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野良坊たち

昨年、2023年の9月ごろだったでしょうか。日暮れ、帰路、ヘッドライトのあかりの中、子犬が道を横切っていくのが見えました。
おや?と思う間もなく、子犬は雑木林の中へ走っていってしまいました。

近所にゴミの埋立地があります。産業廃棄物の最終処分場だと思いますが、その広大な敷地はぐるりとフェンスに囲まれ、一般の人は立ち入れません。子犬はそのゴミ処分場をねぐらにしているようでした。
そして車でこの場所を通ると、時々、子犬がフェンスの下から出たり入ったりしているのを見かけるようになりました。

車をゆっくり走らせると、そこには1匹ではなく、4匹ほどの子犬がいることがわかりました。
大人の犬もいます。
ここで野良犬たちが暮らしているようなのです。

暖かな秋の日はすぐに去って、冬がやってきました。
この地、那須では山から吹き下ろす風が恐ろしく強く冷たく、木を薙ぎ倒すこともあります。
雪も、冷たい雨も降ります。
遮るものの何もないところで、雪が降る日、風の強い日、暖かな家の中からふと窓の外を見るたび、子犬たちはどうしているだろうと、犬たちのことを考えます。
ずぶ濡れになってはいないか、寒さに震えてはいないか、飢えていないか、と。

見守る

私は手足に不自由を抱える障害者です。
彼らがいる場所はフェンスに囲われた私有地で、フェンスはしっかり施錠されており、そこらの通行人には入れません。
健常者だとしても、フェンスがあるので土地の所有者との交渉から始めないと保護は難しいでしょう。

地域の動物保護団体に連絡してみましたが、犬は今パンク状態だそうで、しかも終生飼育のため、保護に1頭あたり相当なお金がかかるとのこと。
本来なら、誰かにしてもらうのではなく、自分が動くべきなのだと思いますが、自力での保護は難しい・・・。

それで、ご飯をフェンスの下からそっと差し入れてくるようになりました。数日に一度、ご飯を持って様子を見にいきます。そのくらいのことしかできません。
野良犬に餌を与えれば責任が生じます。近隣の住人がそのことで迷惑を被るかもしれない。

子犬たちは好きで野良として生まれてきたわけではありません。
捨てられたり迷子になったりした犬が、お母さんなのかもしれない。
その母犬は、生きていくためにご飯をとりに行って帰って来ないのかもしれません。

幸せそうに見える時もある

彼らはいつもそこにいるわけではなく、どこかへ出かけていることがほとんどです。
特に大人の犬はあまり見かけません。
あまりに見かけないと心配になりますが、いる時はホッとします。
冬日でも、日差しの当たる場所でゴロンとしている姿を見ると、そこがあったかいんだねと、少し、気持ちが緩みます。

子犬たちはスクスクと成長し、今では大人と変わらないようになりました。誰も、餓死も凍死もしていないようです。
お正月に様子を見に行った時、大人の犬とじゃれあったり、警戒しながらも兄弟みんなで尻尾を振ってご飯を食べにくる姿を見ることができました。
飼い犬では味わえない自由さを楽しんでいるのかなぁと、勝手な想像をしたりします。

よく思っていない人も、もちろんいる

犬たちを心配する人は他にもいるようで、私がご飯を持っていくと、すでにフェンスの下にご飯と水が置いてあることがあります。

そのご飯皿がフェンスの向こうの遠くへ放り投げられてしまうので、その誰かが、また根気よく、別のお皿をフェンスに縛り付けていきます。
それをまた誰かがフェンスの向こうに放り投げる・・・。
あるいはそれはヒトの仕業ではなく、彼ら犬自身、またはカラスがやっているのかもしれませんが、フェンスにくくりつけたお皿の紐をほどくのは、やはりヒトかなぁと思います。
あまりよく思っていないのだろうな・・・。

私には行動力も勇気もなく、力がないので、凄まじいほどの信念と行動力を持つ保護活動家が近くにいなればなぁと、つい他力本願してしまいます。
もしかすると土地の所有者が犬たちに気がついて、あのフェンスの中であえて保護しているのかなぁと、良い方に考えたりもします。
フェンスがあることで交通事故などにあうリスクは低く、怖い人に捕まって、いじめられるようなこともないでしょう。
でもあそこは寒い。雨風しのげる場所も見渡す限り、ない。
彼らは、安全な場所をどこかに見つけているだろうか。
真冬の間、そう思いを馳せるばかりでした。

みんながほっとできる日が来てほしい

迷子犬もこの辺りではよく見かけます。
見かけたら連絡くださいという張り紙もよく貼られています。
フェンスの中に探している犬がいないだろうか。私は広い土地を見渡します。

冬はもうすぐ終わる。寒さ、大雪、大風がなくなっていくでしょう。
それなのに最近、犬たちを見かけなくなりました。
2月の終わり頃に見たのは、白い子犬たちではなく、白地の背中に茶色い斑の成犬1匹でした。

保護されているみたいだ!

3月に入っても雪がちらついています。
家の犬と散歩していると、犬好きの近所のお婆さんと鉢合わせ。
時々、野良坊たちの話をしていた人で、「最近犬を見かけなくなった」と私が話をすると
「引き取った人がいるんだよ。その人のところで2匹を見かけた」
と言います。
10頭はいたろうし、見かけた犬は大人だったとのことで、4匹の子犬はどうなったのか。他の犬たちの情報は得られませんでした。
でもとにかく、あの犬たちを気にしている人がいて、少なくとも2匹保護されたということは、残りの子達も方々に保護されたのかなと、少しホッとしているところです。
じゃあ、最近見かけたあの斑の子は、捕まえられずに一人残ってしまったのか・・・。

様々な思いが残りますが、一人でいる子のことを考えて、ちょっとがらんとしてしまったフェンスの向こうを、今後も見守り続けます。

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