佐鳥理

東京在住の野鳥ファン。小説を書いてます。佐鳥理名義で「紅茶と猫と魔法のスープ(ことのは…

佐鳥理

東京在住の野鳥ファン。小説を書いてます。佐鳥理名義で「紅茶と猫と魔法のスープ(ことのは文庫)」「飛び立つとき(とりのこ制作室)」、satori名義で「二十二時のにわか雨(ネット文庫星の砂)」など。 書籍・イベント情報など→https://satorisatori.jp/

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〈短編小説〉七色 nanairo

1  山手線のホームから階段を上り、乗換えの人たちが行き交う広場を左に抜ける。そこには有人切符売り場の窓口が並ぶ、都心部では珍しく、僕にとっては懐かしい光景がある。すぐ隣の自動改札を抜ければ、そこはもう京急線のホームだ。  学生の頃、品川駅から電車に乗るたびに耳にしていた、最終目的地を告げるアナウンスが流れる。 『三崎口』  名前しか知らなかった終点駅に、あらためて行ってみようと思い至ったのは、僕が社会人になってから五回目の夏だった。  八月の湿気を帯びた風と共に、快特電

    • 〈短編小説〉新しい街

       大粒の雫が落ちてきて、アスファルトに水玉模様が広がっていく。街路樹の下に駆け込むと空が鳴った。  どうしてこんなタイミングで家を出てしまったのだろう。わたしが「最低」と呟いたとき、近くのカフェから出てきた、白髪交じりの店員の女性と目が合った。  店の前に可動式テントを延ばし、傘立てを置く。彼女が店内に戻っていくと、そこは通りすがりの人たちの一時避難所になった。折りたたみ傘を紫陽花のように鈴なりに咲かせ、散っていく。  今朝、同棲中の恋人と喧嘩をした。部屋着のまま、何も

    〈短編小説〉七色 nanairo