TEAM SHACHI『SPOT ~STAGE at 奥三河~』が すごい。 ーポジティブTEAMは逆境をも楽しむー

「道なき道を切り拓いて
 誰も辿り着けない場所へ」
こう歌われる『Rock Away』のパフォーマンスで、その未知なるステージは幕を開けました。

 2020年9月26日。TEAM SHACHIは、新たな試みに挑戦しました。シャチ史上(おそらく)初の有料配信ライブである「SPOT ~STAGE at 奥三河~」、通称「シャチSPOT(※1)」。いきなりですが、これが、ものすごかったのです。忘れられません。

 シャチSPOTとは、「私達が行った場所(spot)がステージになる」というキャッチコピーに示されたとおり、屋外や 通常ではライブを行うことのない施設など様々な場所を舞台とし、そこで配信ライブを行うという新しいエンターテインメントショーとの事。
 この ~STAGE at 奥三河~ は、事前に収録した映像と当日生の演技とを繋ぎ合わせながらリアルタイムで完成していくもので、ちょうどミュージックビデオを作り上げるような、それをがっつり1時間半ほど生配信でやるという企画でした。観客を入れてのライブが実施できないという逆境において、TEAM SHACHIは道なき道を切り拓いて、今可能なエンターテインメントを開発してくれたのです。

 しかしながら、その斬新さとクオリティにも関わらず、披露されてから今のところ、ライブの模様が映像ソフト化されることはありませんでした。非常に濃密な内容で、新鮮なパフォーマンスとアイディア、そして構成、撮影等あらゆる高度な技術がぎゅっと集結したひとつの作品だっただけに、また会いたいのに会えない、まるで儚い ひと夏の思い出であったかのような、幻想的な記憶として仕舞わざるを得ませんでした。

 それがなんと! 2022年2月11日の20時から、TEAM SHACHIの公式Youtubeチャンネル内にて、無料プレミア公開されることが発表されたではありませんか。ただし、2020年の時とは異なるカメラ割(ノー編集版との公式情報あり)の映像らしく(※2)、どの程度かはわかりませんが、期間も限定のようです。
 いずれにせよ、とにかく毎秒ごとに見どころが訪れると言ってもいいほど情報量の多いこのライブを、余すことなく堪能したい気持ちがまずひとつ。そして、シャチSPOT at 奥三河とは一体何がそんなにすごかったのか、私個人の視点ですが、この機会に記憶だけでなく記録にまとめておきたい気持ちで、少し急いで書いてみることにしました。
 ただ、やはり筆者の記憶に頼るものであり、またその割にはついつい細かく書いてしまう性分なため、ライブ内容は見てからのお楽しみとされたい方は中盤特に ■ライブ中の一押しビックリポイント はお気を付けください。と言いつつ、1人でも多くの方に、どれどれ観てみようかしらと思っていただけますようにと、欲張りな願いを込めて。

(※1)奥三河以降も、「シャチSPOT」と題して、各曲のイメージに沿った"意外な"場所を舞台にしたダンスパフォーマンスが 何曲分か公開されていますが、今回シャチSPOTと呼ぶ際にはこの2020年9月26日に行われた有料生配信のことを指すとしています。

(※2)2022年2月11日に配信された映像を視聴したところ、私の認識する範囲では2020年当時の映像と異なる点はなかったように思います。当時生配信した状態から編集を加えていない、との意味であるという理解に至りました。


■当日まで
 2020年の9月頭にシャチSPOTが実施されることが発表された時は、どんな配信になるのか私もあまり想像がつきませんでした。歌って踊って駆け回る? カメラワークが凄い? 雨が降ったとしてもそれはそれで……? 曲もガッツリやる?
 新しいことを世に投じる時というのは、興味を持ってもらえるか、ちゃんと観てもらえるか、色んな不安要素ゆえになかなか勇気も必要だと思います。TEAM SHACHIも、実施が発表されてから、公式SNSを2日置きぐらいに更新して文章や動画で楽しみポイントを伝えたり、Youtube番組「柚姫の部屋」等でマネージャー自らが出しうる限りの情報を発信したりされていました。

[参考]Twitter TEAM SHACHI公式
▼発表当初

▼開催直前

 そして当日が近づくと、BARKSにてシャチSPOTに関するインタビュー記事が公開されました。企画段階でのシャチSPOTの何たるかと当日の全体的な注目ポイントについては、直接メンバーの口から語られている記事本文をぜひご参照ください。
 また記事では、世の中全体がどうしても自粛志向となる中、ご多分に漏れず行き先を幾度も阻まれたTEAM SHACHIが、その間していた取り組みについても触れられています。今できることを模索し、様々な技に磨きをかけていた様子が分かります。

[参考]BARKSインタビュー記事(2020.9.22)
https://www.barks.jp/news/?id=1000189375

 なにしろ、完成形を誰も見た事がないもののイメージを共有するのは、至難の技。本当に実現できるのか、試行錯誤を重ねに重ね、あとは本番うまく花開くことを願いながら大切に火薬を詰める花火師のように、ワンチームで互いを信頼しながら準備が行われていたのかなぁなどと想像します。本番まで、いえ、全てが無事完了するまでのドキドキがこちらの心臓にもリンクするようです。
 だけど、これまでにいつでも「私達はどんな時も楽しむプロであり、楽しませるプロ」なのだと胸を張ってタフ民(ファンの呼称)を勇気づけてきてくれたシャチ。そして確かに、自然と口角が上がるような楽しい世界を見せてくれるシャチ。広報を見れば見るほど「今度は何が起こるんだ!?」と興味が沸々!


■当日
 「シャチSPOT at 奥三河」当日の開始時刻は16時30分からと、ちょっと珍しい時間帯。でもこれにも重要な意味があったことを後に気付かされます。
 舞台となるのは、愛知県北設楽郡にある山の中の旧小学校で、現在は「東栄町体験交流館のき山学校」として運営されている施設です。夏の終わり、夕暮れの学校というのがまた、独特のノスタルジーをくすぐります。
[参考]のき山学校HP
https://tehohe.com/nokiyama/

 季節の変わり目で山間地域の天気は安定せず、ライブの開始時刻が近づく頃に夕立が降り始めてしまいました。もしこのまま雨が降り続けば、「雨パターン」のセットリストで進行することになるようです。でもまだ直前で止むかもしれない。その場合は「晴れパターン」のセットリストとなる。メンバーはもちろん、撮影、音響、配信他全関係者の皆さんが集中して頭を整理する緊張感が伝わってくるようです。
 結果的には、直前で雨は上がり、まだぬかるむ校庭で『Rock Away』から軽快にスタートしました。


■ライブ中の一押しビックリポイント
 ここからは、私が中でも特に驚かされた演出に絞り、独断偏見甚だしく紹介したいと思います。

〇「おうち時間LIVE」があったから
 シャチSPOTでは、アコースティックにアレンジされた楽曲も披露されます。そのアレンジは、BARKSのインタビューでも詳しく述べられた「おうち時間LIVE」で生まれたものでした。
 2020年の4~5月、初の緊急事態宣言が発出され、会場でのライブは中止に、無観客配信ライブさえも2度も延期になった頃、それでもこのチームは諦めなかった。配信ライブを行う予定であった日、メンバーが各々の自宅からリモートセッションを3曲行ったライブ、「おうち時間LIVE」がYoutubeで公開されました。それも、2度延期になったそのどちらの日にも、第1弾、第2弾という形で新しいものを公開されたのです。
 延期が決まってから配信まで、きっとかなり限られた時間と環境であったにも関わらず、既存曲は新しいアレンジで演奏され、演出は各自の家という状況を活かしたアイディアとユーモアに溢れ、新たな魅力が引き出された立派な映像作品になっていました。
[参考]『おうち時間LIVE 第1弾』
https://youtu.be/RJDW7h3FcNU
[参考]『おうち時間LIVE 第2弾』
https://youtu.be/VZdccL9ZhFk

 あまり聴く機会のないアンプラグドでの歌唱は、私には音程の正確さや発声の美しさが粒立って聞こえ、改めて4人の歌唱力のポテンシャルに はっとしました。
 ピンチをチャンスにとは まさにこの事。シャチSPOTでのパフォーマンスには、おうち時間で得たものがとてもポジティブに反映されていました。さらに、観客ありでのライブが少しずつ戻ってきた2021年のツアー等では、アコースティックアレンジでの"聴かせる"パートが随分と増え、新たに身に着けた武器が早速生かされていることがわかります。

〇イントロの長台詞が…
 秋本帆華さんのセリフで始まる曲があります。でも、ん? なんか原曲よりセリフ長くないですか?? 広い校庭を軽やかに走りながらアドリブっぽく自由に喋っている風ですが、完璧に拍を合わせて「お、ま、た、せ」とぴったりセリフを言い切った時には、すごすぎてもはや笑えてくるほど感心します。何より、かわいい。

〇もともとある曲の世界観がさらに深化
 学校、教室、そして大自然という、そこに存在している物や風景を演出の一環として活かすことで、楽曲が表現する世界にぐっと深みが出るから驚きです。またその曲とシチュエーションとの組み合わせがお見事で……。
 例えば、架空の列車がモチーフになっている曲があります。未来は予測不能だけど、これから始まる旅を楽しんでやろうという希望に満ちた楽曲(という筆者の解釈)。歌詞にも「車窓を流れる風景」「あらかじめ決められたレールは走れない」「静かな夜の向こう側」といった言葉が出てきて、何となく夜空を翔ける銀河鉄道が連想されます。これが、視聴覚室や学芸会を思い出すアレを使ったセットで曲が始まった時なんてもう私は銀河にいました。心地よいテンポにきらびやかな編曲のこの曲と、電飾の瞬きが実によくマッチして多幸感が最大に。
 他にも、ミュージックビデオが学校の教室で撮影されている楽曲があり、そのMVと同じ構図で実際に生歌を披露するというセルフオマージュが実現したり、森林に棲むとされる精霊「こだま」が包む優しい世界を唄った楽曲では、メンバーが森の中に現れ、里山がこの曲のためにあるステージへと早変わりしたり。
 発想の勝利といいますか、次々と世界観が自由自在に操られていて、とても幸せな夢を見ているような心地にさせられるのです。

〇和太鼓との共演と職人技
 舞台は講堂に移り、和太鼓集団 志多ら の皆様による素晴らしい和太鼓と和楽器の演奏。高鳴る心音と呼応するような響きと躍動感にうっとりしていると、終盤、カメラがゆっくり引きの画角になっていくと思ったら……! そしてここでまさかの定番盛り上がりアッパーチューンのイントロ。
 講堂にて、和楽器、それから音域と音量がばらばらな管楽器6本、そしてメインの伴奏である音源を流しながら4人のボーカルをコントロールし、全てを調和させる。さらにそれをリアルタイムで配信するという音響職人技術。天晴れ、素人目にはもう摩訶不思議です。音響リハーサルだけでも、相当な努力と時間が割かれたであろうことは想像に難くありません。
≪過度のネタバレかもしれませんがしかもこれ、推測だがそのひとつ前の曲が生歌唱だとして、その後短いVTRと志多らさんの生演奏を挟むその間に、おそらくメンバーは衣装替えと移動と他スタンバイを済ませきっとろくに水を飲む間もなくバチバチに攻め攻めの"シャチらしい"ライブパートに挑んでると考えると、メンバーとスタッフは超人的。≫

〇曲中に迎える日没!?
 シャチSPOTの開始時刻が16時30分であったことの大きな意味を、私なりに理解しました。
 ライブ終盤、校庭へ飛び出してのパフォーマンス。歌い始めた時の雲は まだうっすら明るいグレーだったのが、どんどん暗くなり、舞い踊るオルカの群れに深海へと導かれていくような雰囲気に包まれ、次の曲を始める頃には とっぷりと日が暮れている。
 そもそも、9月のライブ当日と、セットリスト等の構想が練られている段階とでは、おそらく日没時刻も違いますよね。。大自然さえも演出に使うとは。綿密な計画とその挑戦にロマンを感じます。


■さいごに
 ここ2年程で、たくさんのアーティストが本当に色々と工夫を凝らし、無観客配信ライブの実施実績も増えたと感じます。配信ならではの画面スイッチング等を用いたライブもあったし、無観客ならではの客席を使った演出等もそれはそれで斬新でした。
 しかし、シャチSPOTはそれらのどれともまた違う視点で、有観客ライブの代替としてではなく、観客がいないという状況・特性を能動的に活用して「だからこそできるもの」を創る発想が形になったものだったと私は思います。
 そして何よりも、歌って踊っているメンバーが、本当に心から楽しそうな自然な表情でずっと笑っているんです。普段のライブにも増して、事前に覚える事や状況に合わせて考える事も多かったはずですが、その姿は失敗を恐れないどころか、どんな変化も受け入れる強さを纏っているように見えました。この年の夏は、大人しくする以外の感染症拡大防止策が全然わからず、これといって印象に残っている体験もありません。ですがそんな中、こんなに楽しさを体現してくれる彼女達TEAMを見ていると、夏と秋の爽やかな思い出をいっぺんにプレゼントされたように心が満ちてゆくのでした。

 よく、ライブ会場でのシャチのライブを観て思うことは、クタクタになるまで楽しんでほしいという情熱と、楽しませるためのアイディアがパンパンに詰まっていて、その会場に収まりきらないぐらいの勢いで押し寄せてくるということ。今回、本当に収まりきらなかったから広大な敷地全体でショーを行ったのがシャチSPOTだったのかもしれません。
 では、生でのライブはどんなか。ちょうど近々、体感できる機会が用意されているようです皆さん。TEAM SHACHI、アツい表現者達の❝TEAM❞です。
 最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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1st フルアルバム『TEAM』(2022年2月16日発売)
[HORIZON盤]<初回限定盤>には、2021年10月24日のパシフィコ横浜でのライブ映像他が付いてきておススメです。
https://teamshachi.nagoya/team/

ライブツアー(2022年2月~4月)
「TEAM SHACHI TOUR 2022 ~猪突!猛進!猛進!猛進!猛進!~」
https://teamshachi.nagoya/news/#news15758

2022年2月13日一部追加修正

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