がん治療を変えられるのは誰なのか? #deleteCリレー連載 (3/8)
けいゆう先生、ヤンデル先生からバトンを受け取りまして、deleteC大作戦を応援するリレー連載記事を書かせてもらいます。
deleteC大作戦は資金不足に苦しむ日本のがん研究を応援する企画です。Cancerの頭文字のCを消せというところから名前は来ています。
賛同企業の対象商品の「C」を、好きな形で消して撮影した写真をハッシュタグとともにSNSで投稿すると、1投稿につき100円が寄付としてがん治療研究に贈られる仕組みです。対象期間は2020年9月30日(水)までです。
私もやってみました。CalbeeのCを消してみました。米国で協賛企業の商品を探すのが大変でした(^_^;)
ぜひ、皆さんもやってみてください。
日本のがん研究が抱える資金不足問題
なぜ、このような企画が行われているのでしょうか?また、私たち、がん研究者や医師がこのプロジェクトを盛り上げたいと、なぜ思っているのでしょうか?それは、日本のがん研究に深刻な資金不足があるからです。
こちらはdeleteCのサイトに掲載されている参考資料です。
例えば、日米で比較すると、がん研究にあてられている国の予算は約20倍も違います。人口比が約3倍であることから考えても、とんでもない違いです。
実際に、私はがん研究を日本でも、米国でも行なったことがあるのですが、圧倒的な研究資金の違いに大きな影響を受けてきました。
日本ではまとまった研究資金を得ることが難しく、行いたい研究を十分にすることができませんでした。それが米国に渡って研究をしようと思った原因の一つでもありました。
また、研究資金が十分にないために、職自体を維持することが難しくて、研究の世界から去らなくてはいけなかった同僚もいました。
日本のがん研究を進めるためには、研究資金をいかに拡充するかが大きな課題なのです。
がん研究を変えられるのは誰?
研究支援は研究を実施することを可能として、そこでの発見から新治療開発へとつながり、最後は患者さんの命を救うことに結びついていきます。研究をスタートさせる支援は本当に大事です。
皆さんもそのことはお分かりいただけるのではと思います。しかし、自分とは直接の関係はない話だと思われていませんか?
「政府や製薬会社がもっとお金出して、研究を進めてあげてよ」と思ってくれたかもしれませんが、あなた自身がそこに直接関わることは想像しなかったのではないでしょうか?
一つ言わせてください。
「がん研究を変えられるのは、国、製薬会社のみではありません。あなた自身も変えられます」
何を言っているんだろうと思ったかもしれませんが、アメリカで起こっている現実を見ると、ご理解いただけるのではと思います。実は4歳の女の子が、アメリカではがん治療を大きく進歩させて、たくさんの患者を救っています。
Alex Scottとレモネード
Alexというアメリカの女の子の話を紹介させてもらいます。Alexは1歳の誕生日の少し前に、神経芽腫という小児がんであると診断をされてしまいます。この時点ですでに脊髄にも転移がある進行がんの状態でした。その後、手術・抗がん剤治療などの長く辛い戦いの日々を送ることとなります。
Alex Scott、ALSF財団ホームページより引用
そんな中、4歳を迎えたAlexがお母さんのリズに、こんなことを言います。
「私が退院したら、レモネードスタンドをやりたい。お金を集めて、それをお医者さんに渡して、他の癌の子供達を救うのに使ってもらいたい。私も救ってもらっているように、他の子を救って欲しいの」
レモネードスタンドは、家の軒先・道などで、子供達がレモネードを街頭販売して、お金を集めて、お小遣いにしたり、みんなの部活動の資金にしたりするもので、アメリカでは一般的に行われている子供たちの活動です。
Alexは退院後に、実際に家の前でレモネードの販売を始めました。わずか4歳の女の子が癌を抱えながら、自らの意志で始めたその活動は大きな話題となり、わずか50セント(約53円)のレモネードを求めて、たくさんの人が遠方から駆けつけて、1日の売り上げは2000ドル(約21万円)にも達したのでした。
やがて、この彼女の勇気ある活動は大きなムーブメントとなって、全米中に広がることとなります。小児がんの子供のためにと全米中で、レモネードを売る子供たちの姿が見られるようになります。Alexは癌が進行して、どんどん状態が悪くなるなかでも、積極的に活動を続けていき、4年間で70万ドル(約8000万円)ものお金を集めることとなります。
2004年、残念ながらAlexは8歳で短い生涯を終えることとなってしまいます。しかし、彼女の強い意志は生き残り、今でも大きな広がりを見せています。
彼女の意志をついで行われている小児がんの研究支援財団であるAlex's Lemonade Stand Foundation(ALSF)は活動を続けていて、現在まででなんと1億7500万ドル(約184億円)ものお金を集めて、アメリカでの小児がん研究を支える巨大な財団へと成長しています。実際に、私もこの財団の研究支援を受けていて、その研究支援のおかげで、小児の脳腫瘍である髄芽腫の治療開発の研究を行なえています。
あなたもがん研究を手助けできる
今回、Alexさんの話をしましたが、米国には同様の話がたくさんあって、個人レベルの活動や支援が、がん研究を進めるための大きな原動力となっています。ただ、日本ではこのようなムーブメントはあまりみられていませんでした。
もちろん、頑張ってくださっている方もいて、様々な活動はあります。今回のdelete Cのような貴重な活動も見られてきています。しかし、まだまだ足りておらず、もっと支援の輪が広がってくれればと思います。
少額を寄付しても大して変わらないだろうと思われる方もいるかもしれません。しかし、このAlexの例を見てもらえばわかるように、たった50セント(53円)でも世界は変えられます。みんなの思いが集まれば、とても大きな力となります。
がんに対して特別な感情を抱く人もいるかと思います。ご自身が病気で苦しい思いをしているかもしれないし、大切な方が戦っているかもしれません。大事な方をがんで亡くした方もいるかもしれません。
多くの思いがあると思います。その思いを、様々な活動を支援することで、未来の治療につなげていくことができます。
このdelete Cの活動からでも参加してみませんか?あなた自身もがん治療の未来を変えるプレイヤーの一人になってみませんか?その思いはきっと未来の誰かの命につながると思います。
ぜひ、がん研究を支援する活動にご協力をお願いします。小さな思いをたくさん集めて、みんなで未来を良いものに変えていけたら、素晴らしいことだなと思っています。
大須賀覚