聖書や神話を知らんと理解できんアートが多いのでエピソード別にまとめてみる(旧約聖書篇28) 〜「奴隷として売られるヨセフ」
「1000日チャレンジ」でアートを学んでいるのだけど、西洋美術って、旧約聖書や新約聖書、ギリシャ神話などをちゃんと知らないと、よく理解できないアート、多すぎません? オマージュなんかも含めて。
それじゃつまらないので、アートをもっと楽しむためにも聖書や神話を最低限かつ表層的でいいから知っときたい、という思いが強くなり、代表的なエピソードとそれについてのアートを整理していこうかと。
聖書や神話を網羅したり解釈したりするつもりは毛頭なく、西洋人には常識っぽいあたりを押さえるだけの連載です。あぁこの際私も知っときたいな、という方はおつきあいください。
まずは旧約聖書から始めます。旧約・新約聖書のあと、ギリシャ神話。もしかしたら仏教も。
なお、このシリーズのログはこちらにまとめていきます。
さて今回から主役が変わる。
ヨセフの物語。
アブラハム、イサク、ヤコブ、と来て、ヨセフ。
順番の覚え方は「アー、イヤヨー」だw
アブラハム一族は、基本的にずっと「約束の地カナン(今のパレスチナ)」に住んでいた。そしてこのヨセフの代に、カナンを捨ててエジプトに移住する。
その後、モーセの代に、「出エジプト記」で書かれているような苦難のエジプト脱出を経て、またカナンに戻ってくるのである。
そういう意味で、
アー、イヤよ、エジプト!
と覚えると、ヨセフの代でエジプトに行って、酷い目にあって戻ってくるニュアンスが出るかもしれないなw
さて、ヨセフの人生を超短く言うとこうなる。
父ヤコブの寵愛を一身にうけ、空気がまったく読めない青年に育ったヨセフは、10人の兄たちに憎まれてエジプトに奴隷として売られてしまう。
でも彼は超有能なこともあり、エジプトでなんと奴隷から総理大臣まで上りつめる。
その後、兄たちを許し、カナンでの飢饉に苦しんでいた父ヤコブと兄弟をエジプト呼び寄せる。
すごいよなー。
奴隷から総理大臣に上りつめるのだ。
奴隷に売った兄たちも最終的に赦すのだ。
しかも「夢解き」という技術を持っていて、大飢饉からエジプトを救うのである。
ま、ボクのキャスティングとしては、前回書いたように堺雅人であるのだが、半沢直樹ほどの激しさはなく、十倍返しはしないw
でも、ドラマで取り上げるなら、アブラハムよりもヤコブよりも、やはりヨセフの波瀾万丈を取り上げたいところである。
ということで、今日は「奴隷として売られるヨセフ」だ。
ヨセフが17歳のときにエジプトに売られちゃう「いじめ物語」の部分である。
ここでまた「ややこしキャラ」であるヤコブが物事を面倒臭くする。前回までの主役ヤコブがヨセフを超えこひいきするのである。
まぁ経緯を知れば同情できる部分もある。
最愛の妻ラケルの子どもだからだ。
いろいろあってラケルと14年越しの恋を実らせたのだけど、なかなかラケルに子どもができなかった。そしてようやく恵まれたのがヨセフだったのである。
父ヤコブはもともと「なんでも思い通りにしたがるタイプ」なので、臆面なくヨセフを可愛がる。ヨセフにだけ高い服を着させるし、なにかとヨセフを優先するのだ。
そりゃ兄たち(もう大人になっている人たちもいる)に憎まれるよなぁ。「父さんの愛を独り占めしやがってあの野郎」ってなもんだ。
しかも、ヨセフは「空気を読めない青年」で、自分が憎まれているなんて思いもしないのである。
ヨセフは「夢解き」ができた。
つまり、夢を見て、それを解釈する才能がある、ということだろう。フロイトみたいなものではなく、かなりオカルトちっくだけど。でも、後半生、この才能に助けられる。
で、17歳のとき、自分の夢を父や兄たちに話すのだ。
「ねえ、みんな、聞いて!
僕、こんな夢を見たよ。
畑で麦の束を結わえてたら、
兄さんたちの束がボクの束にひれ伏したよ!」
「ねえ、また聞いて!
今度の夢では、
太陽と月と11の星が
みんな僕にひれ伏したよ!」
・・・いや、なんだコイツ、ってことですよ。
たまにいるよねー、こういう子w
巨匠レンブラントは、その「夢解き自慢」の場面を2枚描いている。
ヨセフは父ヤコブに自分の夢のことを語り、兄たちの憎しみが増している場面だ。
なんかヨセフが老人っぽいけど、もう17歳、時代の慣習として髭とかも蓄えているのかもしれない。右手前にラケルらしき人がいる。
ジェームズ・ティソも「夢解き自慢」を1枚描いている。
空気を読まず、兄たちに夢の内容を話している。いやなガキだw
左の方の兄たちは呆れかえってひっくり返っているw
ティソさんらしい1枚だね。
で、父ヤコブはその夢を「そーかそーか」っていよいよ喜ぶんだけど、兄たちは面白くない。
「オレたちがおまえにひれ伏すってことか!」
「おまえはオレたちの王になるってことか!」
と、ヨセフをより憎むようになる。
そして兄たちは話し合う。
「あいつ、気にくわなすぎるわ」
「いっそ殺しちゃおうぜ」
「そうだよな。自分だけいい服着やがって」
「あの夢見るバカ野郎め」
「殺せ殺せ」
「殺しちまえ!」
「やっちまえー!」
ヨセフは袋だたきにあう。
裸にされて、枯れ井戸に突き落とされる。
で、たまたまエジプトの隊商が側を通ったので、兄たちはヨセフを銀貨20枚で売っちゃうんだな(「殺すまでしなくてよかろうよ。売るくらいで勘弁してやろうや?」って長兄が諭したりもした)。
そして、身ぐるみ剥がしたヨセフの服を山羊の血に染めて、「お父さん、ヨセフが野獣に喰われてしまった!」と父ヤコブに報告し、父は慟哭する、という流れのストーリーである。
ここらへんで今日の1枚。
シャガールだ。
服をひんむかれ、枯れ井戸に放り込まれようとしているヨセフ。
手前にはちゃんとヤギも描かれ、奥には隊商も描かれている。「お、あの隊商に売っちまうのもいいんじゃね?」みたいな会話が聞こえてくるような1枚だ。
なんというか、兄たちの殺意や「いじめ」が一番でているのと、ヨセフが思いもしなかったことに驚愕している感じがよく出ていて、とても印象的な絵だと思う。
このあと銀貨20枚で売られてしまうんだけど、この「やれやれー、やっちまえー」って殺されかかった記憶と、その後の長年の奴隷の苦渋を、ヨセフは最終的に赦すわけ。
そこにつながる絵としても、このくらい強烈なほうがいいなぁと思う。このシャガールのに比べると、他の絵はわりと穏やかに感じる(もちろんヨセフの不幸はちゃんと描かれているんだけど)。
フリードリヒ・オーフェルベック。
シチュエーションとしては、エジプトの隊商にヨセフを売って、兄たちがお金を受け取っているところだね。
で、左側ではヤギを殺してて、この血でヨセフの服を汚してアリバイにしようとしているところ。そして手前には枯れ井戸が見える、というとても説明的な絵だ。
このときヨセフは17歳。
それにしてはちょっと子どもに描きすぎかなぁと思う(そのほうが惨めさがよく出るのはわかるけど)(ヨセフの惨めさはよく出ている)。
アレクサンダー・マクシミリアン・セイツ。
これは上の絵の裏焼きみたいに構図が一緒。井戸が右にあるのが違うくらいかな。どちらが先に描かれたか調べてないけど、どっちかがどっちかを元にして描いたね。
アントニオ・デル・カスティーロ・イ・サアベドラ。
ヨセフが井戸から出されて隊商に売られてしまうところ。左奥のほうではヤギを殺している。
いやいや、ヨセフ、ちょっと子ども過ぎ! と思うのがフランツ・ザベール・ワーゲンショーン。これでは10歳弱だろうよ。
井戸に落とそうとしているところかな。
ただ、兄たちの憎しみがいまひとつ伝わってこないのが難。
ジョン・オーピー。
このヨセフも10歳以下にしか見えないw
悲しさはよく伝わってくるけど、ちょっと幼児すぎる。
お金を受け取っている兄たちの狡い顔とかも、もっとちゃんと描いてほしいなぁ。
Damiano Mascagni。
ヨセフは17歳っぽいけど、これも兄たちの表情が描けていない気がする。
お馴染みギュスターヴ・ドレ。
黒い兄たちが隊商に売ったところだね。
奥の方では枯れ井戸に落としたところが描いてある。
ヨセフの哀しみ、兄たちのちょっとした後ろめたさ、みたいなものが滲み出ているいい版画。
ブラウンはヨセフの服についた血を父に見せて「ヨセフは獣に喰われちまったようです」って説明しているところを描いている。
んー、なんかいまひとつ感情が伝わってこない絵だなぁ・・・。
そういう意味では、シャガールのこれのほうがずっとグッとくる。
ヤコブが血の付いたヨセフの服を見ながら慟哭しているところ。
レンブラントも描いている。
ラケルもいるね。
バッキアッカ。
これは隊商たちに連れて行かれるところかな。
ヨセフの複雑な表情はいい。
ポントルモのこの絵(↓)は、奴隷となって隊商に連れられ、エジプトに着いたところだろうか。
この絵は全体的に不思議。
たぶんヨセフのその後も同じ画面に描かれているのだと思う。
左奥の窓の中は夢解きをするその後のヨセフだろうか。右奥の丸窓は牢獄を模しているのかも。その丸窓の前の彫刻や不思議な動きをしている男、手前のヨセフの後ろにいる何かを拾っているような男の姿など、ちょっと読み解けない部分が多い絵である。
もっとこのストーリーを先に読んでいって、何かわかったら追記修正しておきますね。
ということで、今日の最後の1枚。
古い聖書の挿絵から、ヨセフが枯れ井戸に放り込まれるところ、であるw
なんじゃこりゃw つか、ヨセフ、ハゲてるし!
この文字はなんだろう、と、Google翻訳の「言語を検出する」で写してみたところ、ペルシャ語だったんだけど、ちょっと意味がわからんw(↓)
恥ずべきダンファン!って何?w
まぁもしかしたら、これ、ヨセフではなくて、何かの違う場面かもしれない(タイトルにはヨセフの名前が入っていたけどね)
ということで、今回はオシマイ。
次回は「ポティファルの妻の誘惑」。
エジプトで奴隷として働いているヨセフが有能すぎて、顔もハンサムすぎて、ご主人様の妻から誘惑されちゃうお話です。
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このシリーズのログはこちらにまとめてあります。
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間違いなどのご指摘は歓迎ですが、聖書についての解釈の議論をするつもりはありません。あくまでも「アートを楽しむために聖書の表層を知っていく」のが目的なので、すいません。
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この記事で参考・参照しているのは、『ビジュアル図解 聖書と名画』『イラストで読む旧約聖書の物語と絵画』『キリスト教と聖書でたどる世界の名画』『聖書―Color Bible』『巨匠が描いた聖書』『旧約聖書を美術で読む』『新約聖書を美術で読む』『名画でたどる聖人たち』『アート・バイブル』『アート・バイブル2』『聖書物語 旧約篇』『聖書物語 新約篇』『絵画で読む聖書』『中野京子と読み解く名画の謎 旧約・新約聖書篇』 『西洋・日本美術史の基本』『続 西洋・日本美術史の基本』、そしてネット上のいろいろな記事です。
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