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経営が先か?技術が先か?

この時期、りんご農家は沢山の会合があります。〇〇部会総会、〇〇協議会総会、、、地元に住んでりんご栽培をし暮らしていくにはいくつかの部会等に所属しておいた方が人間関係的にも良好に保てる田舎特有のルールのようなものが存在し例外なく私も就農してからすぐにこのようなルールの上を走っています。

ここ数年、私と飲みたいとか?お話してみたいとか言われることが多くなって来ました。実際何度か飲みに行ったりもして気づいたというか?どっち側に寄っているタイプの人間なのか?二択になることに気づきました。


経営者

飲み会の席で、この品種は市場で数千円で売れただとか、今年は売り上げ数千万までいっただとか。近年コロナの影響はあるものの、輸出が好調ということもあり市場に出荷すると確実に高値で取引されて市況に詳しい。又は自分で販売することを第一としそこそこのリンゴを採れればいいと思い、リンゴを買ってでも自分で販売するようなタイプ。


技術者

飲み会の席で、いろんな話題が出る中、りんご栽培の話ばかりする人もいます。地域からあまり出歩かず、毎日毎日畑と家とのの往復ばかりのいわば昔ながらの農家。スマホは持ってるものの仕入れる情報は地元紙のみ。典型的な農家さん。
いいリンゴというものを追求し、剪定作業に並々ならぬ情熱を注ぎ、常にりんごの話ばかりいいリンゴを採るためには情熱と経費を惜しまないタイプ。


どちらのタイプの方も、自慢げに自分の経験をもとに話始めます。自慢げに話をするということは私にマウントを取りたいのだと感じてしまう。確かに地域で農業に従事していれば40歳代というのはまだまだ若者扱い。経験こそが正義だという風潮も根強くあり、その経験を盾に話されることも多い。確かに経験年数という数字としてみれば私はまだ17年。数十年以上も農業をしている人にしてみればヒヨッコ同然かもしれない。ただ私は一年たりとも惰性で仕事はして来たつもりはないし、経営も技術もどちらもおろそかにして来たつもりはない。決して周りの農家が惰性で仕事をしていると言ってるわけではないが、必死に技術の勉強もした。どうすれば適正価格でりんごが販売できるのか?必死に経営の勉強もした。その自負はある。そういう私のことをある程度認めている又は私に嫉妬に近い感情を持っているから私に話をするのだろうと感じてしまう。

何年も前の品評会での受賞がきっかけでワタシの存在が県内のりんご農家に知れ渡り、注目される存在となってしました。これに関しては私が望んだわけではなく技術に関し勉強し実践し沢山の失敗を重ね、成長した結果の一つでしか過ぎない。

農家(個人事業主)である以上、経営者としてのスキルも同様に高めていかなければ時代に取り残されてしまう。世界情勢の影響も受け資材の高騰、電気代、燃料費等々の値上げ、経営者ならばこの状況に対応していかなければならない。

技術力を高めて収穫量を増やすも良し。
経営を見直し無駄な経費を削るのも良し。

商売とはモノを売って利益を出すこと。モノを売る為には営業しなければならない。これはビジネスの不変のシンプルなルール。なのに未だに良いモノさえ作っていれば売れると考えている人が未だに多いとも感じる。こういう人は技術者タイプ。周りのりんご農家にも多いように感じる。吹雪の中剪定し、肥料は有機肥料、減農薬栽培、、、、栽培にはとことんこだわっているのにも関わらず、販売先はJAか産地市場。もちろんこうして生活している方がいるので一概に否定はできませんが、売るということを放棄しているというように感じてしまう。JAや産地市場に出荷するということは売価が変動してしまうという最大の欠点があり、なぜ丹精込めて作ったモノを最後は売り方まで拘らないのだろう。


私はすぐに両親から負債付きで経営譲渡された個人事業主。農家で同世代の人と話をするとまだ70過ぎた親父さんが経営者というのがほとんど。なので同世代の中で個人事業主としての歴は長い方。りんごが高値で取引された年も、りんごが安値で取引された年も台風、豪雨、旱魃、豪雪、、、沢山の自然災害も経験しました。単価が一年で1キロ100円以上も下がった経験もしました。
これではダメだと思い自分で単価を決めれる宅配リンゴを始め10年以上やってきてようやく軌道に乗ったと実感しています。沢山のお客さんに恵まれ支えられてこうして今でもリンゴ作りができてると感じ、その恩返しとしてお客さんには「美味しいりんご」を提供しようと思って仕事をしています。

もちろんりんごがJAや産地市場で高値で取引されるということはとても重要なこと。りんご農家=稼げるとなれば農家減少の歯止めになるかもしれない。そうなってくれれば今の50(技術):50(経営)のマインドシェアの比率を技術面に傾けもっともっといいりんごが生産できるのではないかと思ったりもするが、ただ17年の少ない経験の中から言えることは「農家に安定はない」ということ。

安定を求めて

まず農家の基本として生産量の安定というのが大前提。生産量が2割も3割も年によって変動していてはダメ。生産量を安定させるためにはやはり栽培技術の習得が必須。
年によっては産地市場がものすごい高値で取引されることもあります。しかし私はその高値を捨てます。一年だけの高値よりも毎年の安定を求め、自分のお客さまに通常料金をお支払いいただいております。これをブレずに続けて来たからこそ今がある。高値だから産地市場に出荷すればその年の売り上げは簡単に上がるでしょう。しかし、その価格に絶対安定はないということを知っています。というか誰もが知っているはずなのにそこには目を背けてしまっている農家が多いのが現状。


今では40歳を過ぎ、色んな組織の役員や、組織長なども務めさせていただきました。改めて時が経つのは早なと実感しつつ、組織の中にいると私よりも若い生産者と話することも多くなって来ました。今の若い生産者はどちらかというと経営者タイプの考えの人が多く、自分でリンゴを販売したい又は宅配リンゴを始めたという。そういう人には生産技術を磨きなさいとアドバイスしています。販売力に自信があり特別に特化してるのであればリンゴ農家である必要はない。畑で作業することが好き、自分のこだわったりんごを食べてほしい、、、なんらかの理由でリンゴ農家を始めたのならばやっぱり生産技術力は必ず必要。昨年を例に例えると気象条件が悪く、りんごに斑点がつく病気が蔓延、病気によって早期落葉、主力品種フジではツル割れ果実が多い、、、というような年だった。これらは生産技術を上げることで被害軽減することが可能。病気にかからないようにいち早く危険を察知し予防薬の散布、ツル割れ被害を軽減するための剪定技術の習得することで生産力の向上に繋がり、販売のしやすいりんごを作ることができる。

私は経営力も技術力もどちらも大事だと思っていて、どちらかに偏ってはいけないと思っています。それでも農家として生きていく以上、最後は技術力がある人が生き残るのではないかと思ったりもします。

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