映画とか男とか女とか
先日、映画「Before Midnight」を見終えた。
1995年に始まったリチャード・リンクレーター監督のBefore3部作「Before Sunrise」「Before Sunset」「Before Midnight」からの第3作目の作品だ。今まだ3作品の鮮やかな印象を書き留めておこう。
第1作のBefore Sunrise。オーストリアの列車で偶然出会った20代のアメリカ人男性ジェシーとフランス人女性セリーヌ。途中下車して、夕方から朝までの14時間ウィーンの街をふたりで歩く。途切れることのないダイアローグを紡ぎ、ふたりは恋に落ちる。
第2作は2004年公開のBefore Sunset。偶然の出会いから9年後のストーリー。ウィーンでの出会いの半年後、同じ場所での再会の約束をしたが果たされず、ジェシーは彼らの「14時間」を1冊の本にした。パリの小さな本屋でサイン会の最中にセリーヌが現れ、ジェシーが帰国の飛行機に乗るまでの85分間、ふたりは今度はパリの街を歩く。それまでの9年間はふたりが思慮深く思いやりのある大人になるのに、そして相手がどんなに魅力的で自分にとって必要な人であるのか気づくのに十分な時間であった。
第1・2作とも美しい街並み、頭のいいウィットに富んだ会話、若いふたりが恋愛に至るまでの甘いプロセス、多くの人が憧れるシーンに見入っていたことを覚えている。
今回見た映画はその更に9年後、ギリシャでのストーリー(2013年公開)。
確かに数年前に一度は見たことがある。でもどんな内容だったかは全く覚えていない。セリフが多く場面転換の少ないこの映画を当時の私は退屈に思い、何度も一時停止してはまた再生ボタンを押すという動作を繰り返し、やっと最後までたどり着いたのだった。この映画の面白さを全く理解していなかったのだ。
41歳になったジェシーとセリーヌには双子の娘がいる。著名な作家に招かれて家族と共に沿岸沿いの田舎で夏のバカンスを過ごしている。
ふたりの、あるいはふたりの友人との会話から、彼らの生活のさまざまな断片が浮かび上がる。欲望とテクノロジー、環境問題と景観、永遠の愛の意味、亡くなった祖母の手紙、昏睡状態の後のこと、諸行無常、夢、等々。
最後の場面は友人からプレゼントされた、ふたりだけで過ごすという時間だ。子育て中のカップルにはなかなか持つことのできない特別で貴重な時だ。
ここでも様々なことが話されるが、ジェシーの一番の気掛かりはアル中の元妻と暮らしている息子ハンクのこと。アメリカに移り住んで一緒に暮らすのはどうかと言った一言で、セリーヌが激怒してしまう。普段なら何でもないことまで持ち出してきたり、ジェシーの浮気を暴いたり、とにかくぐちゃぐちゃになって最後はセリーヌが部屋を出て行ってしまう。
途方に暮れたジェシー、でもここからがこの映画の穏やかで最高にユーモラス、そして心に残るクライマックスの始まりだ。
ジェシーはタイムマシンに乗って未来からやってきたメッセンジャー。82歳のセリーヌから手紙を託されてきたのだ。
「この若者はこれまで多くの問題を抱えてきた。でもこれからが人生の黄金期。この若者を救えるのは君だけだ。」と。そしてふたりはBefore Midnightに元通り、仲直りをする。
約1時間ほど続くこの場面では、途切れることなくふたりだけの会話がずっと続く。男の言い分、女の言い分、その正当性をめぐっての駆け引きの面白さが伝わってくる。会話が進んでいくことで、まるで角を曲がって次々新しい景色が見えてくる、そんな感じだ。見えてきたものがまた違う場所へとふたりを連れていく。そうやって最後にたどり着いたジェシーのセリフは、自分の弱さを認めて一歩引きながらもセリーヌと共にこれからよりよく生きていきたいという、新たなる愛の告白にもとれる。
セリフを聞いていて小説を読んでいるかのような映画。そして小説の中の登場人物がすぐそこにいるような感覚的な作品たちだった。
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