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俺のイングリッシュヒーロー

「この人みたいに弾きたいからこの楽器を始めた、続けている」と言えるほどの、強烈な憧れを抱かせるプレイヤーのことを、「ヒーロー」と呼ぶことがあります。
私も色んな楽器を弾きますが、それぞれにヒーローはいるんですよ。
ギターヒーローはEd Sheeranと斉藤和義、ベースヒーローはMarcus Miller、ウクレレヒーローは、まあ笑っちゃうほどベタすぎますけどJake Shimabukuro、とかね。

そういう意味では、「この人の言うことを字幕無しで理解してみたい」と思わせるほど、英語を勉強するモチベーションを上げてくれるヒーローもいると思うんです。私のイングリッシュヒーローは、これはもう紛れもなく、Michael Jacksonですね。

MJのことは、中学の友達のT君が教えてくれました。皆さんの周りにも一人くらい、中学生にして洋楽をガンガン聴きまくる、ませた友達っていませんでした?なんか妙に金持ちで、親父さんが収集したLPを聴き漁ってる、みたいな。
そのT君が、「Michael JacksonのLive in BucharestのMan in the MirrorのパフォーマンスをYouTubeで観ろ」と教えてくれたのが、MJを聴き始めるきっかけでした。アルファベットが多すぎて訳が分かりませんでしたが、言われた通りに聴いてみたらもう一発。そういうわけで、私が彼の音楽を聴き始めたのは、彼が亡くなる前年の2008年頃からです。だから彼のことを生で見たこともなければ、彼が人気絶頂だった頃の雰囲気もよく知りません。

でも、当時でさえBillie Jean、Bad、Smooth Criminalなどの名曲が創られてから20年以上経過していたのに、どの曲も全く古さを感じさせない独特の魅力がありました。まだベンチャー企業だった頃のYouTubeで、それはもう擦り切れるほどミュージックビデオを観ました(今思えばあれ全部違法アップロードの動画だったなぁ)。

それから彼の慈善家としての側面を発見するのには、あまり時間はかかりませんでした。We Are The Worldの活動を通じて飢餓に苦しむアフリカへの支援を呼びかけたこと、Heal The Worldの活動を通じて貧困児童の支援を行ったこと、恵まれない子どもたちをNever Landに招待したこと(この件については論争があるのは当然理解してますよ)、などなど。

彼のドキュメンタリー映像は腐るほど観ましたし、彼のインタビュー動画のMP3をダウンロードして、iPod nanoに入れて寝る前に聴いてみたりもしました。
でもやっぱりねー、聞いたって少しも分からないんですよ。日本の英語教育では、フォニックスもリエゾンもリダクションも誰も知らないし教えてくれない。当時はディクテーションやシャドーイング勉強法もあまりポピュラーではなかったので、どうにもMJの言葉を聞き取れるようになる手立てを知りませんでした。

それでも、日本語字幕が付いていないMJの動画を理解したいな、とはなんとなくずーっと思っていて。それで英語だけはコツコツ勉強していました。大学生になった2010年代中盤には分かりやすい発音理論の本が徐々に出始めて、同時にシャドーイングが巷で流行り始めました。流行りに乗って試してみると、呪文だった英語が一気にアルファベットに聞こえるようになりました。

これでMJのインタビューが聴けるようになる!と喜び勇んで聞いてみたら、
「え、なにこれ?」

TOEICのリスニングパートは大別して、US、UK、AU、NZの4種類のアクセントで話されます。TOEFLや英検の場合も大体一緒だけど、多少USとUKの割合が多いかな。当然これらのアクセントにはそれなりに耳馴染みがありました。
でもアメリカ人であるMJの英語は、中西部のアクセントをベースに、独特のソフトさを帯びた、とてもエキゾチックな、聞いたこともないような言葉でした。

うーーーん、7割くらいは聴こえるんだけど、どうしても字幕が無いとディクテーションは無理だな〜。でもYouTubeの自動字幕はポンコツだしなぁ。とかなんとかブツブツ言いながら、まあ中学生以来にMJのドキュメンタリーやインタビューを観まくる日々が再開しました。
今では大体9割がた初見で聞こえるようになりましたし、2回聞けばまず分かります。だいぶ時間かかりました、ここまで来るのに。独学だし、センスも悪くはないけど抜群でもないと思うので。英語の勉強って、己の未熟さに真正面から対峙するドMな側面が多分にあるので、基本的には苦痛ですね。たまたまMJだからできただけ。MJが何のために生まれて、何のために生きて、何のために亡くなったのか。とっても知りたかったし、今でももっと知りたい。

そんなわけで、私はMJの英語への憧憬を、たまたま英語自体の向上心へコンバートできましたという話です。
ベースやギターや短歌もこういう風にいけば良いんですけどね。なかなか思うように上手くなれないからもどかしいもんです。

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