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エイバーシティ、ときどきフグ 〈アクアパーク品川〉

(2020年8月)

サンシャイン、すみだと来れば、アクアパーク品川になだれ込むのは自然な流れである。東京三大パヤパヤ系水族館を押さえることになるからだ。久々の訪問である。webでのチケット購入はできないようで、予約後に現地で支払いをするシステムになっている。有休を取っていたので平日ではあるものの、夏休みの子供たちを警戒して朝一番の時間を予約した。


時刻は8:30。玄人じみたおひとりさまに次ぐ2番目の入場であった。1階は相変わらず遊園地然としている。パヤパヤと魚が展示されたコーナーをサクサクと通り過ぎると、クラゲがいた。もはやお約束なのか、クラゲは。縦の展示のサンシャイン、横の展示のすみだ水族館に対し、ここは小分けの筒状展示である。家にあったらいいよねこんな水槽、といった具合だ。癒されるような気もするがさすがに飽きてきたので、鑑賞もそこそこに2階へ上がる。

やはり、いた。チンアナゴたちだ。何故だか彼らには飽きがこない。ここのアナゴたちにはまだ警戒心が残っているようで、魚が近づくと多少すっこむ姿が見られ少し安心する。

それにしても驚くほど人がいない。平日朝一マジックは、夏休み期間中も有効なようだ。留まり放題の戻り放題。傍目には全く分からなかったと思うが、この時点でテンションはかなり上がっていた。そして通りかかった小さな水槽を見て、完全に舞い上がった。

フグ界のアイドル、コクテンフグである。通称イヌフグとも言われ、膨らんだ時の愛らしさには抜群の破壊力がある。つつきたい。怒らせたい。膨らませたい。いや、膨らんでしまうともう一生ここを離れられないだろうから、これでよかったんだと自分に言い聞かせる。しばらく見つめ合った。そういえば入口付近には小さなミドリフグがいた。フグに強い水族館なのだろうか。そうであれば、耳寄りだ。

さて、そうこうしていると海のトンネル、ワンダーチューブが現れる。この水族館のシンボル的スポットである。

マダラトビエイ、ヒョウモンオトメエイ、アカエイ、サカダザメ…ものすごい種類のエイがいる。驚くことにマンタまでいる。いったい何枚いるのか、ひらひらひらひらとそこらじゅうを仲良く飛んでいる。エイのダイバーシティ&インクルージョンだ。エイバーシティ&エインクルージョンと言っても差し支えないだろう。いつまでも見ていられる。テンションはクライマックスを迎えた。

下から見上げたときのエイ達の表情がたまらない。どう見ても性格が良さそうである。人がいないのをいいことに、何度も行きつ戻りつ堪能した。そういえばこの水族館にはあまり座り込めるスペースがない。ソファでまったりさせるのが最近の水族館のトレンドのように思うのだが、とにかく回転重視な讃岐うどん店的な戦略でもあるのだろうか。

ようやくの思いで魔のトンネルを抜けると、その先にものすごく大きなアオウミガメいた。そう思ったら、その視線を遮りフグが現れた。モヨウフグだろうか。ブサ可愛くて目が離せない。

ブサ可愛といえば、入口を入ってすぐのところにこんな子がいた。らんちゅうに似ている気がするが、「パロットファイヤーシクリッド」と銘打たれている。海水なのか淡水なのか詳細はよくわからないが、間違いなく笑っている。何かのキャラにしか見えない。例によってアゴのあたりを人差し指で撫でてみたい衝動にかられた。

ここに来たからにはイルカショーは避けて通れない。ほぼ義務感である。水族館好きと言っておきながら、その目玉とも言えるショーが実は苦手なのである。きゃーきゃーと真っ直ぐに楽しんでいた時代もあるにはあった。しかし10代だか20代だかの多感な時代のあるときに、イルカの悲哀を感じてしまったのだ。なんというかもう、テレパシーのように。それは「人間に飼い慣らされちまったぜ」とか「見せ物にされて無念だぜ」とかいう深遠なタイプの嘆きではなく、
「ヤベっ、背中擦りそう…!」
という瞬発的な声であった。結果的には〝狭いプールじゃなくて広い海をどこまでも猛スピードで泳ぎたいよね〟という解釈に至るのだが、それ以来ショーにおいてはイルカたちの研ぎ澄まされた芸もそこそこに「背中、擦らないかな」と心配で仕方なくなるのだ。そういうわけで、今日も心配しながら観察した。背中を擦りそうなのに、言うことを聞いて健気だなと少し涙ぐんだりした。

アクアパーク品川のメインディッシュは、紛れもなくエイであろう。飛び交うエイに魅せられ、ついマンタのぬいぐるみを買いそうになった。数分葛藤してようやく諦めたが、危ないところであった。

代わりに絵本を買った。


人よりエイの方が多くて、本当に楽しかった。やはり水族館は平日に限る。


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