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信用創造シリーズ⑧信用創造から考える預貸率の謎



 

預貸率という指標があります

貸出金残高を預金残高で割った値のことを「預貸率(よたいりつ)」と言います。この値が大きいほど貸出が活発に行われており、景気が良い状態、
逆に低いときは企業の投資意欲が低く景気が悪い状態とされています。



2021年9月末の時点で国内106の銀行を合算での預貸率は約60%と
過去最低の水準でした(出典:商工リサーチ)。もともとデフレから脱却していなかった日本経済にコロナの影響も重なり、融資が伸び悩んでいることが分かります。

さて、この預貸率ですが、信用創造の仕組を理解したうえであらためて見直してみると、不思議なことに気が付きます

どういうことかというと、正しい信用創造の理解をすれば、貸し出しをした瞬間に同額の預金が生まれ、返済したときに貸出金、預金の両方が消滅する(減少する)わけですから、預貸率というのは全体でみたら常に100%じゃないとおかしいんじゃないの?という疑問です(※預金口座から現金を引き出したり、逆に現金を預け入れたりもしますが、預金残高に比べれば影響は小さいです)。

多くの人は、銀行は預金を預け入れてもらってそのうちの一部を貸し出しに回していると考えるので、預貸率が100%を下回っていても疑問には感じないことでしょう。

では、なぜ預貸率は全体としては100%を下回っているのでしょうか?
もったいぶっても仕方ないので、答えを言います。それは預金が増える要因が銀行による融資以外にもあるからです。それは何かというと、政府が財政支出をした時です

政府の予算に基づく支出には、例えば年金の支払いとか、道路やダムなどの公共工事の代金の支払いがあります。政府が年金受給者や公共事業を行った業者に対して支払いを行った時、分母の預金だけが増加します。したがって、全体として預貸率は100%を下回るのです。

個別企業の預貸率

銀行は企業に対して融資を行う時だけでなく、その後も継続して融資先企業の経営状態を分析します。企業の経営状況が悪くなって、返済を受けられなくなると銀行にとって損失になるからです。

その一環として、個別企業の預貸率を計算することがあります。融資先A社に対する貸出金残高を自分の銀行に預け入れてもらっている預金残高で割ります。こうして算出したA社の預貸率というものは、銀行にとって低いほど安全性が高いということになります。預金残高が自分の銀行にあればそのお金で返済を受けられるため、回収できないリスクが低くなるからです。

ただし、融資先に対して融資をする代わりに定期預金などを強制することは銀行の優越的地位の濫用とされ、禁止されています(歩積両建の禁止)。
このように個別企業に対する融資の安全性を観る指標としても使用されています。

個別銀行の預貸率

個別の銀行の全体としての預貸率は、銀行の業績とかかわりがあります。
預貸率を上げることが貸出実績を積み重ねて収益をあげていることを表します。ただし、預貸率が100%を超えている状態はオーバーローンと呼ばれ、銀行自身の経営が不健全であると言われています。このオーバーローンの
状態のとき、一般的には銀行は日銀などから借金をして貸し出しをしていると説明されることがありますがこの説明は正確ではありません。単にローン実行によって発生した預金が他行に流出していったというだけです。

このオーバーローンと準備預金制度との関係を整理しておきます。準備預金制度は貸出ではなく預金の一定割合(1%弱)の日銀当座預金を持たないといけないというルールですが、オーバーローンの時はむしろ預金が少なくなっているということですので日銀から借り入れをする必要性は低いと言えます。オーバーローンだから日銀から借りているという説明はそういう意味でもおかしいのです。

マクロ(すべての銀行)での預貸率

 初めに商工リサーチのデータで示したように銀行全体の預貸率は約60%です。預金は融資をした分増えて、返済すると減るものですが、政府が財政支出をしたお金はそのままマネーストックの一部として残り続けます(お金自体は世の中をぐるぐると動き回りますが)。財政支出とは具体的には年金の支払いや公共工事の代金などのことです。

マクロでみて預貸率が下がる場合というのは、もちろん不況で貸出が伸び悩んでいる時が典型的ですが、不景気の時は政府が財政支出を増やします。
そうすると預金が増えますので結果的に預貸率も下がることになるのです。

今日のまとめ

今回は信用創造とも関係のある『預貸率』という指標をご紹介しました。
信用創造を誤解している人は、銀行は預金を預かってそのうちの一部を貸しているから預貸率は100%を下回ると考えますが、実際は違います。

マネーストック、つまり銀行預金は銀行の融資によって発生しますが、政府が財政支出をした際にも発生します。2020年に新型コロナウイルスが発生し、定額給付金を受け取ったことでこのことが実感できたという人も多いのではないでしょうか。

次回は政府が国債を発行して、財政支出をすることでマネーストック、つまり私たちの預金が増える仕組みについて説明したいと思います。

今回は以上です。

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