黒蟹県に行ってきました

絲山秋子『神と黒蟹県』

架空の黒蟹県が舞台。
ひろくまっすぐな道路。
隣接市同士の対抗意識。
日本のどこかに、日本のどこにでもありそうな風景。

推理小説は、架空の都市が舞台になっていることが多い。それは、凄惨な事件を実在の都市で、フィクションとはいえ起こすと、都市のイメージダウンになるからなのか。
でも、逆に人気シリーズの推理ドラマが、京都や実在の温泉地を舞台にしていることもあるので、そうとも言えないか。観光名所のピーアールになりそうだ。
ともあれ、推理小説の架空の土地の、地図を眺めるのは楽しい。

『神と黒蟹県』は、そんな架空の土地を推理小説より、もっと深掘りしたような本だ。私は気づいた。私が求めていたのは、凄惨な事件ではなかった。架空の土地の風景をただ眺めることだった。架空の土地に住む人たちの営みを、ぼんやり外から眺めることだった。神の視点で。