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アリさんとキリギリスさん

 むかしむかし、アリさん国家にアリさんとキリギリスさんが住んでいました。

 アリさんは、みな日々黙々と働いては税金を少しずつ納め、官僚アリや政治家アリはその税金を元に、より暮らしやすい国になるよう巣穴の拡張や様々なインフラ整備を行っていました。

 汗だくになりながら、時には巨大なムカデとの戦いで命を落とす危険にさらされながら働くアリさん達を尻目に、キリギリスさんは日々バイオリンを弾いてのんびりと暮らしていました。アリさん達は、つらい労働の合間にその演奏を楽しみ、少ない賃金からお金を出して、お礼としてキリギリスさんに払うのです。

 一人ひとりのお金は僅かでも、アリさんの数は膨大です。たちまち、お金持ちになるキリギリスさん。しかしアリさん国家に暮らしているからには、税金を払わないといけません。
 アリさん国家では、累進課税制度を採用していました。周りのアリさんたちよりも圧倒的に稼いでいたキリギリスさんに対する税率は50%超えです。住民税と所得税で収入の半分以上を徴収された明細を見ながら、キリギリスさんはアリさん相手にボヤきます。

僕は、自分の時間を削って、つまり命を削りながら演奏しているんだよ?僕の払った税金で、どうして君らみたいないくらでも補充のきく連中を養わないといけないんだ?」
「ほら、あそこの脚がもげて動けないアリ、あんないてもしようがないヤツを養っているのは僕の税金だぞ、おかしいだろう?」

 アリさん達は、そんなキリギリスさんの言葉に、顔を見合わせながら苦笑するしかありませんでした。

 やがて厳しい寒さの冬が到来すると、みな巣穴に籠ります。キリギリスさんも、聴衆がいないとお金にならないので巣穴に籠りました。
 長かった冬も去り、暖かな春の日差しが差し込んできた頃……一人のアリさんが、いつもキリギリスさんがいた場所に彼がいないことに気付きました。

「あれ……キリギリスさんはどうしたの?」
「さあ……でも、彼の演奏はいつでも聞けるよ、ほら、このCDってやつ」
「……へえ、彼の演奏だ、すごいなあ」

 R&Dアリが、冬の間の技術革新により、キリギリスさんの演奏を全てCDに記録し、無料配布をしたのでした。キリギリスさんは著作権違反だとアリの行政府を訴えましたが、裁判官アリは「この国には著作権という概念はふさわしくない」とはねつけます。

「働かずに稼ぐことができるなどという考えを、みなまじめに黙々と労働しているこの国で広めるわけにはいかない」

 キリギリスさんは絶句します。こんなキリギリス差別をするような野蛮な国にはいられないと荷物をまとめ、権利意識がアップデートされていてもっと稼げる他のアリさん国家を目指して旅立ったのですがその道中、うっかり遭遇したヘビにぱくりと飲み込まれて誰にも知られることなくその波乱万丈の生涯を終えたのでした。

 キリギリスさんがいなくなったアリさんの国では今でも、街角でキリギリスさんの演奏が流れていて、人々はたまに彼のことを思い出すのです。

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ご笑納いただければ幸いです。(´・ω・`)

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