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幻となった4技能試験。『それでも4技能を学ぶ5つの理由』

4技能試験の共通テストへの導入が正式に廃案になりました。これで大学進学を目指す高校生全員が、4技能試験を学ぶ意味は大幅に減少したことになります。4技能が生徒たちから遠のいたことで、全国の子どもがライティング力とスピーキング力を向上させ国際化への道もまた後退しました。

4技能試験の共通テストへの導入が見送りになった今、4技能という言葉は急速に力を失いつつあります。
大学受験で必要なくなれば、学校は今まで通り中途半端なコミュニケーションしか教えないでしょうし、受験が変わらないことになれば全国の塾も4技能を教えるモチベーションは下がります。時間との戦いをしている受験生にとっては4技能を学ぶこととは「負担」と感じるでしょうし、ライティングとスピーキングを教えるリソースのない学校や塾は変われないわけですから、今後4技能が全国的に一気に進むというシナリオはなくなりました。

経済力の寡多により受験回数などに差が出るということで、教育の機会の平等に反するというのが4技能試験が廃案になった一つの理由でした。しかしこの論理は、これから作り出す小さな不平等には敏感な反面、既にある大きな不平等については無思慮です。この既にある大きな不平等とは『英語ができる or できない』が生む「教育の不平等」、「機会の不平等」そして「所得の不平等」です。諸外国と比較して英語力が低い日本においては、英語ができることで享受できる恩恵を、帰国子女と呼ばれる一部の人たちがほぼ独占しています。受験も、留学も、就職も、その後の社会で仕事をするにも、英語力がある方がはるかに有利なことは言うまでもありません。4技能試験はこの既に存在するこの不平等に、普通の日本の生徒たちが対抗するための武器になるはずでした。

導入が廃案になったいま、4技能を学ばなくていいのか?もちろん答えはNoです。
多くの人が4技能を学ばなくて良くなったと思っている今だからこそ、4技能を学ぶことで子ども達の将来の選択肢は圧倒的に増えます。またアウトプットの2技能を学ぶことで、インプットの2技能を学ぶ効率も上がります。前置きが長くなりましたが、今回は『それでも4技能を学ぶ5つの理由』と題して、4技能を学ぶことで何がどう有利か、そして学習効率がなぜいいのかについて考えます。

『それでも4技能を学ぶ5つの理由』
1. AO試験や4技能枠など、大学受験にやはり有利
2. アウトプットした方が英語力が上がる
3. 英語力が低いうちから目標として使える
4. 留学ができる
5. 国際化社会の恩恵を享受できる

1. AO試験や4技能枠など、大学受験にやはり有利
共通テストへの導入は見送られましたが、依然として4技能試験で結果を出している生徒は受験で有利です。
近年国立、私立に関わらず各大学はAO入試、自己推薦や指定校推薦入試での入学者を増やしています。この方式では、大学は試験をせずに英語力を判断しなければいけので「志望理由書」などの提出書類を英語で書かせるか、4技能試験のスコアを提出させています。つまりAO・推薦入試では、英語が書けて、4技能試験で成績を出している受験生が選ばれることになります。

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(文部科学省 2020年「我が国の入試制度の概要」より)

共通テスト(旧センター試験)での4技能試験の導入は見送られましたが、一部の大学では4技能試験を積極的に受験に導入している大学もあります。例えば、早稲田大学は、13学部中4学部で4技能試験を利用できる方式を導入しています。今年から商学部では、一般試験での募集全535人のうち、30人を4技能テスト利用型で募集。驚いたのはその30の枠に、250人の出願がありました。準1級以上が受験要件としてあるので(準1級は加点なし。英検1級もしくはTOEFL95点以上で5点加点)、相応の英語力をつけてきた生徒たちが増えていることを感じます。それでも4技能型の倍率は8.33倍と、最も募集人数の多い地歴・公民型の倍率19.49倍に比べると、半分以下となります。

他にも、上智大学は英検と協力してTEAPという4技能試験を開発しており、全学部でTEAPを使える方式を採用しています。文系だけでなく、理系でも4技能試験活用の動きは出てきています。例えば順天堂大学の医学部では、4技能試験が利用でき方式を導入しています。4技能試験の点数に合わせて加点され、仮に英検2級だと5点、1級だと25点の加点となります。この方式の受験者の有利な点は、4技能方式と一般方式の併願が可能なことです。単純に合格率が倍になるわけではありませんが、単願の受験生よりは有利です。
順天堂大学、医学部入試について

4技能は受験生には不人気というような言われ方をすることがありますが、一部の英語ができる受験生は逆にそこを好機として4技能を武器にしています。


2. アウトプットを勉強した方が英語力が上がる
4技能試験を学ばなければいけないと言うと、科目数が2から4に増えたような感覚を持つ生徒もいるようです。しかし実は、リーディングとリスニングのインプット系2技能だけを勉強するよりも、ライティングやスピーキングのアウトプットも合わせて4技能で学んだ方が、インプット系2技能の学習効率も高くなります。

例えば、ある英文をリーディングだけ行った時の理解度と、リーディングの後に要約文を書く時の理解度とでは、どちらが高いでしょうか?答えは言うまでもなく要約文を書いた方です。要約文を書くというアウトプットを求められた時の方が、読み手はより主体的になるからです。

日本人が英語を話すのが苦手なのは、インプット学習に偏りすぎていたことで、話す、書くの練習をしてこなかったことがあげられます。また、アウトプットに慣れてないので、話したり書いたりする際のメンタルモードを学んで来なかったことも大きな問題の一つです。アウトプットでは間違ってもいいから、使ってみることが上達の第一歩となります。しかしインプットだけを学んでいると、正確に理解することや、文法的に間違えないことに価値が置かれ、「言いたいことを伝える」という本来の英語を学ぶ目的から外れた部分が評価され、ますますアウトプットをするメンタルモードから遠ざかります。

ただしアウトプット学習を効率的に行うためには、アウトプットに対して質の高いフィードバックを受ける必要があります。書きっぱなしや、話しっぱなしより、それをいい英語にするためのフィードバックを受けれた方が、格段に上達スピードは早くなります。このフィードバックの質が英語力を向上させる鍵となります。もし、豊富なボキャブラリーと表現力を兼ね備えた先生に、しっかりと時間をかけてフィードバックを受けられるなら生徒は自分のアウトプットを元にインプットを学ぶことができますし、逆に誰からもフィードバックを受けられれなければ、英語力は思うように上がらないでしょう。このように、4技能を学ぶにはいい教師に出会える環境にいるかどうかで、大きく実力に差が出ることになります。

3. 英語力が低いうちから目標として使える
4技能試験は目標管理してとても便利です。特に小学生は、定期試験もなくゴールを見つけるのが難しいのですが、英検は実力に応じた級をマイルストーン的に目標として使うことができます。4級なら中学2年修了、3級なら中学卒業程度と、英検は各級がそれぞれ学年と対応しているため、指標としてもわかりやすいです。

ただ、一つの級を合格すると、気持ちがはやってすぐに次の級へと行きたくなりますが、無計画に挑戦して不合格になると、無駄にモチベーションを下げる結果になります。それぞれの級は、上に行けば上に行くほど間隔が空いているので合格が難しくなりますし、65%ぐらいのギリギリの合格で残りを未習のまま受験級を上げると、基礎が不十分なので次の級で不合格を連発することに繋がりかねません。合格そのものをゴールにするのではなく、各級を100%習得することを目指せば、日本においては英検ほど優れたテストはないでしょう。

私見ではありますが、4技能試験のゴールはTOEFL100点だと考えます。なぜなら、TOEFLの100点をとっていれば、アイビーリーグと呼ばれるトップクラスの大学でも、非英語圏の学生として出願できるからです。このレベルになっていれば国内の大学受験でも、英語力で困ることはないでしょう。TOEFL100点は、大体英検の1級と同じくらいですが、せっかくですから国際的に認知のより高いTOEFLに挑戦した方が汎用性が高いのでいいと思います。英検も準1級を超えたら、TOEFLにターゲットを移しましょう。 

4. 留学ができる
先ほどTOEFL100点が一つのゴールだという話をしました。
この基準をクリアしていれば、高校卒業後に直接海外大学への留学を目指すことができます。100点までいかなかったとしても、70点以上を一つの目安に海外大学を受験することができますので、やはり国際的に広く使われているTOEFLを学ぶメリットは大きいと言えるでしょう。

また、最近では国内大学に通う学生たちが、提携先の海外大学に一年間の交換留学に行くことが人気になっています。大学側も提携先を増やすことを通じて、国際化を進めたいと考えているので、その枠は年々増えてきています。例えば早稲田だとYaleやPrinceton、慶應だとBrownやDartmouthなどアイビーリーグのの提携もあります。人気の分だけ選考の競争も激しくなっていますが、この選考でも足切りに使われるのがTOEFLです。足切りさえクリアできればあとは大学での成績と願書で選考されるので、TOEFLでいい点数が取れれば帰国子女の同級生とも十分に伍していけることになります。


5. 国際化社会の恩恵を享受できる
現在のコロナ禍で国境をまたいで移動するリスクが高まり、世界は分断されているように感じます。ただその一方で世界中がリモートに挑戦し始めたことで、逆にサイバー上の国際化が進みました。実際にキャンパスにいなくても大学に通えたり、リモートワークで海外からも働けたりと、オンライン上の世界はこれを機に一気に小さく、そして密になりました。今後世界中でワクチン接種が進めば物理上の障害も取り除かれ、リアルとオンラインを合わせて相乗的に今まで以上のスピードで国際化は進むと考えます。

そうなった時に、この国際社会で活躍できるのはどのような人でしょうか。国家単位でバラバラのことを考えてきた20世紀から、世界規模でビジョンを考え、行動できる人が求められる時代になりました。新型コロナウィルスは分かりやすい問題です。この問題を国家単位だけで考えるのは無意味であり、不可能です。地球温暖化の問題を2つ目の例に出すまでもなく、世界な一部の場所で起こった現象が世界中を瞬時に駆け巡る時代です。この世界を公平に観察できることが求められる中で、国際語である英語ができることが不可欠だと言えます。

国境に囚われず動き回って、学び、友だちを作り、働けるようになることには誰もが憧れますが、そういった人が同時に世界規模で問題を観察し、解決策を提示できるようになるでしょう。そういう人材になることを憧れに終わらせないためにも、今までの日本の教育の中で学ばれてきた学び方ではなく、アウトプットも重視した学びに移行する必要があります。


まとめ
4技能の受験への採用が見送られても、国際化社会の前進が止まったわけではありません。今までは、英語力の高い帰国子女たちが独占していた特権的なチャンスの量は、4技能を全国的に平等に学ぶ機会が訪れることで、全ての子どもたちに解放されるはずでした。私自身が大学に入ったときに感じた、帰国子女へのコンプレックスや、その後まざまざと見せつけられた英語力の有無によるチャンスの差は、日本社会全体としては解消されることなく放置されてきましたし、残念ながら4技能試験の見送りでこの状況を変えるチャンスを逸しました。

一部の保護者の中には、日本の教育システムへの諦めもあり、インターナショナルスクールに通わせている方もいます。キャタルの生徒にも多くいますが、彼らは彼らで一日中母国語ではない環境の中で学びを進めるわけですから、大変なことも多いはずです。それでも英語ができることに価値があると考える方が多くいらっしゃることにも頷けます。

一方で、多くの生徒たちが従来の教育システムの中で英語を学び続けなければならず、それでも将来的には英語を使って国際社会で生きていかなければなりません。国をあげてそのような人材を育てることを諦めてしまった現状では、国際社会で生き残れる子どもを育てることができるかどうかは、各家庭の親たちの手に委ねられています。

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