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折原臨也リサーチエージェンシー様に一問一答してみた

ジャンルに限らず有益な情報を発信している研究者や調査人は調査研究の結果は見たことがあるけど、本人はよく知らないという事が多々ある。
今回はいつもとは少し違い、調査人にスポットライトを当てた記事を書きたいと思い、第一回目はお世話になっている折原臨也リサーチエージェンシー様のサイト紹介と代表折原様に一問一答をしてみた。
(折原臨也様Twitter)

日本でもトップクラスの死刑、その他事件関連の情報量

現在、個人で死刑関連をサイトで発信していて20年以上活動されている有名な方もいらっしゃるが、折原臨也様も15年以上活動されていて国内ではトップクラスの情報量と言える。
現在一部を除き有料化のサイトになるが、どのようなサイトなのか?気になっている方のためにサイトの紹介をさせていただきたい。

①情報公開

主に殺人事件等の『地裁と高裁の公判日程確認表』は傍聴マニアには有り難い情報で各裁判所の電話での問い合わせに対しての対応なども記されている。
『女性に対する死刑求刑事例』『少年死刑囚一覧』は共に死刑確定者はネット上ではある程度の情報を目にする事が出来るが求刑事例まで記されているデータベースで私も参考にさせていただいている。
『二度以上裁判員裁判を受けた被告人一覧』『求刑無期・判決有期に対する検察控訴の動向』『無期懲役求刑に対する死刑判決/有期懲役求刑に対する無期懲役判決』『上告審で「死刑」が破棄された事例』『控訴審で初めて死刑を“求刑”した事例』など量刑を研究してる方には必読の内容
他にも『死刑判決を破棄しての死刑判決』『死者0人で死刑』『二つの死刑判決を言い渡された被告人』などの特殊な事例と、『講和恩赦を考察する』は色々な書籍等で謎だった人物にも切り込んでいて私的に好きな記事である。
これに2005年以降の懲役20年越え判決一覧と重大犯罪者の生年月日一覧(共にExcel)がついているという充実した内容になっている。

②情報公開

折原様のすごい所の一つには判決文の所持数がある。先日、死刑事件の上告趣意書を集刑で公開されたものに関しては全て集めたとおっしゃられていたが、いったいどれほどの時間や労力を費やしたのか、私も資料集めをする者なので、ただただ感服である。
他にも王道の戦後の『死刑囚名鑑』『死刑確定者リスト』『非確定者リスト』『殺人等再犯者リスト』など、判明している分の日本の死刑事件で他にはない情報をほぼ網羅しているといえる内容になっている。
※有料サイトのため価格等は折原臨也リサーチエージェンシー様のサイトでご確認を。
そんなサイトの管理人の折原様に色々と聞いてみた。

◆折原臨也様に一問一答◆


問1:活動を始めたきっかけはなんですか?

 「埼玉愛犬家連続殺人事件」です。共犯者が祖父の別荘の隣人でした。事件が起きたのは小学生の時ですが、大学院時代になってから気になって調べ始めました。

 死刑囚が専門になったのは、宮﨑勤の刑が執行された時です。あの事件では愛犬家事件と同じ捜査員が捜査に携わっており、各紙にコメントを寄せていたことと、執行がやけに早く「どういう順番で死刑は執行されるのだろう」と気になり、他の死刑囚のことを調べるきっかけになりました。

問2:今までの中で一番印象に残ってる事件は?

 実は事件の中身はそれほど知らないんです。今は専らデータベースの作成と、他人への情報提供しかやっていないので。その中でも印象に残るのは自分の馴染みの土地で起きたものです(それも都会ではなく田舎)。母の実家のある埼玉県北部や、祖父の別荘のあった群馬県北部の事件に興味があり、大学院の論文の題材にしようと調べていましたが、教授がそのテーマを一切認めず、退学した過去があります。

 愛犬家事件以外はいずれも無名ですが、「新治村元家政婦殺害事件」「月夜野町スナック経営者強殺事件」「利根村ホスト射殺事件」「片品村自衛官内妻殺害事件」などはよく調べました。「千葉主婦殺害事件」も前科の「加須タクシー運転手強殺事件」が母の実家のすぐ近くで加害者の名前を知っていたので大変驚きました。

(※上記事件は折原様のサイト内で事件内容を知ることが出来ます)

 私自身は生まれも育ちも東京なのですが、この土地に全く愛着がないので近所で起きた事件にはあまり関心がありません。
思い入れのある死刑囚は岩崎治一郎です。長期逃亡中に貧しい人たちを救い「生き仏」と呼ばれた岩崎と、その妻・杉山志づのエピソードが好きです。

問3:最近、事件現場に行かれましたか?過去に印象に残ってる場所は?

 繰り返しになってしまいますが、愛犬家事件の現場は馴染みの土地なので何度も行っています。この事件に興味を持つ人は多いようで、雑誌の企画でいろんな業界の人を案内したりしました。

 都内で印象に残っているのは古いのに現場の建物が現存しているものです。銀座の「弁護士妻子殺害事件」、恵比寿の「正寿ちゃん誘拐殺人事件」(最近改築された)、中野の「近隣騒音5人殺害事件」、現場ではないですが同じく中野にある永山則夫が逮捕時住んでいたアパート、大阪で事件を起こして東京に潜伏していた岩崎治一郎・杉山志づ夫婦が暮らした防空壕の残骸などです。

問4:裁判傍聴は月にどれくらい行きますか?

 最近、傍聴はあまり行っていません。精神的に電車に乗れないのと、人がいる空間が耐えられないからです(特に東京地裁)。たまに行くとしても、目的は他人への情報提供のためで、裁判を楽しむということは最近はなくなりました。

問5:実際に傍聴した死刑事件は何件くらいですか?

 数が多すぎて全て覚えていません。初めて傍聴したのが八木茂の上告審判決でした。

 一番心を揺さぶられたのは初めて控訴棄却や上告棄却でない「死刑判決」だった渡辺純一の控訴審です。主文が後回しになり、理由が読み上げられていく中で、徐々に死刑であることがわかりました。心臓の鼓動が早くなり、興奮したのを今でも覚えています。

 判決だけでいえば、被告人が出頭しない上告審を除くと、濱崎勝次の控訴審(控訴棄却)が最初のようです。ほか控訴審では、謝依俤(同)、岩森稔(破棄自判の死刑)、髙見澤勤(控訴棄却)、伊藤玲雄(同)、小泉毅(同)、松原智浩(同)、川崎竜弥(同)。一審死刑は伊能和夫と岩間俊彦です。死刑が求刑されながら無期懲役だったのは吉岡正行(控訴審)、林大平(同)、齋藤勝彦(一審)、澁谷恭正(同)です。

 生で見た死刑囚で既に執行されたのは濱崎勝次と髙見澤勤の2名です。
(先日執行された加藤智大も実際に見られたとの事です)

問6:裁判傍聴で印象に残ってるエピソードをお聞かせください

 後藤良次の上申書事件です。主犯の三上靜男の公判に証人出廷した時のことです。

 残虐な犯行の模様を淡々と、それでいてリアルに証言したり、三上の弁護人に食って掛かったり、法廷という場に非常に慣れている様子でした。そんな後藤の様子に傍聴席にいた「新潮45」の記者は笑っていて、こちらまで吹き出しそうでした。大変不謹慎ですが、一番印象に残っている裁判です。

問7:死刑制度に関して賛成反対含めてご意見をお聞かせください

 死刑制度というと何かと賛成反対で論じられがちですが、日本はまだまだそれを議論できる出発点に立てていないと思います。というのも、死刑制度については多くの情報が非公開で、議論のために必要な情報が欠けているのです。

 存廃以外にも目を向けて論じる必要があると思います。執行方法、執行当日通知、確定者処遇、被害者の状況等。制度を維持するなら必要な議論だと思います。

 制度の存廃についても様々な角度で論じなければなりませんが…

「国民の大多数が死刑を容認している」

 これは統計の設問に問題があるというのは以前から指摘されていることです。

「廃止は世界的潮流」

 この言葉は政治家等が都合のいい時にだけ用いるものです。例えば「禁煙」は世界的潮流だとして屋内禁煙や煙草の値上げを推し進めるのに、死刑存廃ではこの言葉を用いません。世界的には合法化の流れのある大麻の使用罪の新設等もそうです。全く筋の通らない話です。

「犯罪抑止」

 「死刑は犯罪の抑止にはならない」という統計があり、実際、死刑囚の多くが「犯行時、死刑のことを意識していなかった」という調査結果もあるそうです。ですが、逆に「死刑があるから犯罪を思いとどまった」人は確実に調査から漏れるのでなんともいえません。海外で死刑を廃止した国の統計が参考になるかもしれませんが、日本でも同様の結果になるかは、実際に廃止してみないとわかりません。「死刑になりたい」という動機で無差別殺人を行う人はいなくなるかもしれませんが、「無期懲役」や「終身刑」になりたいと考える人物が現れるかもしれません。

「冤罪」

 「死刑制度と冤罪は別に論じられるべき」との意見をよく耳にします。しかし、今の日本では冤罪防止への議論がまだまだ進んでいません。冤罪の可能性が高くても再審がなかなか認められないなど、まずは冤罪防止と、冤罪が発覚した際に柔軟に救済される制度作りに向けた取り組みが必要です。

「遺族感情」

 私は死刑制度の存廃の最も大きな問題がこれだと考えています。家族や身近な人を殺されても死刑反対と言えるか…私には言えません。

 一方、加害者が死刑になっても遺族の心は救われるのか…これは長期的な調査が必要だと考えます。

 同時に、被害者や遺族への物心両面のケアが必要だと考えます。死刑が執行されたところで遺族の悲しみ、苦しみが癒えるか…もっと別の観点からも遺族のケアが必要であるし、それを行うのは国だと考えます。

 結局、私の現時点での考えは、「加害者の言い分を全て聞いたうえでの死刑」ならば仕方がないというものです。これは私の幼い頃の経験からくるものです。親や教師から叱られた時、自分の言い分を何も聞いてくれなかった。私が抱える発達障害の問題もあり、なぜ怒られているのか理解できなかった。だから取り調べや裁判で加害者(被疑者や被告人)の言い分を全て聞くことが大切だと思います。その上での死刑ならやむを得ないと考えます。
死刑制度については事件に関心を持つまで(高校生や大学生の頃)は長年「廃止派」でした。

理由はどんな生命も(動物や昆虫でも)殺すことは絶対にいけないという考えだったからです。 しかし、光市母子殺害事件のニュース(上告審弁論が弁護人の不出頭で延期になった際だと思います)を当時の恋人と一緒に観ていて、本村洋さんの発言に対して「今この人を失ったら自分も同じ感情を抱くだろう」と共感し、死刑廃止など綺麗事だと思い、泣いてしまったことがあるのです。 それからしばらく時間は経ちますが、事件を調べる中で存置と廃止で揺れ動くようになりました。 裁判を傍聴するようになってからは、被告人を見れば普通の人間に見えるし、一方で遺族が泣きながら証言している様子に深く同情したり…様々な考えが渦巻くようになりました。 廃止は理想だが、それを声に出すと多数派である存置派からの攻撃が怖く、無理に存置派の意見を述べることも多かったです。 しかしやはり自分の家族や大切な人を殺されたら反対とは言えない。 

いろいろ考えた末の「消極的存置派」が今の私です。

問8:少年への厳罰化の流れはどう思われますか?

 私は反対です。というのは、少年法の理念や可塑性の問題ではなく、少年は自分の環境を自ら選択することが著しく難しいからです。その少年に成人と同等の罰を与えることに反対なのです。

 最近、民法が改正され成人年齢が引き下げられました。その一方で酒や煙草は20歳からのままです。「AV出演」の問題が今議論されていますが、そんなに18・19歳が未熟だと考えるならそもそも民法自体改正すべきでなかったと思います。「責任」は「自由」に伴うものです。責任だけ押し付けて自由を与えないのは全く筋が通っていません。

 そもそも、少年法に限らず厳罰化自体に反対です。いくら法改正を重ねても、民衆はすぐに慣れてまた厳罰化を求めることの繰り返しで、キリがありません。自己責任論が横行して、ネットや報道の論調が加害者に対するリンチの様相を呈していることにも問題を感じます。

問9:国会図書館以外のオススメ図書館とその理由を教えてください

 オススメというわけではないですが、国会以外では都立中央図書館しか行きません。国会で閲覧できない「判例秘書」があるからです。

 他の区や市の図書館は使い勝手が悪くなりました。ほとんどの図書館で新聞の縮刷版が閉架になったからです。閲覧のためには職員に申し出なければなりません。気になることがあったので返却したのをもう一度見たい、というのはよくあることです。縮刷版の閲覧はその繰り返しです。開架にあってこそできる調査です。

問10:今までの調査活動で一番達成感を感じた事はなんですか?

 具体的な名前は伏せますが(実名が出ているので)、とあるドキュメンタリーやノンフィクションに協力したことです。あとは恩赦を受けた死刑囚を特定したり、長年謎とされてきたものを解き明かした瞬間はやはり嬉しいです。

 

問11:ネット上の死刑囚情報が出鱈目ばかりの現状はどう思われていますか?

 ネットの書き込みは信憑性の低いものだと思っているので、常に冷めた目で見ています。むしろ、その中から正しい情報を拾い上げたり、誤った情報を正していくことが使命だと感じています。

 

問12:今後の活動予定などあればお願いします

 「情報屋・折原臨也」として、調査活動を本業にしたいと思っています。そのために、まずはサイトの知名度と信頼性を上げていきたいと考えています。


折原様ありがとうございました。
私も何度もやり取りさせていただいている中で、とても謙虚で丁寧な対応をしてくださる折原様です。
今後も正しい情報発信していきたいと思いますのでよろしくお願いします。


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