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笑顔で去っていった先輩に届きますように。

芯のある女性になりたい。
なんとなく、昔からそう思っている。ドラマでも小説でも、好きになるキャラクターはだいたい「気が強くて自分を曲げない女性」だ。

いつからこうだったんだっけ。記憶を遡ると、中学の先輩の笑顔が浮かんできた。

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2010年7月。中学2年生の私は、1日の大半を蒸し暑い音楽室で過ごしていた。
夏休みが始まった途端、吹奏楽コンクールの追い込みに入ったのだ。

コンクールメンバーのほとんどは、引退を控える3年生。
2年生の私は、「3年生だけでは打楽器の人数が足りないから」という理由だけでメンバーに選ばれていた。

先輩方の間で少しずつ深まっていた溝がもう戻れないところまできたのは、本番3日前くらいだったと思う。

突然開かれた話し合いの中で、後輩の私は何もできなかった。

仲間割れした理由は、コンクールに取り組むスタンスが違ったから。
「絶対に金賞をとりたい派」と「結果がどうであれ楽しく引退したい派」。

30名ほどの先輩方が真っ二つになっていた。たぶん25 : 5くらいで、多数決なら「絶対に金賞をとりたい派」が圧勝。
数少ない2年生は全員、空気を読んで多数派に流れた。

話し合いの記憶はほとんどない。
唯一覚えているのが、トランペットの先輩が「楽しく引退したい派」だったことだ。

いつも中心に立って部をリードしてくれていた先輩だ。たしか副部長だった。
楽器に対してストイックな印象があったから、先輩が結果よりも楽しさにこだわることに違和感を覚えたのだ。

でも、翌日には違和感なんて忘れてしまっていた。

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意見がまとまらないまま迎えたコンクール。

結果は「銀賞」だった。
多数派の目標には届かなかったし、すべての学校が必ず受賞できるコンクールにおいて、「銀賞」はなんとも微妙な結果だ。

結果発表後のミーティングは、どんよりとした空気に覆われていた。先輩方のほとんどは泣いていたはずだ。
悔し涙を流す先輩方に囲まれて、これが最後ではない私はどう振舞っていいのか分からなかった。

気まずさを誤魔化そうとしてあたりを見回すと、トランペットの先輩が笑顔を浮かべていた。
ほとんどの人がうつむいて泣いている中で、まっすぐ前を見る先輩は異質な存在だった。そこだけ空気の色が違う気がした。

話し合いの光景が蘇って、ハッとした。
先輩は本当に結果にこだわっていなかったんだ。先輩の中で納得のいく演奏ができたから、それで良かったのだろう。
幼い私は、とっさにそう解釈した。

空気が読めていない。そう評価する人もいるのだろうが、私は素直に思った。先輩、超かっこいい。
私が先輩の立場だったら、全然悔しくなくても申し訳なさそうに振舞ってしまう。無理にでも涙を流そうとするかもしれない。

まわりがどうであれ、自分の価値観を大切にする。
多数派に合わせるべきだと思っていた私にとって、その姿は衝撃的だった。

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あれから10年。

連絡先も分からないけれど、いま先輩に会えたなら訊いてみたい。あの時どんな気持ちだったんですか。
もしかしたら、自分が泣くのは申し訳ないと思っていたのかもしれないし、人一倍言い争いが嫌いだっただけなのかもしれないから。

当時はかっこよさしか感じなかったけれど、今思うと先輩なりに無理していたのかもなあ。
思い切って「かっこいいです」「輝いてます」って言えばよかった。

もう後悔したくないから、noteでこっそり言わせてください。
あのとき先輩は、たしかに輝いていました。ずっと憧れです。

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