アール・ハインズ・トリオ 『ヒア・カムズ』
人生に欠かせないオールタイムベストな音楽をいろいろと紹介していきたいと思います。ジャズ、クラシック、ロック、ポップス、歌謡曲、フォーク、J-Popなど、脈絡なくいろいろと。
もともと「ジャズとピアノは相いれない物だった」って知ってました?
いまではジャズにピアノはつきものみたいな感があるけど、出会った当初のジャズとピアノは、実は生き方の方向性みたいなものが違っていたらしい。
たとえば、ジャズの原点と言われるニューオリンズ・ジャズに、もともとピアノはない。
平均律という西洋的調整がなされたピアノと、音階にしばられずに自由に吹きあがるジャズとは、最初から相性が悪かったということらしい。
だからピアノは(使われるとしても)コード進行形。
リズムセクション。
自由に動き回る管楽器のバックでコードを奏でる役目。
つまりはずっと伴奏の地位に甘んじていたわけだ。
ずっと「管楽器の召使い」だったピアノ・・・。
そんな不遇で冷や飯ぐらいだったピアノを、見事に解放したのがアール・ハインズだった。
いや、解放するどころか、一気にスターの座へとピアノを駆け上がらせた。
ジャケットの英語を読むと分かるように、アール・ハインズの愛称は「FATHA」だ。
つまりは「父」。
そう、この人は「ジャズ・ピアノの父」と呼ばれている。
「ピアノを伴奏の地位から解放した偉大なる男」。だから「父」なわけだ。
彼を称して、かのカウント・ベイシーも言っている。
"The greatest piano player in the world”
彼がジャズでのピアノのありようを変えたきっかけは、サッチモこと、ルイ・アームストロングとの共演だったらしい。
1925年ごろ、ハインズとサッチモは初めて共演しているんだけど、その頃からサッチモは天才で、彼のトランペットは非常な影響を当時のジャズ界に与えてた。
で、その影響をハインズも受け、彼はサッチモによるトランペットの演奏法をなんとピアノに取り入れた。
人呼んで「トランペット・スタイル」。
※ ハインズ自身は「いや、ルイと出会う前からこのスタイルだったよ」と言っているらしいけど、ジャズ史的にはハインズがサッチモの影響を受けた、となっている。
サッチモのトランペットの特徴は、例えば彼が吹いている「ラ・ビアンローズ」とか見ればわかると思うけど、単音をパッっと鳴らして、それをつなげていくようなやり方。
それをハインズは自分のピアノに取り入れて、88鍵しかないピアノでトランペットを再現したということだ。
ピアノでもジャズが出来ることを証明したのが彼なわけですね。
当時はニューヨークで流行していたストライド奏法全盛期。
そこに彼は、単音で力強いメロディを綴る管楽器的な奏法をいきなり打ち出していったわけ。
単なるコード楽器だったピアノで単音のラインを強調するというのは当時としてはかなり大胆な発想だったらしい。
そして、ジャズ・ピアノは、彼が開拓した豊かな地平をひたすら突っ走り、ジャズになくてはならないスターとして開花した。
なるほどねー。
でもね、これらのことはボク自身、ずっと後になって知ったこと。そんなことを知るずっと前に、友人から勧められてこのアルバムを聴いた。
んでもって、すぐ大好きになった。
ファンキーで楽天的で前向き・・・。
ジャズが哲学っぽくなってしまう前の、とてつもない明るさがここにある。
パーソネルは、アール・ハインズ(ピアノ)
リチャード・デイヴィス(ベース)
エルヴィン・ジョーンズ(ドラムス)
まったく文句のつけようがないトリオだなぁと思う。
ジャケットの写真もいいしなぁ。
いいなぁ。
好きだなぁ、このアルバム。
他にも3枚ほど彼のアルバムを持っているけど、中でもこれが一番気に入ってる。
「ジャズ・ピアノの父」、アール・ファーザ・ハインズ。
彼の出現で、アフリカ系の「黒い」土俗音楽だったジャズは、西洋的平均律と合体してちょっと「白く」なったところがあると思うんだけど、でも彼はきっと「もともと白かったピアノをオレが黒くした」と自負しているのかもしれないな、と思う。
彼のピアノがとてつもなく明るく聴こえるのは、その喜びをどこかで歌っているからなのかな、なんて思うんだけど、でもそれは考えすぎ、なんでしょうね。
Here Comes
Earl "Fatha" Hines
1966年録音/BMGビクター
Earl Hines (piano)
Richard Davis (bass)
Elvin Jones (drums)
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