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やすすの電話[YDD・やすすのダメ出し電話]

プロローグ

ひな会いにハマり出した2019年。
巨匠・秋元康のキャリアをボンヤリとしか把握していなかった自分は、氏の実像を自分の解釈で固めるため、ネットサーフィンに乗り出した。

そこで2013年に制作されたであろう、氏を3ヶ月に渡り追ったというドキュメンタリー番組に出会った。

この番組の主人公が秋元康である事は間違いない。
ただし、AKBグループ、乃木坂46はじめ、氏が手掛けるアイドルグループに携わるスタッフ、作曲家、ダンサー等、クリエイター達もこの番組には欠かせない重要なピースだ。

そしてこの秋元康ドキュメンタリー影の主役は、秋元康をカメラに収め続け、そして自らの手で編集作業をこなしたであろうディレクター氏である。


本編

序盤は非常に重苦しい空気の連続である。

「予定調和じゃダメだろ」
「前と同じじゃ意味ないだろ」
「とにかく考えろよ」

会議の度に厳しい言葉が秋元康からスタッフたちに向けられる。
その語気は強い。やはり巨匠と呼ばれる人の仕事ぶりは鬼気迫るモノがある。
普段目にする温厚そうな秋元康と、クリエイター秋元康は別人なのだ。本人の言葉を借りるなら、

「AKBの前田敦子と、女優前田敦子には、
東京とパリくらいの時差がある」

前田敦子写真集・不器用の帯より

という事だろう。

次に女性起業家達のセミナーに登壇する秋元康。
ここでも勿論、登壇前の打ち合わせでその主催者である女性経営者たちにも牙をむく。

「みんな頭が硬すぎるじゃん」
「段取り通りだとこぼれる物がないじゃん」

トークセッションを担当する起業家4人を登壇前に紹介された事が気に食わなかったらしい。
挨拶をしない方が不自然であり、それに付随して普段の事業内容くらい言わせろやとも思うが、氏に言わせればその自己紹介を壇上で行えば広がりが生まれただろうとの事だ。
とにかく予定調和を嫌う秋元康。

10数年前の今野義雄氏も叱られる。

「後発で、もうAKB SKE NMB HKTがいて、そこに乃木坂が出てきて、今までと同じような希薄化したミュージックビデオが出て、どこで勝つんだよ!」
「だから違う事をやれって、この間も同じ事言ったじゃんお前さ!」

今の乃木坂人気を考えると、今野氏がこの後胃潰瘍に数回かかっていても疑問に思わない。

番組は中盤からAKBグループの製作陣がフューチャーされていく。
ただし総合プロデューサーは秋元康であり、また、氏は多忙すぎる。今でもなお、AKBグループ、坂道グループはじめ、とにかくプロデュースする案件を抱えすぎていると素人目には思わざるをえない。
しかし本人に妥協は一切見られない。
深夜から明け方になっても納得のいくまで作詞作業に没頭し、随時製作陣にダメ出しも送る。

結果、そこに製作陣の悲哀が現れる。

密着カメラはAKBのアンダーグループ、そしてチームK、チームBの3班のミュージックビデオ撮影を追っていた。

ただし、どの班も歌詞が途中で変更されたり、そもそも歌詞が届いてなかったり、もうメチャクチャである。もちろん作詞は秋元康。
氏が歌詞を変更すれば、即時現場もそれに対応しないといけない。
氏の歌詞が届いていない現場ではひたすら待つしかない。撮影出来るのは歌詞と関係ないイメージ部分だけ。歌詞がないと口パクの撮影すら出来ない。

お手本用の仮歌撮り、歌割り、ダンスのフリ、メンバーへのフリ入れ、これら(他にも山ほどあるだろうが)全ては秋元康の歌詞が送られてこなければ動かないのである。それが2〜3現場同時に動いている。もう訳が分からない。素人目にはもっと1曲1曲に向き合えよ!と言いたくなるが、そういう事ではないのだろう。

ネット時代の弊害か。すぐに連絡が出来る分、クリエイター達は秋元康に振り回されている。

次に、そんなクリエイター達への密着とインタビューが数人繰り返され、次は作曲家、井上ヨシマサ氏の番になった。

スタジオでインタビューを受ける井上氏。
朝方でも秋元康からダメ出しの電話がかかってくると、即時作業に取り掛からなければ他のクリエイターの仕事も滞り、迷惑かかるらしい。

と、その時だった!

井上氏のインタビューが終わり、画面には急遽夜の街並が写し出され、切ないギターのイントロが流れはじめた。

曲は今の今までインタビューを受けていた井上ヨシマサ氏が作詞作曲家の
YDD「やすすのダメ出し電話」である。

夜の街並みの後は疲れ切ったクリエイター達が写し出され、井上氏の切ない歌声が静かに響く。

みなさん、おわかり頂けただろうか?

秋元康のドキュメンタリー番組で、氏を支えるクリエイター達にスポットライトが当たるのは分かる(予定調和)だろう。

ただし、その後に流れた歌は番組の主役であり作詞家である秋元康の作品ではない。
作曲家、井上ヨシマサ氏の作詞作曲、本人の歌唱であり、それに合わせてクリエイター達のうなだれる姿がダイジェストで流れた。
そんな密着ドキュメンタリーを他で見た事があるだろうか?

そう、この3ヶ月で秋元康のダメ出しを1番聞いてきたのは、カメラを回しながら密着し続けたディレクターその人だろう。

「とにかく考えろって!」
「今ある物と同じじゃ意味ないだろ!」
「他と違うことを考えろって!」

秋元康から言葉のシャワーを浴びてきたディレクターは、これまでにない密着ドキュメンタリー番組を生み出したのであった。

、、、

「いや、お前が成長するんかいっ!」


エピローグ

(ドキュメンタリー本編も気になった人は検索してみよう!)

秋元氏の仕事量は、アイドル事業だけで見ても当時より増えているのではないだろうか。

日向坂ファンになった自分には、今の秋元康の制作スタイルが気になるところである。

もう1回あのディレクターに密着してもらって、今の秋元康のドキュメンタリー番組を観てみたいなぁ。

もちろんよく考えて、他と違う、当時と違うモノを!

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