見出し画像

グレートモンゴリア・ゴビデザートマラソン2019

小学生の頃だったか、いつか砂漠を旅してみたいと思ったことがあった。その願望が潜在意識に溶け込んで数十年経ち再び心に浮上する。

きっかけは何だったか覚えていないが、数日間かけて砂漠を走るマラソン大会の存在を知る。しかしながら、参加するには安月給のサラリーマンである身では様々なところでハードルが高い存在、その情報を知った時点では「まあ定年になってマラソンできる体力があったら退職金で参加出来れば良いかな」程度に思っていた。

砂漠マラソン大会はいくつかの主催者があり、ふと見つけた一つにモンゴル・ゴビ砂漠で比較的安価で様々なサポートがある大会の情報を得た。

SSERという四国に拠点を置く日本のNPO法人で、件の大会では「走るだけの装備と数キロ毎のエイド設置」「各ビバーク地点ではテントを提供」「朝・夕の食事のケータリング」というサポート内容となっており、そうした保護された環境下で6日間・約250kmのステージレースが体験出来るのだ。いわば学生時代の夏合宿に参加するような安心感。正直、ひと晩で100kmとかふた晩で100マイル走る(歩く)大会に比べれば随分と身体に優しい条件である。コレは参加しない理由はない、ということで勇んで参加申し込みをした。

参加するにあたってもウルトラトレイル大会にあるような複雑なポイント制や◯km以上の大会を完走、とか自己責任を匂わす面倒な条件はないので気軽に参加できる。エントリー費用については申し込み時期にもよるが約6万円台、現地までのエアと大会前後のホテルのパッケージで約30数万円ということでトータル40万円あればお釣りが来る料金設定である。

画像2

モンゴルまでは首都のウランバートルまで成田からの直行便が一日一本運行しており、日本との時差は+1時間なので大体6-7時間くらい乗ることになる。現地通貨はトゥグルグといって、トゥグルグの下二桁の00を取って半分くらいにすると日本円の金額になる。現地物と思われる物品は日本よりも遥かに安いが成田空港内での両替は出来ないので余剰分は帰国前のホテル等で戻した方が良い。

画像3

画像4

今回のマラソン大会ツアーの旅程は8/23-8/31までで、8/23と8/30の夜はウランバートル市内のホテルに泊まることになり、8/24は装備チェックと説明会を経た後にマラソンコースまでの移動日に当てられ、大会自体は正味8/25の朝から8/30の昼までのスケジュールである。ウランバートル市内は交通渋滞が凄まじく、例えば5km進むのに約1時間かかるということなので歩きとほぼ変わらないことになる。確かにチンギス・ハーン空港から11km先のホテルまで2時間かかったのには驚いた。

画像5

8/24の昼過ぎにはホテルを出発してゴビ砂漠の北端にあるツーリストキャンプ「バヤン・ゴビ」にツアー専用バスで向かう。距離にして約300km、5-6時間の行程だ。

画像5

画像6

画像7

ツーリストキャンプ「バヤン・ゴビ」に到着したのは19時頃だったと記憶しているが、日の入は20時過ぎということもあり十分に明るい。このツーリストキャンプはいわばリゾートホテルさながらでゲルの中にはベッドも完備、離れにレストランやトイレ・シャワーも完備されており、砂漠マラソンがイメージさせる「極限の中の数日間にわたるステージレース」とは程遠い印象である。

今回の大会参加者は日本人18名・モンゴル人が3名ということだが、日本人参加者のキャラは様々だ。その中にはサハラ砂漠のマラソン大会を完走した人達がいることも想像できたが、下駄や全身着ぐるみで完走(完歩)したツワモノや、国内でも「川の道」や「白山ジオトレイル」大会経験者、今回のゴビ砂漠マラソンをワラーチで走破しようとする人、昨年結婚して大きなことをやりたくて今年の4月からトレーニングを始めてこの大会に臨む新婚さんなど、やはりマトモな人達でない集まりであることは確かである。モンゴル人もオリンピック代表候補の女性や体育大学出身者など大会中の各日ではスタート直後しか走る姿を見る事ができないエリートが参加している。

画像8

画像15

画像10

画像11

画像12

画像14

画像15

画像16

画像17

大会は6日間のステージレースというのは前述の通りだが、各日の走行距離は1日目:35.5km、2日目:41.0km、3日目:50.1km、4日目:56.8km、5日目:42.5km、6日目:20kmという構成で累積標高は通して1857mなので、その気になれば全て走り通すことが出来るコースレイアウトとなっている。コースはピストと呼ばれる車両の通り跡を辿って進むことになり、割とボコボコとしているので走りにくく、油断すると足を捻ることもある。またコース標識は500m毎に設置されて難しい地点にはさらに表示されているので注意深く追っていればほぼ間違うことはなかろうかと思う。エイドについてもおおよそ6km毎に設置され、ミネラルウォーターはもちろんジュース類、お菓子、場所によっては一口サイズのおにぎりや即席メンなどその充実ぶりには驚かされる。とは言え、これらの距離を毎朝8時から走るので正直4日目辺りから気持ちが萎えてくるが、一方で最終日の解放感は半端なく嬉しい。20kmという距離がまるで一瞬で終わってしまうような麻痺状態に陥るのだ。

1日目のコースは付近を一周するので豪華なツーリストキャンプに一泊する形になるが、2日目以降は主催者が用意してくれている複数人用のテント泊になる。2日目は5人だったが3日目以降は3-4人のテントとなった。ビバーク地は標高が1200m台から日によっては1900m台だったので昼は20℃台後半でも明け方は0℃近くの日もあり、昼の日焼け対策と朝晩の防寒対策は必須である。また乾燥も半端なく、乾燥+日焼けによる唇の荒れは特に注意が必要である。

画像20

ビバークなので2日目以降は風呂もトイレもない。走後はボディシートなどで汗を拭いて主催者の用意する井戸水に余裕があればウエア類も水ですすいで干しておくことも出来るが早めにゴール出来るランナーの特権かもしれない。トイレは茂みを見つけて野に放つしかない。広大な土地ではあるがゴミや環境問題のこともあるので水に溶けるティッシュを持参した方が良いだろう。

画像19

食事については主催者運営スタッフが朝晩にケータリングをしていただける。メニューは多岐にわたり郷土料理のモンゴルスープ(ヤギの塩味のスープ)や日本人向けでカレーライス、お好み焼き、おでん、かき揚げ、ペペロンチーノ、中華スープ、味噌汁など日替わりで豊富なアイテムをいただける。そして、ほとんど電波の入らないエリアで夕食の後はやる事がないので夕陽が落ちるマジックアワーを観たり満天の星空に包まれて眠ることになる。

画像18

画像21

画像20

砂漠レース、というワードでついつい特別な装備が必要か?特別なトレーニングが必要か?みたく身構えてしまうかもしれないが、この大会については大会の定めるレギュレーション通りに必携品・推奨品を準備すれば良く、多少トレイルを走れるスキルがあれば不必要に臆することもない。

総じてマラソン大会・ステージレースということで当然タイムや順位を意識しながらの楽しみ方はもちろんある。しかしながら、それ同等に目の前に飛び込んで来る想像を越えた自然に感銘を受け自身の置かれた幸福感をじっくりと噛み締めて時間を過ごす楽しみ方もあるだろう。幸いにして大会中は晴天に恵まれて天気急変・低体温の怖さは分からず終いだったので良い事ばかりしか書けないが、彼の地ほど「悠久」という言葉が似合う感覚を持ったことがないほど素晴らしい経験を五感で味合わせてもらった。主催者は表彰式の挨拶で「ネイチャーランニング」というワードを発しておられたが、まさにそれに相応しい貴重な経験をさせていただいた。この大会にリピーターが多いのもこのモンゴルの大自然と相まって選手一人ひとりを労わる熟練された運営姿勢の為すところが想像でき、もはや尊敬と感謝しかない。また機会があれば何回でも参加したい大会であり、こうしてnoteに画像も上げてもその魅力を伝えることは一見に遥か及ばず、ランナーたる者一生に一度は参加しておいた方が良い大会として記憶ハッキリしているうちに多くのランナーにお勧めしたいところである。

画像22


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?