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『珈琲一杯。』 1

最初につくった本の内の1冊なのですが、そもそもかなり少部数だったためかうちにしては珍しく早々と完売しました。少部数だったし再録してもいいかな…と思いつつ無料でやるのはなんか違う気がする…ということで、有料で公開という形をとることにしました。

この本は8つの掌編から成り、一つひとつはかなり短いこともあり、4編ごとに公開します。

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本文が白黒でもカラーでもお値段変わらない印刷所さんを利用したのでやたらカラフル。
本編も各話のタイトルとか柱は目次と合わせた色にしてました。(Web再録は中身のみです)

1編目は無料で読めます。

7:35 a.m. ワンルーム

 寝巻から着替えて、軽いメイクをして、リュックに教科書を入れて――今日は一限から五限までぎっしりなので多い。重い――、パンが香ばしい匂いをさせながら焼けた頃。
 コーヒーメーカーから漂ういい香りもだいぶ濃くなった。
 出来上がったコーヒーをカップに注ぐと一層香りが立ち上る。
 あー、目が覚める。
 そう心の中で呟くと、侑花はカップと皿をローテーブルに置き、コーヒーとパンの簡単な朝食を食べ始めた。
 マーガリン――バターは高いのでマーガリンで我慢――を塗った食パン一枚。かなりシンプルだが、元々小食で朝はより食欲が落ちる侑花にはちょうどいいか、日によっては重く感じるくらいだった。チーズを乗せるなりジャムを塗るなりした方がむしろ食べやすいのではないか、という考えは彼女にはないらしい。だって簡単じゃん。
 コーヒーも実家での習慣だった。
 どうしてもおいしいコーヒーを(安く)飲みたい、と我儘を言って実家から持ってきてしまったコーヒーメーカーで入れたコーヒーを飲むひとときは侑花にとってちょっとした贅沢だった。
 朝にのんびりコーヒーを飲めるなんて早く起きられた日だけの贅沢だ。
 寝坊症な侑花はそう噛みしめるようにコーヒータイムを満喫する。
 はー、幸せ。
 この後一限から五限までみっちり授業だなんて考えたくない。なんならこのまま家でぼーっとしてたい。
 珍しくテレビも点けず静かだからか、とりとめもないことが頭を通り過ぎていく。
 それいいな、いっそ一週間ぼーっと……
 ふと壁の時計を見ると八時を過ぎている。
「やっばい遅刻だ!」
 やはり時間経過がわかるようにテレビは点けておくべきだったか、と後悔する侑花は、シンプルすぎる朝食をのんびり食べ過ぎだということには気づいていない。
 慌てて重たいリュックを背負って玄関で靴を履く。
「あああ寝ぼけてたら靴下左右で違う! ……もういっかなんでも! どうせ見えないし!!」
 とんとん、とスニーカーの爪先で地面を軽く叩いてから、
「いってきまーす!」
 勢いよくドアを開けた。

 慌ただしくも贅沢な一日の始まり、侑花の午前八時十三分。

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