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【考察】「あのミルクの意味は?」映画『古の儀式』考察※ネタバレ有り

2020年に公開されたホラー映画『古の儀式』。本作のメインは悪魔との戦いを描いたホラーです。しかし、ホラー映画にしては恐ろしい表現は少なめのような気がします。
ホラー描写よりも、その周りの人々や宗教の描写が多いように感じました。特に「ミルク」
今回はこの「牛乳」を通して、この土地を少し考察していきます。

【考察①】なぜ「ヤギのミルク」? 


画像出典:amazon.com

本作で印象深いのは、何と言っても「ヤギのミルク」ではないでしょうか。ルズたちは。クリスティーナに悪魔が憑いていると気付くと、なんとタンクから直接ミルクを飲まそうとします。あんな風に浴びせられたら、逆に飲めなそうですが……。

ここで疑問に思うのが、「なぜヤギのミルクなのか」というところ。
ヤギと言えば、悪魔の象徴。ヤギの顔、角、そして目。それらは、映画などでもしばしば「悪魔の化身」として登場します。そんなヤギのミルクをわざわざ飲ませるのは、なぜなのでしょうか。まるで悪魔を育てているかのようにも見えてしまいます。

確かにキリスト教をベースにした作品ではヤギは悪魔の象徴のように描かれていますが、他の宗教や神話ではそうとは限りません。
ギリシャ神話のゼウスはヤギのミルクを飲んで育ちました。
同じくギリシャ神話のパン(パーン)はヤギの特徴を持つ神。
北欧神話のトールの戦車を牽く、神に仕えているのもヤギ。
その他にも、自然崇拝の象徴としてヤギ。
キリスト教から見れば、ヤギは「異教」の象徴。現在の「悪魔=ヤギ」のような表現が多く生まれた要因は他にもありますが、ひとつはこの「異教」としての側面です。

さて、本作をもう一度振り返ってみます。本作にはキリスト教的な表現は全くと言って良いほど出てきません。彼女たちの信仰は、キリスト教以前からある「古の宗教」「古の儀式」なのでしょう。だからヤギは悪魔の象徴として描かれていません。

もしかすると、悪魔に憑かれた者の中のゼウス(神性、聖なる部分、良心)を高めるために飲ませたのかもしれません。
または、「ヤギのミルク」とは悪魔が嫌がるものなのかも。後半、悪魔に憑りつかれたミランダがミルクに口を付けようとしないのも興味深いです。
本作に出てくる「悪魔」はこの土地に昔からいる「悪魔」。だからヤギのミルクを拒み、古の儀式が効く、ということなのかもしれません。

あるいは、ただ単純に栄養を取るためかも。「ミルクを飲む?」と聞くルズの優しい声が印象的です。夜眠れない子どもにホットミルクを勧めるように自然に言うセリフが素敵。
生活に根付いていて、栄養があって、心にも体にも良い。本作を観たらなんだか無性にミルクを飲みたくなります。

【考察②】キリスト教的な表現

キリスト教的な表現はほとんど登場しない、と考察しました。しかし、終盤の悪魔との戦いには、キリスト教の象徴が出てきます。それは悪魔に憑りつかれた人物を拘束する方法。まるでイエス・キリストのはりつけのようです。
「現在の宗教の根幹にあるもの・人間や自然のベースにあるもの、その儀式こそがこの「古の儀式」だ」と、いうことを表現しているのかもしれません。全ての宗教の始まりがこの儀式……とまで考察するのは傲慢かしら。

【考察③】なぜあの遺跡へ? 

「なんであの遺跡に行ったの?」
クリスティーナが遺跡・洞窟へ行ったことから物語は始まります。そもそも彼女はなぜあの洞窟へ行ったのでしょうか。母国語もほとんど忘れて、この土地のことだって忘れているようです。覚えていることと言ったら、悪魔祓いの時のこととミランダのことくらい。なぜあの場所へ行こう、行かねばと考えたのでしょうか。ただの取材ならなおのこと、ガイドや詳しい現地の人とまず出会いたいはず。何の情報もなしに、あの場所まで行くのは不自然です。
クリスティーナの同僚カーソンが、冒頭のクリスティーナと全く同じ状況で捕まったのを見ると、彼もクリスティーナと同じように洞窟へ行ったのかもしれません。

洞窟で悪魔に憑りつかれるのではなく、悪魔に憑りつかれた者が救いを求めてあの遺跡へやって来るのではないでしょうか。
もしくは、悪魔に憑りつかれやすい隙のある人物が悪魔に手招きされてあの遺跡へ入ってしまう……。

ルズが、あの遺跡のどの悪魔なのかを調べようとしていたので、後者の考察の方が近いのかもしれません。悲しみ、憎しみ、「薬物」に依存してしまう精神……そんな人たちがあの場所に呼ばれる。クリスティーナもミランダも……。
だから、現地の人々はあの遺跡へやって来た者を保護する。その人たちと区別するために子供たちにはあの遺跡へは行くなと注意する。
保護した人に栄養を与えて、清めて、悪魔と戦う準備をする。そういう仕組みが昔からあって……と考えると、わくわくします。

まとめ

本作は悪魔や宗教、そして文化や伝統を感じられるストーリーになっていました。特に宗教に関して、もっといろいろと考察できそうな隙間があるのも魅力的です。ぜひ、そういった視点でも観返してみてはいかがでしょう? 

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