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クラゲよりもカワウソよりもマイワシ派 〈サンシャイン水族館〉

(2020年7月)

ひとり旅、ひとり飲み、ひとり映画、ひとり焼肉、ひとりカラオケ。世に〝ひとり〇〇〟と言われるものに関してキャンプ以外のことはおおよそ経験済みだと思っていたのだが、ここに来て水族館がまだであったと気付く。そういえば、自分はどこかで水族館を「誰かと行くべきもの」としてイベント化していたのではあるまいか。ひとりでいつでも足を踏み入れられる場所なのだと考え直して想像してみる。誰にも気を遣わず、興味のない魚に興味のあるフリをする必要もなく、ただ好きな生物だけを眺め続けられるのだ。夢のようである。一歩踏み出さない手はない。
コロナ下でいきなりの遠出はハードルが高いため、まずは近場のサンシャイン水族館に照準を絞った。HPを見ていると、なんと前々日に「海月空感」という新スペースがオープンしたばかりだそうだ。クラゲ好きでなくとも運命を感じる。これはもう行くしかない。現在は完全予約制とのことで、朝一番の9:30のチケットを購入する。


9:28に到着すると、まぁまぁの行列。当然ながら日曜日の光景として、子連れのファミリーがほとんどである。こういう時は何も気にしないに限る。そしてオープン。入ってすぐの珊瑚の海コーナーなどをひとまず素通りしてまっしぐらに海月空感へ。おー。これはこれは。湾曲した壁一面にクラゲが浮いている。

向かいのソファーでいつまでもぼんやり眺められる仕様だ。腰を落ち着けついでに、久々の一眼レフの設定などもできる。しかし暗すぎていまいちボタンが見えなかった。

その先にはクラゲのトンネルがある。うまく撮ればものすごく映えるのだろう。みたいなことは、おひとりさまには関係ない。ほぉー、と、見上げるばかりである。

何より心を鷲掴みにされたのが、シーネットルの水槽だ。やや小さいが、手前に張り出すように湾曲した水槽内に、なんとも優雅に彼らが踊っているのである。真正面から見ても、横から見ても、とにかく幻想的で蠱惑的、流線的な長い触手が芸術的だ。本当にいいものを見せていただいた。ありがたい。

クラゲの魔力から脱すると、大水槽が広がっていて、マダラトビエイなんかがヒラヒラと飛んでいる。

その隣の飾り気のない水槽で、ひとり泳ぐ小さなマンボウを発見した。なぜひとりぼっちなのか。なぜ岩も珊瑚も装飾物もなにもないのか。バリのヌサペニダではマンボウに会うためだけに、水深40m近くを死にそうになりながら泳いだ。そんな記憶がよみがえり、なんだか少し悲しくなった。がんばれ。死ぬな。そっとつぶやいてその場を去る。そして気になっていた入口近くの水槽に戻った。

東京湾水槽の、マイワシの大群。これは絶品である。グルグルと回り続けるマイワシのキラキラ輝く様子をただ、眺め続けた。そして一度離れて、クラゲを見て、また戻ってくるという怪しい動きを何度か繰り返した。後ろ髪を引かれる思いでようやく去ると、屋上へ。

ペンギンやアシカやカワウソといったアイドル達がひしめくここはある意味この水族館のアイコン的スポットなのだろう。どちらかと言えば動物園のようでもある。朝一番は人も少なくゆっくりできるのだが、いかんせん梅雨の谷間の夏日である。暑すぎた。自分でも驚くほどおざなりに鑑賞し、早々に退散した。

どうやら今日のクライマックスはマイワシにあったようである。楽しかった。ひとり水族館はやめられそうにない。



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