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プリトニア国物語 3話 エドガーの留学

エドガーは16歳の誕生日を迎えた。
そのとき、母からユニオンへの留学へのチケットをわたされた。
「これは、父さんが死ぬ前にあなたに残したものよ。」
父の二の舞になることを恐れたが、そのころには執事になることにむかしほど熱意もなかった。あとは単なる好奇心からエドガーは留学を決めた。
出航の日、エドガーの留学をサウルは知った。
エドガーの留学の件を聞くと、少し、にやついてから
衛兵に言った。
「おいっ、今から、エドガーの葬式の準備をしろ。」
エドガーの留学にはプリトニアで最も勉強熱心といわれている10歳の少年ルイジが同行する、とエドガーには伝えられている。
エドガーは波止場でルイジを待っていると、
「おーーーい。」
丸い眼鏡をかけ、荷物をたくさん背負って、大きな声をだしながら、こちらに走ってくる少年がいる。
「あなたがエドガーさんですか?」
少年は目を輝かせながら聞いてきた。
「そうだよ。よろしくルイジ。エドガーだ。」
ルイジはエドガーから差し出された手を両手で包み、激しく手を振りながら、握手した。エドガーの腕は今にも引きちぎれそうな感じだった。
「いやーよかったよ。ルイジはいい子そうだから。」
エドガーはそう話しているが、ルイジは舐めるようにエドガーを見ていて全く話を聞いていない様子だ。
エドガーの観察を終えたルイジは「これからなんと呼べばいいですかね。」と聞き、エドガーも
「エドガーでいいよ。」と答える。
「さてとエドガー、目的地はあっちだね。」
ルイジは大きなパックバックから大きな地図を取り出して言った。
「いや、それは必要ないよ。船が送ってくれるからね。」
海の向こうから汽笛の音が聞こえてきた。
船が波止場に近づいてくる。
そして、船はエドガー達を乗せて、汽笛を鳴らしながら波止場を去って、海の奥の方へ消えていった。


到着
二人まず驚いた。ユニオンは本来、プリトニアより面積も人口も国家の規模も小さい国であるはずなのに、とても栄えていた。二人は入国の瞬間、あたりを見回し、
「うわー」と感動をわかりやすく声に出してしまった。
家々は鮮やかな色をしながら、街中にカラフルをつくり出し、水上には白いボートの上でオーケストラが演奏している。その街の中心には空まで伸びる大きな樹があり、その大きな枝の上にもまたたくさんの家がある。
エドガー達がその大きな樹の真下に行くと、樹が大きすぎてそこだけ夜になるのだ。木漏れ日が星のように見える。樹だけで夜空をつくっていた。
幻想的な光景を目にした二人は樹の中を後にした。
王宮の方に向かっていくと、大きなドラゴンが正面からやってきた。
「うわ~あれは何ですか。」
ルイジは急なドラゴンの登場にびっくりしたようだ。
「違うよ。きっとあれは山車だ。おそらく今日はパレードなんだろう。」
「じゃあ、行きましょうよ!レッツラゴーですよ。」
ルイジは急に元気を取り戻したらしい。
二人が山車が通るのを眺めていると、パレードの騒音の中から、ぶっぶっぶふーふーっふ、とつたないラッパの音が聞こえてくる。ふたりとも耳をふさいだ。正体は山車の横の吹奏楽団に交じってラッパを吹いている少年だった。少年は疲れたらしく、山車の脇からはずれたので、エドガーは声をかけてみた。
「君の演奏はどうしてそんなにもひどいんだ?」
「はぁ、はぁ、ちょっと待って水をもらえるかい。」
ルイジはその大きなバックパック水取り出して渡した。
「っどはぁ 生きかえったー。ありがとう。あとそれと何だったっけ。」
「あぁさっきは君の演奏はどうしてそんなにもひどいんだ?」と聞いたんだ。
「やけに失礼な質問だなぁ。しょうがないよ。ラッパは今日が初めてなんだ。」
「なぜだ。君もラッパ吹きの家の子なら、もっと小さい頃からラッパを吹く練習をしているはずだ。」
「ラッパ吹きの家?何を言ってるんだい僕の家はラッパ吹きじゃないよ。僕の家はクリーニング屋さんをやってるよ。」
「んん!?君の家はクリーニング屋なのに、なんで君はラッパを吹いているんだ。なぜそんなことを。そんなことはしてはいけないはずだ。」
もうエドガーは少年の胸倉をつかんでいた。
少年は少し地面から浮いた状態になりながら、エドガーのほうを見つめて言う。
「パレードに参加したかっただけだよ。どうしてぼくがラッパを吹いたらダメなのさ。」
「治安を乱すことになる。」
「どうして、ぼくのラッパが治安を乱すんだい?」
「それは、それはー、クリーニング屋のラッパだからだ。」
エドガーは思い出したようにこの言葉をひねり出した。
「クリーニング屋のラッパが君は治安を乱すと思うのかい?」
エドガーはその質問に対して答えることができなかった。
「この子はちょっと休んだ方がいいよ。」
少年はルイジにそう言って、パレードの方に戻っていった。
それからエドガーはずっと下を向きながら、考え込む。。自分のこれまでの考え方に疑問を持ち始めた。ルイジはそんなエドガーを気遣い休ませようとする。
「少しお腹が空きましたね。どこかでお昼にしましょうエドガー。」
二人は町の少し外れたところにあるレストランに入った。
テーブル席には昼間から二人の酒飲みがガヤガヤ何かしゃべっている。
そして時折、下品な笑い声がガハハガハハ聞こえてくる。
エドガーたちは、カウンター席に座った。
しばらく沈黙が続く。
ルイジは沈黙を破るために、エドガーに話しかける。
「じゃあ今度はユニオンの政治について知りたいので、王宮近くまで行きましょう。」
反応はなし。エドガー店にある何でもないニワトリのオブジェをぼっーと眺めている。
少し経って、テーブル席の酒飲みたちが店主に酒を頼むために二人のいるカウンター席の横に立って、ふとエドガー達が座っている方を見た。
その途端、
「おいっ、あのボウズの耳の形見ろよ。やけにリッチーに似てやしないか。」
「おぉ、本当だ。こりゃそっくりだぜ。」
「おぅい、お前さん、リチャード・スペイシーを知ってるか?」
エドガーはやっと気づいて、
「それは、私の父の名だ。」
酒飲みたちは嬉しそうだ。
「おぉ、お前さんはリチャード・スペイシーのせがれかか!?」
「リチャードは、リッチーは元気にしてるのか!?」
「数か月前に亡くなりました。」
エドガーがそう答えると、酒飲みたちはジョッキを置いてすすり泣き始めた。
わけを聞くと、この酒飲みたちはリチャードの旧友であり、三人ともプリトニア出身で、三人でこの国に、留学に来ていた。
そして、エドガー達のようにこの国に感動した。リチャードはプリトニアのおかしさを訴え、祖国を救おうとしたが、二人はプリトニアよりも楽しいこの地でとどまることにしたのだ。

エドガーの中の疑問は確信に変わった。

「そうか、プリトニアには自由がなかった。プリトニアのおかしさの正体がもし自由がないことならば、おそらくサウルは気づいている。でなければペンキ塗りにた対して、あそこまで屈辱的なことはしないはずだ。いったいなぜだ。」
酒飲みは答える。
「どうやら、事は俺たちが知らない間に進行しているだろう。」
「それなら私が父の無念を晴らそう。」
「俺たちももう腰抜けは嫌だ。俺たちも手伝うぞ。」
「では善は急げだ。今日の船に乗ろう。」
 
「そこまでだ。そうはさせない。」エドガーの背後には、銃口をエドガーの方向に向けたルイジが立っていた。
「これ以上動けば撃つ。いやーあなたは真実に気づくのが早すぎる。王からは真実に気づいたときに、暗殺し事故で亡くなったことにしろといわれている。きっと今頃王はあなたの葬式の準備をしているだろう。準備の最中にあなたが登場しては、人々は混乱するだろう。だから今ここで殺す。」
「今ここで俺を殺すんだな?じゃあそんなに手が震えてたら銃弾は俺に当たらないぞ。」
「ふっ、震えてなんかいない。」
ルイジは震えを意識するにつれて震えが大きくなっていく。
ついに、銃を床に落としてしまった。
「いくら暗殺者一家に生まれようと10歳の少年に人を殺すことはできない。」
今度はエドガーの方が怒りで震えてきた。
「だから俺は許せない。こんなことをさせるサウルが。」
ルイジは失禁し、しりもちをついてしまった。
「私が父から修行だといって、王宮に忍び込むように言われた日でした。わたしは見てしまった。先代の王とあなたの父であるリチャード・スペイシーの暗殺現場を。」
「なんだって!?」
「先代はもうあの時から心を病んでいました。あなたの父はあの夜、先代の寝室に、ディナーを運びに行っていました。しかし彼が何度ドアをノックしても反応がないのです。ドアを開けてみると、先代は部屋の中で火を焚き、さらにその火に手をかざそうとしていたのです。彼は急いでそれをやめさせようとしました。その途端先代は部屋に入ってくるのをナイフを持って襲い掛かってきます。
「お前は何度私の邪魔をするんだ!」
襲い掛かった先代から身を守るために、彼は先代を押し返しました。
押されたそのまま先代はそのまま火の中に飛び込んでしまった。当然びっくりしています。そんな時でした。サウル様が先代が火に入る瞬間を見てしまっていました。サウル様はたいへん驚かれていました。しかしこの後のサウル様のリアクションは予想外のものでした。拍手しながらあなたの父に近寄り、
「ご苦労リチャード、親父を殺してくれたのはお前か。お前もあんなでくのぼうが政治するよりもわたしが王になった方がよいと考えてくれているのだな。わかっている。わかっている。このことは誰にも言わん。」
「そーか。よかった。サウル様はこれから、人々に好きな仕事させてあげられる政治をつくってくれるのか。」
「んん?それはどういうことだ。もし民衆が大臣になろうと思えばなれるのか。そうすれば、わが王族の息のかかったものが大臣でなくなるというのか。」
「いえ、大臣だけでなく誰でも国民の意思で国王になることもできます。」
「では、その自由を与えてしまえば、私の王の座も危ういということか。」
「そいうことになります。ですがこれが政治の正しい在り方です。」
「いやだ、いやだ、そんなのはいやだーやっと王になれたのに見ず知らずのやつに王座を譲るかもしれないのか。私は認めん。」
「サウル様それは王たる判断ではない。あなたのエゴです。」
「ええい。うるさい。王座何としても私のものであり続けさせる。」
サウル様はその時、銃であなたの父を殺し、彼の遺体にナイフを持たせ、王暗殺の濡れ衣を着せました。私はその時その場にいたことはサウル様はとっくにきづいていました。それから私はサウル様の用心棒をしています。しばらく家族ともあっていません。」

「早く帰りたい。」ルイジは涙を流しながら言った。
ルイジも10歳の少年である。暗殺の夜の秘密をずっと抱えながら生きてきたからには、苦しいだろう。
エドガーはサウルへ怒りの炎を燃やしていた。

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