発のような現象が起きて複雑な生物が誕生したとしたら、地球で5億年かかったのよりもずっと短い期間で、文明を持つ生命まで進化する可能性があります。
さらに言えば地球では冥王代においても細菌が複雑な生物に進化し始めた段階で隕石による大絶滅が起きていたかもしれません。巨大隕石が落ちなければカンブリア大爆発ももっと早く起きていたかもしれないわけです。
地球でも小惑星が定期的に激突しなければ、三葉虫やカンブリア紀のアノマロカリスのような生物がそのまま進化することで、人間よりもたくさんの手を持つ二足歩行生物が地上に繁栄していたことでしょう。たとえば三葉虫の中で脳神経系が巨大に発達した生物が3億年ぐらい前の地球においてすぐれた文明を築いていたかもしれないのです。
そう考えるとプロキシマケンタウリ、バーナード星など赤色矮星を母星とする惑星系が、その進化上の優位を持つ環境であり、かつそのような赤色矮星が数的には銀河系には最も多い恒星であるという事実に、中二病の私はロマンを感じるわけなのです。


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