2023年5月10日 今が全てで苦しい

支援対象者と一緒にカウンセリングに行く。 
法務少年支援センターという場所は 、刑務所に入っていた方が、 出所後 専門的なカウンセリングを 無料で受けられる場所だ。
 そこには 臨床心理士や公認心理師がおり 、その人に合わせた きめ細やかな カウンセリングや心理療法のプログラムをしてくれる。
 私たちの支援 対象者の中には 障害の特性が強く、 社会と 折り合いがつかず 苦しんでいる方が多いため、 よく一緒にカウンセリングに行っている。
今日ご一緒したのは 20代で 親と同居している 対象者だ。
本人も 仕事がしたい 社会とうまくやっていきたいという気持ちは十分強いのだが、 感情が 制御できないことや、 知的障害により 会話の理解ができないこと、 さらに発達障害があり、 特に 心理的なことなど 抽象的なこと を認識しづらい ために、 社会の中で居場所を見つけられず 苦しんでいる。 
真面目な母親とも うまくコミュニケーションが取れず、 本人はつい 母親にわかってほしいという気持ちをつのらせ、 暴言を吐いてしまうことも 多くある。
今までも 数回 カウンセリングに来ていたが、 主にやはり 家族との関係について を相談していた。
だが今日 急に「別に問題ありません。親ともうまくできている」と言い出した。
今までは 分かりやすく お金の管理のことや 仕事のことについて 母と 言い合いする種があった。 
そのたびごとに本人から親への暴言や、あきらかな体調の低下などがあり、本人も周りも大いに振り回されていた。
確かに 今は、たまたま 取り立てて 親と意見が合わない項目などはないかもしれない。
本人と 親とが話すと うまくいかないことが多いため 継続的に母親との関わりについて相談していくことは大事だと、支援者側からは思うのだが、 今日はけろっとして、「別に問題ありません」 である。
今まで この方と関わってきた 私の目には この方の考え方の 癖というか 特徴がよく見える。
それは、今の状況や気持ちを 過去にも未来にも拡張して捉える という傾向 だ。
今の気持ちが 彼にとっては全てで 今死にたければ ずっと死にたい。 今苦しければ 人生まるごと苦しいのだ。 
過去 どうだったとか、 将来 きっとこうなるだろう とかはない。
 ただいまの気持ちを 人生のすべてとして捉えてしまう。 
それは 一度に考えられる キャパシティの問題であったり 、感情の強さや 感情に引っ張られてしまう 傾向 だったり、 長期的に計画的に考えることの苦手さだったりが 合わさって、そういう考え方になるのだけれど、 彼を見ていて やっぱりキツイ よなあと思う。
私たちは辛いことがあっても 今まで乗り越えてきたからとか 明日には きっと今よりも 状況は良くなっているからとか 先のことや 過去のことを思って どうにか 今の苦しさを紛らわせることができる。
止まない雨はない ってやつだ。
だけど彼にとっては 雨はずっと止まないし、 今認識している 苦しみは 彼の人生の 全てになってしまう。
だから余計に 焦燥感 絶望感が募り 感情に 支配されてしまうのだと思う 今までも 苦しい時も 調子のいい時もあるよね と何度も声かけはするのだが そして彼もそうですねと言ってくれるのだが やはり 頭でわかっていても その時の苦しさは 彼にしかわからないし いい時も 悪い時もあるというのは苦しみの渦中にある彼にとってはあまりピンと来ないのだろうな と想像している。
逆に 楽しい時は ずっと楽しいし 特に問題がない時は ずっと問題がないのだ。 
その時は いいかもしれないけれど 苦しくなった時や 不足の事態への備え 準備をしないから 簡単にそういう事態に陥ってしまう。
だから 彼は 今日の気分で 「問題はない」のだ
せめて思う 彼が 人生の全てと思ってしまう 苦しみに なるべく 見舞われないように カウンセリングに来ても 特に相談したいことはないと言えるような状況が なるべく 続いて欲しいと思う。
人生において 何か進もうとすれば 必ず 困難や苦しみが 待っている。 
だから 周りの 私たちが 彼にできない 準備や 心構えを少し肩代わりする。
今日は話すことがなくても また カウンセリングに来ようね そんな言葉をかけて その日のカウンセリングは 終了した。


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