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さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち 4Kリマスターの鑑賞から見える今

2024年1月5日から上映が始まった、さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち 4Kリマスターを鑑賞してきました。鑑賞した映画館は仙台MOVIXシアター。  
その体験談とともに、45年ぶりに劇場で見ることで再確認したこの映画のすばらしさについて語りたいと思います。


4Kリマスターのすばらしさ

まずは何といっても4Kリマスターされた映像と音のすばらしさです。映像はきれいにブラッシュアップされ、制作当時の色の鮮やかさがよみがえっただけでなく、光の特殊効果がとても映えていました。
特に映像に目を奪われたのが、序盤で英雄の丘に集まった旧ヤマトクルーの上空をアンドロメダが試験飛行から帰ってくるシーンです。
船の様々なランプが暗がりの中できれいに光り、その巨大さやヤマトに代わって地球の旗艦となったことを表す印象的なシーンを演出していました。
これまで様々な媒体で何度も見てきたシーンですが、この場面で目を奪われたのは初めてです。
このように、4Kリマスターの映像のブラッシュアップはより映像の表現力を上げる効果を果たしているように思いました。

サウンドについても最高の仕上がりを見せています。
前作同様、オリジナルのモノラル仕様ということで、音については正直あまり期待していませんでした。
現代の映画館の音響は3D立体音響で、音が前後左右に乱れ飛ぶのになれてしまっています。
当然そうしたサウンドづくりもできたであろうが、あえてオリジナルのモノラルにこだわっていたことが伝わってくる仕上がりでした。
45年前の映画に音だけが飛び道具的な出方ではバランスが取れないし、モノラルにしたことでスクリーンとの一体感がよく出ていたと思います。一つ一つの爆発音や登場人物のセリフのダイナミックレンジがあがり、スクリーンからそのエネルギーが伝わってくる感じがしました。
そして、このモノラル仕様にこだわったことで、この映画の本質で分かったことがあります。

この映画が持つ、”静寂”の表現がよく分かったことです。


”静寂”と”間”が生み出す演出の妙

映画は冒頭から静寂の中で始まります。
宇宙空間を表現するには、静寂をつくり出すのは当たり前ですが、それをあまりやりすぎると冗長になってしまったり、躍動感が失われたりします。
「さらば」ではシーンの大切なところで、静寂をつくり出し、その間の意味を観客にゆだねていることが45年ぶりにスクリーンで見たことで分かった新しい発見でした。
これは自分が年を重ねたことにも起因してるし、その意味ではこのアニメ映画は子ども向けではなく大人の鑑賞を想定したつくり方をしていると断言できます。
クライマックスで巨大戦艦に特攻をかけるシーンで流れるバラード調のアカペラのテーマ音楽に続く静寂、そして、古代進が亡くなった森雪へささやきかける静寂と間。これを半世紀近く前のアニメーションで表現していたことに驚きを隠せません。
私の席の後ろで若いカップルが鑑賞していたようでしたが、女性の方が嗚咽していたのが伝わってきました。
おそらく初見での体験だったのでしょう。
何度も見ている自分でさえ、目頭が熱くなってくるのですから。

戦争や特攻賛美ではない。命とは魂をつなぐこと。

この映画が公開された1978当時、一部の識者から戦争や特攻を賛美する映画だといわれたことがありました。
当時の時代背景を考えれば、そうした論調が成り立つのもわかる気がしますが、半世紀ぶりにスクリーンで見てわかったことは、決してそんな短絡的なものではないということです。
プロデューサーの西崎義展、監督の舛田利雄をはじめ、制作陣の多くは戦争を知る世代の方々でした。
ですから、特攻とは何か、命とは何か、ということには並々ならぬ想いを抱いていたことは想像に難くありません。
今回の鑑賞で私が感じたことは、命とは人の思いや魂をつなぐことである、と気づかされたことです。
巨大戦艦の登場で万策尽きたヤマトと古代進が沖田艦長との魂のやり取りをするシーンです。
特攻につながるこのシーンの重みが以前はよくわからなかったのですが、今回はそれがよく分かったのです。

「さらば」が伝えるメッセージ。命とは。

命には2つ面がある。
一つは温かい血が通う生を全うすること。
そしてもう一つは生きた証や思いを次の世代につなぐこと。
沖田艦長と古代進のクライマックスでのやり取りは、この映画のメッセージそのものでした。
「愛の戦士たち」とはまさしくこの2つの面を備えた者たちであることなのでしょう。
そして、かつての日本、大東亜戦争で大和や神風特攻隊で志願して死んでいった英霊はその2つの面が分かっていたのかもしれません。

現代の日本では、いじめや自殺の増加から、命の教育が盛んにおこなわれています。
にも関わらず、いじめや不登校、自殺をする若者は後を絶ちません。
その原因はいろいろ言われていますが、この命を一つの面だけでとらえてしまい、死を否定するだけの価値感になっているからではないでしょうか。
もちろん、どのようなことがあっても死を礼賛してはいけないでしょう。
でも、なぜ生きるのか、己が生きる価値とは何なのかを現代社会の私たちは忘れてしまっているのかもしれません。
「魂をつなぐ」こと、今の日本で失われてしまった価値感を思い出させてくれるのに充分な映画でした。
でもそれが、社会や教育からでなく半世紀前のアニメーションからしか学べなくなっているのは、今のこの国が抱えている病巣なのかもしれません。




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