【創作短編BL小説】ぼくのポチ
「ただいまー。」
僕は今日もポチに話しかける。ポチはかわいい声で返事をした。
「おーよしよし。あとで遊んでやるからな。」
僕はそう言って玄関を閉め、鬱蒼としたよるの世界から隔たりを作るのだった。
「えー!?お前またテスト満点だったの?ちょっとは遊べよな!」
クラスメイトの男子生徒が話しかけてきた。名前はたしか皆川拓也と言ったか。
「ふふふ、勉学に励むのは大事なことだよ?皆川くんももう少し学生らしい生活を送るべきだと僕は思うな。」
「はーい。優等生様の言うことはやっぱりちげーや!」
そう言うと彼はどこかへ行ってしまった。
僕は窓に目をやった。今日はいい天気だ。教室には青春の風が入り込んでいた。
「ねえねえ、岡崎くんって家事もひとりでしてるんでしょ?どうやってそんなに良い成績保ててるの?」
「ねー、ほんとだよ。うちなんて暇なのに真面目にやって赤点ギリギリだもん。勉強法教えてほしいな〜。」
席が近い二人組の女子が話しかけてきた。僕は女性には興味がないので名前は忘れた。
「テストなんて普段の授業の内容をしっかり毎日予習・復習するだけで余裕だよ。そんなことよりさ、昨日もうちのポチが…。」
「あ、ごめんね、岡崎くん。私たちもう行かなきゃ!」
そう言うと彼女たちもどこかへ消えてしまった。
僕はため息をついた。ポチの話をするといつもこうだ。確かに、ポチはあまりペットとして見かけない動物だ。でも、だとしても、差別をする理由にはならないだろうに。
ポチが大好きな僕だが、そんな僕にもポチ以外にも大切な友人が一人いる。彼は悠也という。
早く彼に会いたい。僕はその一心で、お昼休みを告げるチャイムが鳴るとすぐに教室を後にした。
「やあ、岡崎くん。いつも会いにきてくれなくたっていいのに…。」
悠也は貧相な体を震わせてそう言った。彼は生まれつき病弱で、青春真っ盛りの高校生だというのに学校ではもっぱら保健室で過ごしている。
「何を言っているんだい。僕たちは友達じゃないか。さあ、一緒に昼ごはんを食べよう。」
「ふふふ。あなたたち本当に仲良いわね。微笑ましいわ。」
保健室の先生がそう言った。僕は女性には興味がないので名前は忘れた。
「それじゃあ、岡崎くん。いつもみたいに屋上行こっか。」
彼はそう言って無垢な笑顔を僕に見せた。
「聞いたよ。岡崎くんまた学年一位だったんでしょ?ほんとすごいねえ…。」
「まあ、いつものことさ。」
僕はそっけなく返事をした。僕にとってポチ以外のことは些細なことでしかない。そりゃあ学年一位というのは嬉しいけれど、家に帰ってポチに会える喜びには勝るわけがない。
「そんなことよりさ、うちのポチがまた…」
僕はポチのことを彼に語り始めた。
彼はポチの話を真剣に聞いてくれる。こんなに素晴らしい人間をどうしてみんなは放っておくのだろう。僕は不思議で仕方なかった。
「あ、あのさ…岡崎くん…。」
彼は顔を赤らめ、少し俯きながら言った。
「なんだい?」
「あ、いや…その…なんでもない…。」
僕は恋愛というものに非常に疎い。そんな僕でもわかるくらい、彼は隠し事が下手だった。僕が彼のことをどう思っているかは正直まだわからなかった。でも、嫌な気持ちはしなかった。
僕が八歳の時、両親が飛行機事故で亡くなった。当時はまだ、ポチも小さかった。僕とポチは、祖母の家に預けられた。
祖母の家での生活は、お世辞にも良いものとは言えなかった。両親を亡くした幼い子供というのは、耐えがたい苦しみを日々味わうものだ。僕は突然泣き出したり、かと思ったら突然暴れ出したりして、祖母をよく困らせた。僕は、何回も精神科に連れて行かれた。
僕が十四歳の時、僕のせいだろうか、祖母が病気で亡くなった。ポチは、少し大きくなった。親戚には散々反対されたけれど、僕はポチがいるから大丈夫だと言って、僕たちは元の家に戻ることにした。
それから、僕はポチを支えるために立派な人間になろうと日々努力を重ねた。たくさん料理を覚えた。たくさん勉強もした。その結果、今の学校には主席で入学したのだ。
学校では、優等生という体で通っているが、僕の心はからっぽだ。そんな僕を支えてくれたのは、いつもポチだった。
僕とポチは、確かに周りから見たらおかしな存在かもしれない。けれど、僕たちは家族という言葉では表せないほどの絆で結ばれている。周りから何と言われようと気にしない、そんな風に生きてきた。
そんな感じで少しおかしくも平和な日常を送っていたある日のことだった。いつものように保健室を訪れた僕は、悠也がいないことに気がついた。
「悠也くん?あれ…さっきまでいたんだけどな。どこに行ったんだろう…?」
保健室の先生はそう言った。
僕は嫌な予感がした。その時だった。
「キャーーーー!!!」
女子生徒の叫び声が聞こえた。僕は急いでその声の方に向かった。
悠也は、空き教室で首を吊って死んでいた。
岡崎くんへ
こんにちは。この手紙を岡崎くんが読んだころには、僕はもうこの世にはいないと思います。
へへ…ベタだよね…。
僕はこの世にいちゃいけない人間なんです。僕がみんなから嫌われているのは知ってた。そういうのは慣れっこだし。でもね、ある日、聞いちゃったんです。
「岡崎…?え、あいつと仲良くなりたいの?あいつ本当に関わっちゃいけないタイプだぜ?だってさ…あいつアレと…」
アレ。なんでしょうね。ふふ…わかってますよ。僕のことですよね。僕がいるから、岡崎くんはみんなと仲良くできない。なら、そんな僕に生きている価値はありません。
最後にひとつだけ。
僕は、岡崎くんのことが…
僕は、亡骸が手に抱えていた手紙を読むのをそこでやめた。
彼は、勘違いをしていた。大きな勘違いを。
僕は、彼の顔を覗いた。僕は、せめて安らかな顔で眠っていて欲しいと願ったが、それすら叶わなかった。
涙は、出てこなかった。
涙は、出てこなかった。
あれからどれだけの月日が経っただろう。僕は、正直悠也のことを忘れかけていた。この話を聞いたあなたは、僕のことを非情に思うだろうか。
でも、僕の世界にははじめからポチしかいなかった。
だから、今日も、
「ただいまー。」
岡崎昴は今日もポチに話しかける。
ポチと、そう彼に呼ばれた少年は、首輪をつけ、夥しい数の黶のある顔を上げ、恍惚とした表情で、こう、答えるのだった。
「おかえり…お兄ちゃん…。」
あとがき&解説
イヤッフーーーーーーーーーー
すみません、通りすがりのルイージが邪魔をしました。
まずはじめに、謝辞をば。
お母さん、産んでくれてありがとう。
お父さん、えー、まあ、ありがとう。
飼ってる文鳥、えー、お前は俺の手にフンをするのをやめろ。
みなさん、ここまでお読みくださりありがとうございます
いきなり大きな声を出してしまいました。
びっくりして心臓が止まってしまった方、腎臓が増殖してしまった方、作っていたねるねるねるねの粉を入れる順番を間違ってしまった方、ご愁傷様です。
とりあえず一旦おふざけはここまでにして、あとがきに移ります。
この作品は、作者がなんとなく思いついた兄弟間の歪んだ関係というのを形にしようとした結果、生まれたナニカであり、とても小説とは呼べる出来ではなかったかもしれません。
作者は初めて小説を書いたので、至らぬ点。至った点。夏至。冬至。いろいろな至があったかと思われます。
最後に、ここまで読んでくださっているあなたにお礼をして、解説に移りたいと思います。
バーボン!!!
すみません、通りすがりのキノピオが邪魔をしました。
では、今度こそおふざけは置いておいて(響きが面白いですね♪)解説に移りたいと思います。しかし、あくまでも公式が勝手に言ってるだけなので、お好きな解釈をしてもらって構いません。
まず、主人公の岡崎昴と弟は幼い頃に両親を亡くします。その結果、精神を病んでしまい、二人とも歪んでしまいます。その描写が祖母の家のくだりだったわけですね。
弟はもともと優しい兄のことが大好きでした。しかし、日に日におかしくなっていく兄。でも、弟はそんな兄のことをはじめは戸惑っているも、だんだん好きになってしまいます。
兄はひとしきりおかしくなった後で、弟のために頑張ろうとすることでこころの溝を埋めようとします。その結果が高校に主席入学だったわけですね。
しかし、兄はもともと天才でした。勉強なんて難なくこなしてしまいます。そこで、埋まらないこころの溝は弟に向きます。
二人だけの生活が続いたある日、兄は弟に首輪を渡します。弟はそれを受け取ってしまうのです。
そこから、兄の高校生活が始まります。主席なので入学式でスピーチもした彼は、クラスでたくさんの人からの注目を受けます。しかし、クラスメイトはどうやら彼がしきりに話すポチ、というペットが、どうやら普通の犬ではないことがわかってきます。
クラスメイトは少し彼との距離を置きます。しかし、彼は学年一位の成績の秀才です。人もいいです。一応関わるメリットはあるのでいじめられるようなことにはなりませんでした。ですから、岡崎昴には深い友達は一人もおりませんでした。
しばらくして、彼は悠也と出会います。悠也は、生まれつき病弱なので入学してすぐできてしまったグループに入ることができず、孤独な日々を送っていました。そんな時、昴と出会うのです。
悠也は、昴から話しかけられただけで彼の容姿、声に惹かれてすぐに好きになってしまいます。もちろん、彼も昴からポチのことは聞きました。けれども、彼には友達がいないのでそのポチがおかしな存在だということは誰も教えてくれませんでした。
しかも、悠也は自分と昴の華々しい未来を常に妄想しているのであまり話を聞いていません。そんな悠也を、昴は真剣に話を聞いてくれる存在だと勘違いして、よく話すようになります。
そんな生活がしばらく続く中、悠也は昴のことを悪く言う生徒たちの会話を耳にしてしまいます。もちろん、アレ、というのはポチのことです。しかし、彼は自分のことだと勘違いします。
彼は、正直興奮してしまいます。自分が排斥されている、自分が愛する人は自分がいると悪影響を受ける、悲劇のヒロインになったわけですね。こうして、彼は自殺を決行します。
いや〜〜〜かわいいね
おっと失礼。間違えて心の声を大きく叫んでしまいました。
そんなわけで、昴は大事な(?)友人を失くすのですが、彼にとって悠也はただ話を真剣に聞いてくれるだけの存在で、そこまでダメージはありませんでした。もちろん、それを彼が少しも悲しまなかったわけではありません。
しかし、彼の心は、いつでもポチでいっぱいだったというわけです。
いかがでしたでしょうか!!!
以上で解説を終わりたいと思います。
もしかすると、この解説を見た上でもう一度読むと新たな発見があるかもしれません。
最後になりますが、本当に、本当にここまでお読みいただき…
マーーーリオーーーーーーー
すみません、通りすがりのピーチ姫が邪魔をしました。
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