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キャノンボール・アダレイ 『サムシン・エルス』

人生に欠かせないオールタイムベストな音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。


「秋の夜長」と人の言う。
でも、果たして本当に秋の夜は長いのだろうか?

屁理屈を言うようだけど、実際には冬の方が夜は長い。
でも、「冬の夜長」とは言わない。
なんでかな?

たぶん、秋の夜には、冬の夜より長く感じさせる何かが、存在する。
それはきっと「夏の反動」だ。

楽しかった夏。
薄着で行動的でワイワイ言っていた夏。
ちょっと軽薄で快楽本位だった夏。

その夏が終わり、秋の風が吹き出すと、人はその反動でちょっと内省的になる。内省的でセンチメンタルで、時には涙がポロリ。

秋の夜が濃密で内省的で長く感じるのは「夏」への精神的反動があるんじゃないかな。ま、個人的な考えなのだけど。


で、個人的な考えを続けると、実はこの『サムシン・エルス』という名作ジャズ・アルバム、そういう意味での「秋」なんですね。

「秋」が「夏と冬のせめぎ合いと混じり合い」であるならば、まさにそこがこのアルバムの魅力なのではないか、と。

熱くファンキーな夏と、冷徹でクールな冬。
そのせめぎ合いと、混じり合い。

・・・なに言ってるかわかりにくいですねw
つまり、

ひたすら夏(ホット)であり続けたいキャノンボール・アダレイ
ひたすら冬(クール)であり続けたいマイルス・デイビス

このふたりのせめぎ合いと混ざり合いが、このアルバムの魅力であり、まさに「秋な感じ」だと思うのです。

そういう意味で、このアルバムが「枯葉」という曲から始まるのは実に象徴的だなぁ、とも思ったり(無理矢理な後付けだけどw)。

まぁでも、ボクはそういうところが好きで、このアルバムを40年近く聴き続けているのです。

熱くファンキーなアルトサックス。
冷徹でクールなトランペット。

それらが、ちょっと見には仲良しに、実際には反発しあっているこの感じ。
このアルバムを聴くたびに、どうしてもその攻防に注目して聴いてしまうのです。


え?
この名作、まだ聴いたことない?

そりゃ大変だ。
YouTubeにオフィシャルっぽいリマスターが上がっていたので、とりあえず、まず「枯葉」を聴いてみてください。

いや、ほんと、素晴らしい演奏だから。
そして、トランペット(マイルス)とサックス(キャノンボール)のせめぎ合いと混ざり合いもとても面白いから。


いやぁ、やっぱりいい演奏だなぁ。
なんて素晴らしい。

もちろんサム・ジョーンズのごつごつしたベースも秀逸だし、アート・ブレイキーの意外に上品なブラシもすばらしい。ハンク・ジョーンズの、何か「迷惑にならないように」って感じでちょっと引いて弾いている哀愁感もなかなか味がある。

(※ ボクは後年、光栄なことにハンク・ジョーンズとリアルでかなり親しくなるのだけど、それはまた別のお話)

だけど、やっぱりこの演奏は主役ふたりの「せめぎ合い」「混ざり合い」が実に面白いとボクは思うんですね(しつこい)。



よく知られているように、このアルバム、キャノンボール・アダレイのリーダー作という形を取り、アルバム名もそうなっているけど、実際はマイルス・デイビスがリードしています。

というか、このアルバムを出したブルーノート・レーベルは、当初はマイルスの名前で出したかったらしい。
ただ、なんでか知らないけど、レコーディングを進めている最中にマイルスはコロムビア・レコードと契約をしてしまい、マイルス名義のアルバムをブルーノートは出せなくなった。
だから、キャノンボールをリーダーに据えて、マイルスをサブに回し、レコーディングを進めていった、という裏事情らしいです。

まぁ格から言っても経験値から言っても、マイルスの方が断然上。

キヤノンボールは実質的にこれがデビュー作に等しいから格が違いすぎる。
才能を認められてリーダー作にしてもらっているけど、まだまだこれからのヒトなわけです。

とはいえ、曲がりなりにもリーダー作だから、キャノンボールは必死にマイルスの物悲しげなミュートに抵抗している。
ボワンボワボワと熱いアルトサックスを吹きまくる。
のちに「ファンキージャズの名手」と言われた彼だけに、熱くファンキーに行きたいわけ。

でもそこに、それに舌打ちするように、マイルスが冷たくクールにミュートで割り込んでくる。

「おーい、リーダーは俺だよう! 俺を立ててくれよう!」というキャノンボールの悲痛な叫びが聞こえてくるようだw

もうね、この辺が面白くてw
何度も何度も聴いてしまうボクなのです。


さて。
本格的な冬を前にして(これを書いている今は12月初頭)、このアルバムを聴くには絶好の季節になってきました。

秋の夜長、夏と冬のせめぎ合いと混ざり合いを感じながら、あなたも『サムシン・エルス』、いかがでしょうか。

Somethin' Else
Julian "Cannonball" Adderley
1958年録音/東芝EMI

Miles Davis (trumpet)
Julian "Cannonball" Adderley (alto sax)
Hank Jones (piano)
Sam Jones (bass)
Art Blakey (drums)



ちなみに上の動画の「枯葉」は言わずと知れたシャンソンの有名曲なんだけど、この超絶な演奏をきっかけにジャズ・ミュージシャンたちが演奏するようになり、のちにジャズ・スタンダードにまでなります。


※※
キャノンボールの本名は、Julian Edwin "Cannonball" Adderley。
つまり「キャノンボール」は愛称。
愛称の由来は、どうやらキャンニバル(cannibal:大食漢)らしい。

むちゃくちゃ食べるファンキー・ジャズの名手。
それがキャノンボール・アダレイ。
そりゃマイルスとは相容れないよね。

とはいえ、マイルスは『マイルストーンズ』と『カインド・ブルー』にキャノンボールを参加させているから、少しは気に入られたのかもしれない(その後はまったくなんだけど)



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