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闘アレ生活(11) 〜せっかくやり過ごしているのに毎食リマインドされてしまう篇

57歳のある日、いままでアレルギーなどひとつもなかったボクが、突然アニサキス・アレルギーになった。そして、ほとんどすべての魚介類が食べられなくなった。いまは魚系のダシやエキスまで避けている。
そういう生活とはいったいどういう感じなのか、ちょっとだけリアルに知ってもらうために、ちょぼちょぼ書いてくシリーズです。
暗くなる話も多いけど、リアルに知ってもらうのが目的なので、申し訳ありませんがご理解ください。
「闘アレ生活」の過去ログや他記事はこちら


わりと崖っぷちである。
毎日、数センチ向こうは「ウツの谷」だ。

正確に言うと、一日二回。
ランチ時とディナー時、ウツの谷のすぐ脇の、崩れやすい小道を歩く。

いや、アレルギーになって1年半以上、やり過ごし方はそれなりに身につけてはいるんですよ。対応策をさぼってきたわけではない。

気を晴らす方法も少しずつ増えてきているし、気を紛らわせるモノゴトもちゃんと自分の生活に散りばめてある。

楽しいこと、美しいもの、気が晴れる時間、夢中になれるエンターテインメント。

そういうのは、意識して自分の周りに配置してある。

そのうえ、ファイティングポーズを取り続けるために毎朝走ってもいるし、ジムも毎週通っている。自ら課している美術の勉強も順調だし、開脚もじわじわと進めている。

さらに、優しい友人たちはさりげなく気を遣ってくれるし、何かと誘ってもくれる。そのうえ仕事にも恵まれているし、講演などの依頼も多い。必要とされることは一番のクスリになる。

そう、いろいろな「おかげ」をもって、ちゃんとやり過ごせてはいる。

ただ、食物アレルギーのキツいところは、現実を毎食毎食リマインドされてしまう、というところ。

一日二回。
せっかくいろんな「おかげ」をもってやり過ごしているのに、ランチ前とディナー前、なんなら食事中も食事後も、このつらさがリアルに襲ってくるのである。


あ〜食事の時間か・・・マジか・・・どうしよう・・・なに食べようか、あれ食べたいな、食べられないな、あ、あれも食べられないか、美味しそうだな、あぁ食べたいな、美味しいんだよな、その美味しさ舌の上で再現できるくらいくわしく知ってるな、でも食べられないよな、つらいな、つらい、なんでこんな目に遭っているのだろうか、マジつらい、つらいよつらい、つらいつらいつらい、むーん、なんかやだ、人生やだな、いやすぎるな、どうすっかな、なんだかいろいろ面倒くさいな・・・


・・・どんどんネガになる。

こんなのが一日二回ある。

例えてみると、たとえば「手痛くふられた最愛の恋人」がいるとして。
もう二度と会いたくないじゃないですか。会うとつらすぎるから。
その恋人に、ランチタイムとディナータイム、一日二回、無理矢理会わないといけない感じ。

わかります?

もう会いたくないのに、一日に二回もリマインドされてしまう


たぶん知識もありすぎるんだな。
食サイトをやり、ガイドブック作るくらい食べ好きだったので、もう街を歩けば頭の中にレストラン情報が渦巻くわけですよ。

そうやって、ふと気づくと「ウツの谷」の横にいる。


あ、朝ごはんは大丈夫。
妻がボクが食べられる物を出してくれるし、自分でも用意できる。

まぁ毎朝食べていた焼き鮭が食べられないことをたまに悲観するけど(大好物なのである)、まぁ、でも、やり過ごせる。

でも、ランチ時やディナー時は、一回「ウツの谷」の横まで行く。
日常を元気にニコヤカに過ごすためには、そこからまた戻ってこなければならない。

一日二回、行っては戻る。

これがねぇ・・・すさまじい労力なのだ(そりゃ飲み過ぎもする)。


ここでも書いたが、秋冬はまた特につらい。
日本の秋冬の「美味しそさ加減」は尋常ではない。


すし、なべ、おでん。

さんま、いくら、あんこう。

かき、ほたて、たらばがに。

たんめん、あったかいそば、〆のラーメン。


全部まったく食べられない。

しかも、魚を使ってなくても、美味しそうなものにはたいてい「ダシ」が使われている。日本はダシ大国なのだ。


どうすっかなー・・・
しんどすぎる。

こうやって毎日二回労力かかると、すぐ疲弊してしまう。


対応策として、まず考えたのは「ランチを抜く」こと
つまり食べない。
つらさを物理的に一日一回にするのである。

まぁ習慣にしちゃえばたぶん出来る。
でも、いま新会社立ち上げたばかり、ということもあり、ランチって重要なコミュニケーションの場だったりするんだよね・・・

創立期のここ2年くらいは難しいかな・・・


次に考えたのは、「それなりの高級店にしか行かない」ということ。

これ、アレルギーになって実感したんだけど、アレルギーのことを店側に伝えた後の対応と気遣いとさりげなさが、高級店のプロフェッショナルたちはもう全然レベルが違うのだ。

その気遣いとさりげなさで、目の前に「友人がオーダーした魚料理」があっても、なんか落ちこまない。なんでだろう。わりとさわやかに、落ちこまず店を後にすることができるのである。

プロはすごいなぁ・・・

この対応策の問題は、お金と時間だ。
ランチ時にゆっくり高級店で食べる余裕はベンチャー新会社をやっている今はない。ディナーは大丈夫だけどね。お金さえ許せば。


三つ目は「手作り弁当」だ。

とにかくランチを弁当で凌ぐ。
外で買う弁当は多くがNGなので(肉の弁当でも信じられないくらいダシやエキスを使っている)、手作りの弁当を家から持っていく、ということになる。

普通にやっている人が多い方法だし、妻も「作ってもいいよ」と言ってくれている。

これは現実的だ。
とはいえ、妻の負担が増える(自分で作る手もあるが続かないことが目に見えている)。新会社でのコミュニケーションは、昼に中食する人がいるのでそれも大丈夫だ。

あとはボクの納得の問題かな。
なにしろ、レストランガイドとかをやってきたくらいは「外食好き」なので、外食にこんなに傷つけられているくせに、それでも外食が好きなんですね。。。

でも、その辺が落としどころかもしれないな。

とりあえず秋冬を無事に越えたいので、妻に相談してみようかな・・・。





古めの喫茶店(ただし禁煙)で文章を書くのが好きです。いただいたサポートは美味しいコーヒー代に使わせていただき、ゆっくりと文章を練りたいと思います。ありがとうございます。