「白い光」ができるまで
はじめに
昨年9月に着手し、同年10月に「白い光」が、そして今年5月には「白い光(世界MSの日2021)」が公開されました。およそ9か月に及ぶ制作が終了しました。ここでは制作の裏側などを自分が覚えている範囲でお話ししようと思います。
なお、歌詞については、以下の記事で詳細に解説しています。よろしければあわせてご覧ください。
「白い光」ができるまで
「NMOSDの日を制定するので、その日を飾る合唱曲をつくってほしい。」という依頼から始まりました。最初は棚橋が単独で制作する予定でしたが、デモを聴いて意見交換しているうちに、これはエソラタイムズの二人で制作した方が良さそうだ、となりました。
合唱曲は患者の方が歌うことを想定されている、とのことだったので、自分が歌唱することは控えることにしました。
作詞担当としてはまずまったくの未知であったNMOSDのリサーチから始めました。ひと通り調べてなお不明な点や疑問点は都度確認し、解消していきました。膨大な情報の咀嚼と要約を繰り返し、一旦自分の言葉で歌詞に落とし込んだうえで、細かなニュアンスは患者の方に確認、調整していきました。過不足のない歌詞に仕上げられたと思っています。
メロディは担当していないのであまり言及できませんが、デモ曲を聴いた際に一部変更をお願いしており、それが現在の形になっています。
編曲は合唱曲らしさを演出するため、ピアノのみとしましたが、前奏・間奏・後奏をはじめとした聴かせどころも多く用意されています。
MVは企画から編集にいたるまでのすべてを行いました。かなり大変な作業でしたが、MVを見据えた楽曲制作の感覚を掴むことができ、良い経験をさせてもらったと思っています。
チャリティーソングとしての販売も提案しました。MSキャビンさんの活動内容に寄り添うことを前提として、MV以外にも何か貢献できることはないか、という思いからです。ご購入いただいた皆様、ありがとうございました。
「白い光(世界MSの日2021)」ができるまで
ありがたいことに「白い光」の反響や好評を受けて、「世界MSの日に白い光を使用したい。今度はエソラタイムズの二人で歌って、編曲もより豊かなものにしてほしい。」と再びのご依頼をいただきました。
この時、「依頼通りにただ二人で歌って編曲するだけでは前回ほどのインパクトもないだろうし、変わり映えもあまりしない。それでは芸がないな。」と感じたため、「二人でやる」とはどういうことなのか、改めて考えることにしました。結果的には楽曲を頭の中で一度分解し、新たな解釈の元に再構築する、いわゆる「リアレンジ」という手法を選択しました。制作はやや難航しましたが、良い仕上がりになったと自負しています。
リアレンジの変遷
二人でやる最大の意味は、「患者とその友人」という実際の二人の関係性を楽曲に反映できることだと考えました。これを念頭に置いて、以下のように制作を進めていきました。
まず、二人で歌うことになったので、歌唱パートの分担やハモリパートの作成が必要になります。しかしながら、原曲のキーが自分としてはやや高く、そのままでは歌いづらい状態だったので、転調を取り入れることにしました。歌の開始時点ではキーを少し落としており、二度の転調を経て最終的には原曲と同一のキーで楽曲が終わるようにしました。これにより、歌唱パートは無理なく分担できるようになり、原曲とまったく違う印象をもったまま楽曲を聴き終えてしまう、といったことも回避できるようになりました。
続いて編曲です。原曲を聴いてくださった方々の年齢層および実際の患者の方々の年齢層から「奇をてらわず、王道のバラードを軸としつつも、ある程度トレンド感も取り入れているサウンド」を目指すことにしました。加えて、繰り返し聴いてくださる方が多かったことから、「違和感につながらないように、よく耳にする楽器や音色、複雑すぎないリズム・メロディ・ハーモニーで構成する。」かつ「聴き疲れることのないように、音数を詰め込み過ぎず、出来るだけ削ぎ落とす。各楽器は演奏しようと思えば演奏できるくらいの難易度にする。」といった条件も設けることにしました。いつか演奏会などで演奏していただけたら良いな、と勝手ながらに思っています。
余談として、今回初めてストリングスを導入しましたが、楽曲の王道バラード的な雰囲気づくりに大きく貢献してくれました。
「合唱曲」という依頼ではなくなったため、曲構成も見直すことにしました。まず、近年のトレンドである「前奏なしの歌始まり」を取り入れています。伴って原曲中の前奏と後奏のピアノは割愛、特に重要なモチーフとなっていた間奏については登場箇所を変更することで残しました。途中と最終盤には新たなセクションを追加、あわせて歌詞も書きおろしました。この部分のみ「患者の友人視点」で書かれています。「MS患者とその友人」という二人の実際の関係性を歌詞に反映することで、本楽曲がより大きなつながりを内包したものになるのではないか、と思ったためです。最終盤のセクションはやや静かな終わり方にしています。気持ちが高まったままではなく、少しずつ落ち着きながら余韻とともに楽曲を終えて、そのままの流れで日々の暮らしへと戻っていってほしい、という思いからです。
BPMも少し落とすことにしました。患者の方が歌うことを想定されていた原曲に対し、今回は我々が歌うことになりました。伝える側として、歌詞を患者の方々によりしっかりと届けるために、このような手法をとりました。一番最後の歌詞である"白い光"の部分ではBPMを一時的に落として間(ま)をつくり、そこからまた元に戻すことで、ゆったりとした余韻感を演出しています。
最後に、余談ですが楽曲は〆切当日である5月19日の15時32分に完成しました。
コード譜
本記事公開前にご相談をいただいていたので掲載しました。コード進行のみでは楽曲の細かなニュアンスまで再現しきれませんが、ご参考にしていただければと思います。
「白い光(世界MSの日2021)」
BPM:78
Key:D
D Bm G A
今日のようにまた 明日も過ごせるだろうか
DM7 F#m7 G9 A7 F#7
あの日から続く 孤独な旅路に咲いた花
Bm7 GM7 A7 Bm7 A7
変わらない朝を迎えて 一人起き上がり
GM7 A7 D6 F#m7 F#7
いつものように陽を浴びることさえも
Bm7 GM7 A7 Bm7 A7
何気なくとる仕草のひとつひとつが
G A7
奇跡だと気づかせてくれた
Dsus4 D Dsus4 D
白い影
Key:F
F Dm7 B♭M7 Csus4 C
零れ落ちただけ 掬えるものもあるだろう
FM7 Am7 B♭M7 Am C♭9
あの日から続く 不安な旅路に架かる虹
Dm B♭ C F Am/E
温かい友や家族の優しさに触れて
B♭ C C7 Fsus4 F A7/E
抱えず素直に頼ることを 知った
Dm B♭ C F Am/E
ありふれていた暮らしのひとつひとつは
B♭ C C7
もう一度色づいてゆく
B♭ C Am Dm
涙を拭ったそのまなざしに
B♭ C F
曇りなき憧憬れを宿して
E♭ B♭ C Am A7 Dm Dm/C
思い 描いたその場所へとありのま ま
B♭ C F
共に歩んで行こう
B♭ C Am Dm
B♭ C F E♭
B♭ C Am A7 Dm
B♭ C F(omit3) E♭5(omit3)
N.C.
光を湛えたこのまなざしで
わたしは今を見つめている
いつか心が晴れ渡る時を信じて
B♭ C F G
共に歩んで行こう
Key:G
C D Bm Em
光を湛えたこのまなざしで
C D G
あなたと未来を見つめていたい
F C D Bm B7 Em
いつか心が晴れ渡る時を 信じ て
C D Em
共に歩んで行こう
C Am D C
あなたとわたし この手をつないで
G Em C D
今日のようにまた 明日も過ごせるだろうか
G Bm C D
いつも変わらずに あなたのことを照らしている
G Gsus4 Gsus2 G
白い光
楽曲を作り終えて
「白い光」と今回の「白い光(世界MSの日2021)」は同じ世界観のもとで制作されていますが、楽曲が見せる表情や聴いた人への伝わり方は大きく異なるものになったと思っています。それぞれに良さがありますので、ぜひ聴き比べてみてください。
佐藤シオン
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?