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島ぐらし

海外への一人旅が終わると
日本での有り難みを噛み締める

飲水がキレイでタダで飲めること
トイレがキレイでタダで使えること
身の危険を考えずに外を出歩けること

日本語が通じること
会いたい人に会えること
家に帰って安心すること


バックパッカーに憧れていたころの旅先では
たくさんの出会いに胸が躍り
そこで暮らす人々の生活に魅力を感じた

真冬の海の早朝
ビキニで泳ぐ老婦人

リードを使わず散歩する犬たち

大きなマフィンを売る小さなお店

旅先ではそこで普通に暮らす人々が
みんな穏やかに笑っている

わたしも穏やかに笑って暮らしたい

わたしは
どこかで暮らす
どこからどう見ても
そこの地元の‘人’になりたかった

それまで生まれ育った地元では
少し窮屈な思いをしていた

学校に行かなくてはいけない
部活を辞めてはいけない
会社を辞めてはいけない
海外に一人で行ってはいけない

自分の感じること思い全てを否定するかのような声ばかりが聞こえる
閉塞感を感じていた


それでも生まれ育った地元や
そこにいる友人
家族
自然のある環境を誇りに思っていて

いつかは
笑って地元に帰れる日が来るという
根拠のない自信を持って

わたしは
地元を離れた


目指した場所は

ワーキングホリデーで行く海外でもなく
やってみたいリゾートバイトのある沖縄でもなく

3年付き合って振られたばかりの元彼が行って
わたしにも行くように勧められた
ある島


本当はその元彼の住む土地に引っ越す予定で
仕事も辞めて空けておいたスケジュールを

仕事をしていたらゆっくりと行けないだろう
ある島行きに変更した

振られたことで泣いてばかり
元彼に似た黒縁メガネに黒髪の人が視界に入るとウッと目を閉じる
そんな日常から離れることとなる


はじめての船旅

はじめての船旅で酔い止めを飲まずに乗船し酔ったことは言うまでもなく

優雅な気分で浮かれてそこではじめて出会った人たちと普段飲まないビールを飲んでしまったことは遠い記憶のなかに

時間が過ぎるのをただ待つだけの船旅の先についた
ある島

スカッと晴れ渡り
黄金色に日焼けした半袖短パンビーサンの人たち

みんな笑顔で出迎えてくれる

ここは日本なのに日本ではないような
はじめての世界

イメージしていたおじいさんおばあさんの多いさびれた島とはかけ離れ

すれ違う人みな若くて今どきの人たちばかり

カラフルな建物に
キレイな海

海外に来たような気分で
日本語が使える

わたしは
ここで少し観光をして

あわよくば
仕事を見つけて住み込むつもりでいた

自然豊かな島でたくさんのものを見聞きしたいと思っていた
自然が好きなわたしになんらかの財産を残してくれることは間違いなかった

仕事が見つからず帰ることになっても
後悔はなくまた違うことをすればいいと思っていた


出会った人たちは一生の宝物

船を降りてすぐに出迎えてくれた宿のスタッフの笑顔や対応は
安堵とともに感動し
「わたしもこんな人になりたい」と思わせてくれる素晴らしい出会いだった

なんとしてもこの島に残ってみたいと思わせてくれた


それからこの島で出会った全ての人たちには
感謝している

自然が宝物だと思っていたが
実は人が宝物だった

ある島のパワーは
この先の人生に光を灯してくれた

楽しいことばかりではない島ぐらしのスタートだった


元彼に振られたことはすでにプラスに変わり
毎晩スキップして星空を眺めていたことを思い出す


閉塞感もなにもない世界だった

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