目から鱗のハウツー営業㊺【お客様が営業職の要望を受け入れる条件】
「営業職でありながら、交渉が苦手!」
そんな悩みを持つ営業職は非常に多いです。
そして、そのように悩む営業職は
【交渉力=押しの強さ】であり、
【交渉力=本来ならお客様に断られるこちらの要求をYESに変える能力】
と定義し、
これら交渉力を営業職にとって必要な能力と位置付けているのではないでしょうか?
その当然の結果として、
【押しが弱い、交渉力がない】
⇒【自身が営業職に向いていない】
と思い込んでいるのではないでしょうか?
特に営業活動を開始して間もない方、営業経験が浅い方はその点に不安や焦りを覚えていることでしょう。
今回の記事の目的は、そんな方に事実を伝え、安心して営業活動に集中していただくことです。
交渉力も押しの強さも必要なし
まず結論から言いますと、
営業職はタフネゴシエーターである必要はありませんし、
前述の自身の要求を通せる交渉力なども必要ありません。
押しの強さや交渉力が営業職の必須要素というのは根拠なき思い込みです。
もともと必要ないのです。
お客様は神様ではなく、最強です。
何故なら、営業職は徹頭徹尾、お客様のコントロール下にあるからです。
お客様は常に自由自在であり、営業職のコントロール下になどないのです。
お客様は、営業職よりはるかに強い立場を有しています。
何故なら、
お客様はあなたやあなたの会社以外のライバル会社からも買うことも出来、非常に自由で選び放題だからです。
私が「お客様は神様ではないが、最強です」というのはそういう意味です。
【営業職には交渉力や押しの強さが必要だ】という概念は
「うまくやれば営業職はお客様をコントロールできる」という前提の元に成り立っています。
しかし、このように考えると、
そのような前提自体に無理があるというのが最も自然な解釈だと思います。
営業職が自身の交渉力によってお客様をコントロールもしくはリードしていると感じている場合の大半は、
例えるなら、お客様の善意によって用意された舞台で気持ちよく踊らせてもらっているようなモノです。
そう思い込んでいる営業職が、お客様の優しく柔らかい手の平で転がせていただいているだけなのです。
勿論話し方や押しの強さが契約を手繰り寄せる場合が全くないとは言いません。
そういう場合もあるでしょう。
しかし、それは全体としてはあくまでごく一部であり、レアケースです。
それを前提に「交渉力や押しの強さが必須」というのは、
大変バランスを欠いた考え方です。
レアケースから全体像を語るのは、必要でないモノを必要とする誤った認識を生み、事実を歪めます。
お客様の要望受け入れの公式
では、あなたの要望を受け入れるかどうかを決定づけるのが、
あなたの交渉力や押しの強さでないとしたら、
何がそれを決めているのでしょうか?
どのようにしてお客様があなたの要望を受け入れるかどうかが決まっているのでしょうか?
最も正確かつシンプルに言うならば、
【その要望自体の難易度(受け入れることのお客様にとっての難易度)】
【あなたへの好感度・心象】
この二つのバランスです。
この二つを天秤にかけ、
その要望をどの程度受け入れるかを決めているだけです。
例えば、お客様にとって簡単な要望をあなたが伝えたら、
あなたへの好感度がそれほど高くなくても受け入れやすく、
逆にお客様にとって非常にハードルが高い要望ならば、
あなたへの好感度が高くても要望は受け入れがたいということです。
この要望の難易度は、当然お客様の社内での立場やその時の忙しさや精神状態によっても刻一刻と変化していきます。
こうした変化によって難易度もまた変化し、
お客様が「それぐらい大丈夫ですよ」と一旦は簡単に受け入れた要望を、
数日後に反故にするのはそういう理由からです。
交渉の現場とはこのようにいたってシンプルなモノであり、
そこに交渉力などほぼ介在などしていないのに、
結果に一喜一憂し、
お客様に確かめた訳でもないのにその勝因や敗因を勝手に自身の交渉力の有無に限定しているだけなのです。
このようなモノであるという証明は、ご自身が誰かの要望に対してどうやって対応しているかを思い返していただければ、容易に可能です。
さて、あなたがその対応をする中で、相手の交渉力の存在がどの程度の威力を発揮したでしょうか?
恐らく大半のケースはその存在を感じることも思い出すこともないはずです。
また「交渉力の影響が大」という前提で交渉の経過や結果を見つめるより、
このように考えた方が交渉の現場で起きている不思議な現象も無理なく説明が出来るはずです。
このようにシンプルに考えると、
結果を出す営業職の中にも、話し下手で交渉力が到底あるとは言えないという方が必ず一定数存在するという事実も、
逆の現象も無理なく説明できますよね。
つまり、我々が一般的にイメージしているような交渉力などが与えている影響力など実は微々たるものだということです。
※【交渉力=押しの強さ】であり、
【交渉力=本来ならお客様に断られるこちらの要求をYESに変える能力】
交渉とはどういうモノで、どのように結果が決まっているかが少し分かったと思います。
営業職の要望を叶える最初にして最大の壁
その上で、いやだからこそ一つ伝えたいことがあります。
それは、【こちらの要望を極力お客様に伝える事の大切さ】です。
残念ながら、営業職のほぼ全てが自身の要望の半分もお客様に伝えていないはずです。
「無理だろうな」「こんな要望を口にしたらお客様に嫌われるだろうな」と
伝達そのものをためらったり、諦めているのではないでしょうか?
しかし、本来営業職側で「無理だ」「これは流石に受け入れられないだろう」などと考えるべきではありません。
営業職側が「こんな要望をお客様が受け入れるはずがない」と諦めるのも、このように一定の範囲で線引きする事が大人の分別だと思っているのも、
全て根拠なき思い込みです。
先程、
【営業職には交渉力や押しの強さが必要だという概念は
「うまくやれば営業職はお客様をコントロールできる」という前提の元に成り立っています】と主張しました。
営業職側が「こんな要望をお客様が受け入れるはずがない」と考えるのは
「営業職自身がお客様の心情を把握していて、そのボーダーラインを知っている」という前提の元に成り立っています。
一見謙虚に見えるこの態度は、実は傲慢で思い上がった態度ということです。
お気づきのように、この二つは同じような話です。
共に誤った前提の上に成り立っている、根拠なきスタンスです。
営業職の要望を最も葬っているのは誰か?
無理かどうかはお客様が判断することであり、あなたが勝手に無理かどうかを決めるのは無意味かつ根拠のない決めつけです。
このように考えると、営業職側の要望を最も葬っているのは、
お客様ではなく、営業職自身であるという事実が浮かび上がってきます。
営業職側の要望をお客様が受け入れることを最大化するなら、
まず着手すべきは、自身で勝手に葬っている要望を最小化することが
最も効果的で理に適っている、
この事は憶えておいてください。
大事なことなので繰り返しますが、
お客様が営業職側の要望をどの程度受け入れるかは
その実現難易度とあなたへの好感度・心象のバランスで決まっています。
最後のスパイスを付け加えるなら・・・
その上で最後、その次に影響を与える要素も伝えておきます。
それが、こちらの要望の理由・根拠・背景の説明です。
例えば、
『10万円貸して欲しい』、
突然同僚からこのように懇願されたらどうでしょう?
ほとんどの方が様々な理由をつけて断るはずです。
しかし、この要望が同僚からではなく、
親友や兄弟からお願いされたならどうでしょう?
或いは、
同僚がこう付け加えたら、どうでしょう?
「子供が大けがをし、その手術にお金が今すぐ必要なんです」
想像してみてください。
この後者の二つの場合の方が「貸そうかな」と思えるのではないでしょうか?
多くの方に同じ質問をしても、
後者ならば貸してもいいという方が多いはずです。
これら要望の理由・根拠・背景はその緊急度・切迫感が高ければ高いほど、
選ぶ側の判断に大きく影響を与えやすくなります。
こうしたことは
我々(お客様は)はその要望に応えるかどうかを
その要望の内容だけで決めているのではなく、
また依頼主の交渉力によって左右されているのではなく、
【実現難易度】と【依頼主との関係や好感度・心象】を天秤にかけ、
更に、それを求める理由や背景を吟味・加味して決めている、
ということを如実に示しています。
結論
これらから導き出される結論は、非常にシンプルです。
営業職側の要望を最も受け入れていただく方法がこちらです。
① こちらの要望は極力全て伝えること。
② お客様との人間関係を深め、お客様に好かれる言動を心掛けること
③ こちらの要望を伝える際に、お客様が納得できる理由や根拠を伝える。
たったこれだけです。
【交渉事には押し引きや心理的駆け引きを含めた交渉力が必要】
というのは根拠のない思い込みです。
実際には難しいことも高度なテクニックも心理戦も必要ありません。
相手の心理が読めないから、駆け引きが苦手だから、
商談や交渉を前に進められないのではありません。
「こんな要望など通るはずがない」という前提を勝手に作っているから、
要望の大半はその時点で誰にも気づかれることなく葬られ、
次にお客様との人間関係が深まっていないから受け入れられないのです。
まずその理由や根拠を整理し、それと合わせて要望を伝えてみましょう。
そして、出来るだけ相手に好かれるような普段の行動を心掛けましょう。
お客様が営業職の要望を受け入れる条件はこんなにもシンプルなのです。