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【創作物】Dear… ep.2
※ご本人たちとはなにも関係ありません
※ ※ ※
「こーすけくん、ちょっと聞いてよー」
俺は帰宅してすぐに同居人の部屋へ直行する。
この人は本田康祐。両親のいない俺にとっては家族みたいな存在で小さいときからずっと一緒にいる兄貴分。他にも一緒に住んでる人もいるんだけど、俺は専ら康祐くんの部屋に入り浸ってる。俺が来ることもわかっててか無機質な部屋には不釣り合いな真っ赤なソファーがあって、そこが俺の定位置になっている。
パソコンに向かってた彼はお気に入りのゲーミングチェアをくるっとまわし俺に向き合ってくれる。かけていたメガネをはずすと、頭を軽くかきながら
「で佐野がどうしたの。」
「なんで分かるの?」
「毎日毎日その話しかしてないじゃん。さすがに分かるって。」
「いや、不思議なのよ。授業中パッと飛び出して帰ってこないの。先生もクラスのヤツも全然気にしないし、教えてもくれないんだよ」
「んー、じゃあこれかもしれないなぁ」
康祐くんがパソコンを操作し指差す。ネットニュースの記事。昨年起きた体罰事件の内容のようだけど…
「これ、まさかうちの学校?」
「そうらしいぞ」
「…被害生徒が2人?これがアイツって事?でも2人って…」
俺の頭の中でパチッとパズルのピースがはまっていく感覚がした。
クラスの中で孤立する佐野文哉。
距離をとりたがるクラスメート。
窓の外を見る佐野文哉。
誰かを待っていた?
被害生徒は二人…
「もう少し情報が…」
パソコンを見る俺の横顔を見ながら康祐くんが柔らかく笑った。
「そういうと思った。でもいいのか?せっかく普通の高校生活が出来てるのに余計なことに首突っ込んで」
「余計なことかどうかは俺が決めるし、それにほっとけないじゃん。体罰事件が絡んでいるならなおさら…」
「まぁ、らしいといえばらしいか。疑問は解決しないと気が済まないタイプだもんな」
そういうとクリアファイルに入った書類の束を渡してくれた。
ー私立●●学園高等部 体罰事件概要ー
「こーすけくん、これ?!」
「まぁ読んで」
康祐君の資料には事件の経緯なんかが色々書かれていた。要約するとこんな感じだった。
佐野文哉は入っていた部活で顧問からキツく指導を受けていた。最初はただの指導のようだったが徐々に『なんだその反抗的な態度は』といったような言葉が教員の口から飛び出すようになる。部活に佐野が参加しなくなっていくと、教員は佐野に粘着するようになり授業時間でも佐野に口撃を始める。それを庇ったのが当時クラスでも中心的な人物で学級委員を勤めていた中川勝就。クラスメートの見て見ぬふりが続くなか2人は教員からの陰湿な嫌がらせを受け続ける。中川は再三他教員に助けを求め、その度に行為が悪化。徐々に言葉だけではなく物理的にも攻撃が始まり、最終的には竹刀等で殴られるようなこともあった。
教員は事件発覚後『態度が気にくわなかった。佐野を攻撃することである種の快感を覚えていた。もっと壊したいと思った』と話している。
「中川勝就…」
俺が読み終わったに気づいた康祐くんがパソコンから目を離しくるっとこっちを向く。
「どうしたい?」
「…この事件が引き金だったとしても、中川勝就が不登校になる意味がわからない。それに、佐野はなんで孤立してるんだろう?ねぇ、こーすけくん、この中川って…」
「お前のクラスに在籍中。転校とかはしてないよ」
「ってことは?」
「住所だろ?最後のページに印刷したよ」
書類を見返すと住所とマップ、ご丁寧に近所のGoogleアースのスクショまでつけてくれている。
「俺が調べることが出来るのはここまで。あとは本人たちに聞いてきな。」
「ありがとう、こーすけくん」
「はしゃぎすぎてあんまり運動するなよ?心臓止まっても知らないからな」
「わかってるって」
中川勝就に会いに行く。そうしたら少しはなにか解決するかもしれない。
佐野文哉と絶対仲良くなるんだ。
俺の残りの時間、全部使ったとしても…。
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