見出し画像

地球トイレ誕生から5年後。フジロックへ

微生物の力で仮設トイレを快適にする〈地球トイレ〉プロジェクト。2018年に産声を上げた取り組みが、5年後の今、フジロックの舞台に立った。


種を見つけた2018年6月

水場、生ごみ、ついでにトイレ

2018年6月に開催された〈橋の下世界音楽祭〉。愛知県豊田市矢作川の河川敷で開催される音楽イベントで、「出店者も来場者も使う水場(普段は公園の水飲み場)の浄化と悪臭対策にEM(微生物)を使って何とかならないかな?」と出店している友人から相談があった。

「悪臭対策は何とかなると思うけれど、食べ物の残り汁の浄化には物理的なろ過の方が効果的だと思う。EMを流すことで、川に流れた後に有機物の分解を速めて、自然の浄化力を助けることはできると思うけど。」
「何日も河川敷に泊まって食事をしているなら、そこで出る生ごみを回収して肥料化することはできるね。」
「あとはトイレに入れて悪臭対策かなー?」

という推測を立て、EMの液体と生ごみバケツと生ごみ肥料化用の米ぬか(ボカシ)を持って、橋の下へ。

生ごみ用と浄化とトイレ用

快適おトイレ隊結成?!

最初はトイレの中に生ごみ用のボカシとEMの液体を直接流すことしか考えていなかったけれど、参加者さんの中でEMを知っている方がいて、「EMがあるなら掃除しちゃおうよ!」とスプレーボトルを買ってきてくれ、あれよあれよと、トイレ掃除部隊結成。

トイレ掃除の表記とスプレーボトルを用意してくれたプールさん(右)
会場から回収したペットボトルにスプレイヤーを装着
自主的に掃除をしてもらえるよう、トイレの中に貼付。プールさん作。

トイレ対策はどちらかというとオマケみたいなもんで、生ごみ肥料化と水場の悪臭対策が主だった。

ところがどっこい!
トイレが劇的に快適になり、毎年参加している出店者の方から

「(臭いから)毎年なるべくトイレの滞在時間をかけないようにするんだけど、今年はちゃんと出し切れた!」

の声(笑)。
仮設トイレのド真ん前で飲食ブース出店していた方からも「臭わない!ありがとう!」と言われた。

EMを便器の中に投入!

誰もが嫌がる・誰もが喜ぶ「仮設トイレ」

橋の下で「はっ!」としたことは「仮設トイレこそ、EMの出番だ!」ということ。

・誰もが使う
・誰もやりたいと思わない
・やったらみんな喜ぶ
・EMの説明をしなくても効果がわかりやすい(ニオイ)

この4点を満たすものが「仮設トイレ」だった!
「東北の震災の避難所でも仮設トイレでもEMが使われていたことは知っていたけれど、なぜここに気づかなかったんだろう?」と思ったね。

当時の自分のFacebookでは
「全国でイベントの生ごみと快適おトイレ隊を結成したら、菌を大切にする事、環境の事を考えるきっかけになるのかもしれない、と思った。誰もやりたくないけど、やればみんなが喜ぶ事がEMは得意なんだろうな。」
と書いていた。

いつの間にやらスタッフTシャツ来て水場とトイレ担当に。正村さん(左から2番目)は最初から気にかけて手伝ってくれている。

トイレ対策はメインじゃなかったけれど、これがこの後、フジロックまで成長していくとは全く思っていなかった。

芽が出た2018年9月

フェス→フェス→フェス

2018年は仲間と初めてフェスを企画した年でもある。〈〇〇まるごと発酵フェス〉というイベントを7月に主催した。
フェスを振り返った記事はこれ ↓ に譲るとして、地球トイレへの流れを振り返る。(最近、2018年と2023年を並べる機会が多いなぁ)

実は、2018年の橋の下には私の夫も最終日に手伝いに来てくれて、EMのトイレ効果を実感。

夜な夜なEM投入する夫、2018。

かねてより、「発酵(微生物)と音楽を繋げたい!」と言っていた夫。
「これはいける!」と思った彼は、私たちのフェスに出店してくれていて、なおかつ毎年〈中津川THE SOLAR BUDOKAN〉に出店している方に「中津川イベントのトイレ掃除をしてみたいんだけれど、主催者を紹介してほしい」と相談を持ち掛けた。
その方は私たち夫婦をとても応援してくれている方で、あっさり主催者とつないでくれ、夫が主催者に会いに行った。

ちなみに、紹介してくれた方は、私ら夫婦が大感謝祭という名の結婚式をしたライブハウスのオーナー(笑)。

〈地球トイレ〉誕生

〈中津川THE SOLAR BUDOKAN〉の主催者にトイレ掃除の話をしたら、ちょうど2017年にトイレで問題があり、2018年はトイレを何とかしようと課題に挙がっていたとのこと!
そんなところに、「トイレ掃除やりたいです!」という(変なw)人たちが来たのだから、向こうもWelcomeで話はトントン拍子に進んでいく。

〈中津川THE SOLAR BUDOKAN〉は3万人規模の音楽フェス。ソーラーパネルを使った電気供給や食材の放射能検査など、環境問題にアンテナの高いフェスで、有名なミュージシャンもたくさん来る。

そんなところに「快適おトイレ隊」なんてダサイ名前でチームを組みたくない(笑)から、夫が友人のデザイナーさんに相談してネーミングを考えてもらった。

それが、〈地球トイレ〉。

地球トイレ誕生時のポスター

"用を足す。地球のことを考える。"

当初のキャッチコピー。
私たちが出したものはどこへ行くのか?
捨てたものはどこへ行くのか?
目の前からなくなったら終わり?
それらは巡り巡って、自分に還ってくるんだよ。

そんなメッセージが込められていた。

夫が仮設トイレへのEM効果を体感し、大きな音楽フェスへとご縁を繋いでもらおうとしたのも、海をキレイにしていきたいから。

川に直接EMを流すよりも、仮設トイレをEMの培養装置にして、さらに増えたところで海に放出されたらもっと効果的◎
その過程で喜んでくれる人が多くなるのなら尚更一石二鳥・三鳥◎

そんな想いもあり、〈中津川THE SOLAR BUDOKAN2018〉で〈地球トイレ〉が誕生した。

夫の想いを取材してもらった記事はこちら ↓

花が咲いた2019年

地球トイレデビューの〈中津川THE SOLAR BUDOKAN 2018〉は大成功!(レポ ↓ )

2019年には、〈中津川THE SOLAR BUDOKAN〉の公式サイトで〈GREEN ROCKER'S〉の称号をつけていただき、紹介ページまで!感動!
〈地球トイレ〉が市民権を得て、花が咲いた2019年だった。

リーダー交代の兆し

2019年までは夫が地球トイレのリーダーとして旗振り役をしていた。

2019年の中津川地球トイレミーティングの時にふと、私が知らない顔の人がいた。それが、長谷部さん。

二代目リーダー・べーやん。(写真は2023年@FUJI ROCK)

彼は前職で、トイレ掃除で会社の雰囲気が変わることを体感してきた人で、家のトイレも敢えて和式にしちゃうような人(笑)。(一社)日本トイレ協会の方とつながっていったり、環境保全コミュニティの事務局を請け負ったり、とにかく動き回ってつながりをつくっていく人。

そんな強力な新規メンバーが入り、もちろん、2019年も大成功!(レポ ↓ )

そして、実をつけた2023年。

2020年から新型コロナの気配が世界を覆い始め、飲み会から大きなイベントまで、開催中止や規模縮小を余儀なくされた3年間。そんな中でも、地球トイレはイベントで実施されたり、ポーランドでも実施されたりと、小規模ながら動いていた。
その間、リーダーは夫から長谷部さんにバトンタッチ。

そして、今年、2023年。

〈中津川THE SOLAR BUDOKAN〉と〈FUJI ROCK FESTIVAL〉 の両イベントに関わる関係者の方が、FUJIの主催者に地球トイレの取組みを伝えたらしい。

〈FUJI ROCK FESTIVAL〉のトイレ事情はSNS上でも問題視されていて、主催者も頭を抱えていたところに地球トイレの話が来たので、こちらもWelcome状態。

あれよあれよと、日本一の音楽フェス〈FUJI ROCK FESTIVAL〉の舞台へ!!

10万人のフェス。仮設トイレ140基

私たちが体験した規模の最大は2日で3万人、仮設トイレ90基。
2023年の〈FUJI ROCK FESTIVAL〉は前夜祭を含めた4日間で11万4,000人(公式発表)、掃除を担当する仮設トイレは2エリア140基。

第一基地 80基。開場後、カオスと化す。
第二基地 60基。こちらもカオス状態へ。

大小12エリアで、朝8:30~翌朝5:00×3日間、音楽以外のイベントも含めて何かしら開催されている〈FUJI ROCK FESTIVAL〉。自然散策をしたり川で遊んだり、音楽を聴いたり、木陰でまったりお酒を飲んだり…楽しみ方は人それぞれ。

川の水はめちゃ冷たくて気持ちいい。

地球トイレメンバーはロゴ入りのキャップを新調し、8:00~16:00の午前班と15:00~23:00の午後班×2エリア4チームに分かれて出動!
私は午後班第二基地のリーダーとして動いていた。

地球トイレロゴ入りキャップ!

キャップメンバー16名、アルバイトさん20名ほどで4日間を回す。前夜祭は第一基地に集まり、初めてのメンバーに掃除方法をレクチャー。

どちらの班も1時間に1回はすべてのトイレを掃除していた。
やることと言えば、

1.EMを室内全体と便器全体に散布する。
2.便器の中をブラッシング。
3.便座の蓋、便座、便座の裏、便器を拭きとりする。
4.サニタリー袋の交換
5.トイレットペーパーの補充
6.忘れ物やその他ゴミの回収

が基本。
でも…「詰まった」「水が流れない」「ケータイを落した」「手洗い場の列なのかトイレの列なのかわからない」などなど、毎回何かしら起こる。

和式
洋式
第二基地。手洗い場の行列。まだマシな方。

私たちとは別のチームが仮設トイレの裏にある汚泥タンクと水洗タンクにもEMを入れてくれていた。(たまにこちらもお手伝い。)

「掃除だけじゃん?」と思うかもしれないけれど、第一と第二を往復したり、なんやかんやで結構ヘロヘロになるもんなんですわ(笑)。

〈FUJI ROCK FESTIVAL〉の会場である苗場スキー場は標高800~1000mで、普段は気温が30℃になるのが珍しい土地。それが、30℃近い猛暑日が連日続いた2023年。雨も降らず…。
暑さ、掃除、人の多さ、終わってからの乾杯(笑)で、ここ10年で一番動いた4日間だったと思う。万歩計で計っていた仲間によると、1日2万歩は平均歩いてた!!

仕事時間外でも楽しみました!
仕事終わりにみんなでジョニーウォーカーハイボール店に通う。常連客になりました。

利用者の声

作業直前はヘロヘロックになっていた私ですが、作業が始まると体は動けるもんだよね。動いている時は疲れを感じない。
そして、SNSの投稿でトイレのコメントをアップしてくれているのを見ると、ますます元気になる!

・「フジロック、洋式トイレ素晴らしい。常にスタッフの方がチェックして清掃して綺麗を保っていた。更にトイレが良くなることを期待したい。」
・「今年は例年よりもトイレの清掃が行き届いていて快適でした。STAFFさん暑い中お疲れ様です。」
・「フジロックのトイレもしかして消臭に力入れてくれてる?去年よりめっちゃ快適になってくれている…それか、私の嗅覚が落ちたか」
・「トイレは定期的に清掃が入るからニオイはあるけど綺麗が保たれてる」
・「トイレ清掃するスタッフ初めて見たけどフジロックの便所はおそらく日本で1番汚いのでヘッドライナー級のギャラをあげてほしいな」

などなど…。
私も掃除をしていたら、外国の方が「ン~、コノシゴト、トイレ、キレイ、スバラシイ!」と片言の日本語で声をかけてくれた。
もちろん、ニオイは完全になくなったわけではなく、SNSでは「臭い」「入りたくない」コメントも多々。
仮設トイレ自体の個体差もあり、様々な課題は残しつつも、2023年フジロックはひとまず大成功!!

地球トイレが目指すもの

地球トイレは表向きは
「フェスの仮設トイレを自然の力で快適にすること」。
でも、真の目的は

① 仮設トイレを善玉菌の培養装置にして地球の浄化力を高めること。
② フェスという楽しい”非日常”の中で、仮設トイレ、炊き出し訓練などの”防災訓練”を行うこと。

だと思ってる。

汲み取り車にEMちゃんがお引越し中。

2018年6月に私が地球トイレの種を見つけ、
2018年9月に夫が地球トイレの芽を育て、
2019年に地球トイレの花が咲き、
2023年に長谷部さんが地球トイレの実を結ばせた。
この実はきっとおいしくみんなの笑顔を増やし、
その種は風にのって広く運ばれていくだろう。
どこまで飛んでいくか、楽しみだ。
トイレから海へ、地球へ。

それが、〈地球トイレ〉

地球トイレ関連サイト


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?