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野良坊たち2

保護団体さんが入ってくれたからか、家から2キロほど下(町側)にある産廃処分場に半年以上いた野良犬たちがいなくなった。

昨年12月だったか今年1月だったか、冬に保護団体が入って本格的な保護が始まった。捕獲の網(家庭用のゴルフの打ちっぱなし網のようなもの)が設置され、複数人の人が中で何かしているところを何度か見かけたこともある。
だが最近になって網が撤去された。保護活動は終わったようだ。

子犬含め10頭近くいた野良達がフェンスの向こうで、雨や雪の中うずくまっているのを見てきたので、何匹かは、そうじゃない場所に行けたんだと思うとホッとする。
全員を保護できたわけではないと思ったのは、ヘルパーさんからこんな話を聞いたから。
うちにくる途中、「産廃処分場手前数キロあたりで、白い犬を見かけるんだわ、産廃のところのじゃないかな」。
昨年9月に見かけた子犬達の中に確か白い犬がいた。
「そうだねぇ、保護に失敗した犬かもねぇ」。

そんな折も折、家の周りで首輪のない茶色い犬がうろついているのを見かけるようになった。体の特徴がよく似ているので、野良の子犬の1匹だと思う。この子も保護の手から逃げたのだろう。
自治会のLINEに「熊の目撃情報があった」という注意喚起のあと「野良犬もうろついている」情報も上がっていた。
だから「気をつけて」、と。

お母さんに「人間は怖い。捕まるな」と教わったのか。
人に捨てられた犬ではなく、その犬の子供達のうち少なくとも2匹は保護されずに最後まで逃げた。まだ1歳になるかならないかだ。1匹1匹散り散りになってどう生きていくんだろう。

犬は、犬だけで生きちゃいけないんだ。人間の管理下にいないと、最悪殺されてしまうよ。
だから、『私は吠えないし人を襲わない、私を保護して、飼って』と、不本意でも人間にアピールしないと。
ただし、相手をよく見て。
野良犬を嫌ってる人間はたくさんいるし、弱い生き物をいじめたいと思う者もいる。犬や猫の生き死に無関心な人はもっと大勢。
だから、あなたを助けたいと思う人間に保護を求めてほしいの。
吠えたてず噛みついたりせず、そっと近づいて、人にリードをつけることを許してくれればいいんだけど、わかるかな。

茶々丸の物語

6月末、ある日のお昼頃。
車で出かけるとすぐ、舗装道路に出る細い砂利道の角に茶色い犬がいる。車の窓を開けて「おいで」と言ってももちろん逃げてしまうし、車から降りてビスケットを見せても逃げる。
それで近くの地べたにビスケットを置いてみた。
少し離れて見ていると、警戒しながら近づいてきて食べてまた遠くへ逃げる。

用が済んで帰ってきた時も同じ場所にその犬は座っている。残りのビスケットを置いて、いったん家に帰り、改めて車イスに乗り換えてテツのドライフードを持ってきた。
もういなくなっていたが道端にフードを置いて、そこからはヘンゼルとグレーテルよろしく、一粒ずつ、家までの道のりに撒いて帰ってきた。

夜、ドライフードを植木鉢の水受けにザザッと置いておく。
翌日なくなっている。防犯カメラを確認すると、真夜中に犬が食べているのが映っている(ちなみに飼い猫と野良と思しき猫も食べていた。飼い猫は来ちゃダメだろ)。
それから毎日、テツのご飯と水を外に置いている。茶色い野良犬は毎日夜中にやってきて食べていく。

自治会のLINEにあったくらいだから、人間側も野良犬を警戒している。近隣住民の誰かが通報してしまいそうだ。餌やりが自治会にバレたらどうしよう。そうビクビクしながらも、飢えていないだろうかと思うと餌やりがやめられない。
テツだけで手いっぱいの障害者は、せめて茶色の子を人慣れさせたい。
と思っていた矢先・・・。

近隣4軒の家で茶色の野良にこっそりご飯をあげていた

ことが判明。
なんだ、みんな保護したかったんじゃん。

テツの散歩の途中、ご近所さんと世間話をしていると、茶色の野良の話になった。
「たぬき用にドライフードを置いといたら茶色い犬が食べてた。どうにかしてやりたいねぇ」
というAさんは、うちから200メートルほど離れた雑木林の中の家。動物大好きな奥様で、猫はすでに10匹近く保護している。

その野良を『茶々丸』と名前をつけて、自宅のウッドデッキで夜を過ごさせているのは、朝、テツの散歩を手伝ってくれるBさん。やはりうちから200メートルくらい離れた雑木林の中の家。
ある朝、テツのお散歩でお迎えにきてくれた時「茶色い犬、最近見かけません?? 茶々丸って名付けたんですけどね」と、切り出した。
「その子にご飯をね・・・」
どうやら自治会の中で、うちを含めて4軒の家が、茶々丸の面倒を見ているらしいのだ。
最後の一軒はうちの2軒隣のCさん。チワワを飼っている一人暮らしのおじさまだが、庭で茶々丸を見かけ、あまりの臆病ぶりに、どうにかしてやりたいと、ご飯と水を用意するようになったそうだ。

なんだ。自治会の皆さん、犬好きなんだ・・・。早く言ってよ。

それで私たちは話し合った。
必ず譲渡に繋げてくれるところに保護を依頼しよう(譲渡先が最後の最後まで決まらない場合、殺処分という選択肢を否定しないところもあるらしいので)。
それまで人慣れさせて、簡単に保護できるよう準備しておこうと。

Bさん早速自治会にLINEする。

薄茶色の野良犬について(略)とてもおとなしく、吠えたりもせず、こちらの様子を静かに見守っている子(略)
保護&譲渡しようとしていますので、少しずつ人間に慣れてもらうためあまり刺激を与えないようお願いいたします。
以前、別の場所で保護を失敗した子なので、保護に関しての警戒心が強まっているらしく、警戒されないよう、少し時間がかかる捕獲になるとは思いますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします

それで茶々丸は今も、夜になるとご飯の家のどこかに行ってお腹を満たし、Bさんちの雨が当たらないウッドデッキにこっそり入り込んで眠り、明け方こっそり出てゆき、日中はどこか見つからない森の中で過ごす、そんな1日を過ごしている(ようだ)。
とても臆病でビビリなので、ご飯をくれる人間にもなかなか気を許してくれない。鉢合わせすると逃げてしまう。今頃どこに身を隠しているんだか。

夕方、集落入口の舗装道路まで細い砂利道をテツと散歩していたら、その角に白いご飯がこんもり置かれている。
なんだこれ、事故の供養?なワケないから、LINEを読んだ自治会のどなたかが、おそらく犬を飼っておらずドックフードがすぐにないお宅の方だと思うが、茶々丸のためにご飯を置いたのかもしれない。
(後で判明したが、砂利道端の家に住む一人暮らしのおじいさんだった)。

ここは町から離れ不便だけれど、木々に囲まれて静かなところ。ほとんど高齢者で、子供はいない。
裕福ではないが、静かなところでゆっくり暮らしたいと願う現役を引退した人たちが、地味に助け合って暮らしている。
息子夫婦、娘夫婦は町(東京とか埼玉とか同じ市内でも駅の方とか)にいるんだ、というおじいちゃんやおばあちゃんが多い。そしてそんな人たちが、障害のある私たち夫婦と私たちの犬テツを見守ってくれる。
そんな土地だ。

だからこの土地に流れ着いた茶々丸は運がいい。だがそれも保護が成功すればの話だ。
なんだか、お腹が大きいように見えるのだ。乳首も垂れてるような・・・。
「茶々丸は妊娠してるんじゃないか?」
BさんやAさんとの話でそのことは新たな心配の種になった。
そして連休前ごろから、茶々丸は姿を見せなくなってしまった。


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