コロセウム

イノベーションとマーケティングの機能不全が組織衰退を招く

私は、古代ギリシアや古代ローマ帝国の時代も好きです。そんな私に、トインビーは「歴史の研究」でこんな言葉を投げかけました。

『われわれは、ローマ帝国の直前に動乱時代のあったことを知った。この動乱時代は少なくてもハンニバル戦争までさかのぼるものであって、この時期にはヘレニック社会(古代ギリシア・ローマ)はもはや創造的ではなくなり、実際、歴然と衰退の道を辿りつつあった。               この衰退はローマ帝国の成立によって一時くいとめられはしたけれど、結局、ヘレニック社会とローマ帝国とを同時に亡ぼす不治のやまいの徴候となった。(中略)
 事実、帝国が滅亡して(キリスト教の)教会が生き残ったのは、教会が民衆に指導を与え、民衆の忠誠を勝ち得たのに反して、帝国はとうの昔から、そのどちらもできなくなってしまっていたからである。』(歴史の研究 第2章 文明の比較研究)


古代ローマ帝国皇帝の責務は3つあった。
『1、安全保障 2、インフラ整備 3、国内政治』

 私が考えるに、「民衆に指導を与え」というのは、この3つを通して「帝国が進んでいく方途」を指し示すことで、民衆にメッセージを与え、リーダーシップを発揮して実現をしていく。
 その結果として、「民衆から忠誠を勝ち得る」ってことだと思う。

 (皇帝は、あくまでも元老院と市民集会での就任承認が必要であった為)古代ローマ帝国の存続している理由を「市民生活を守る」とすることもできると思う。だとすると、皇帝は、時代の変化に対応した統治が求められ、そのことを市民にも伝え、異民族へにも徹底的に武力と経済力で教え込む必要がある。
 つまり、その時代その時代に適応した3つの責務の具体的方針を指し示し実行にしていくことが、今で言えば「イノベーション」であり、帝国内外への「マーケティング」にも通じる。

 このように考えると、

『企業の目的は、顧客の創造である。したがって、企業は二つの、そして2つだけの基本的な機能を持つ。それがマーケティングとイノベーションである。マーケティングとイノベーションだけが成果をもたらす。』(マネジメント P・F・ドラッカー著)

がドラッカーが言っている通りに「マーケティング」と「イノベーション」が大事になる。

 これらが上手く機能しているときには気づかなったが、実は絶妙なバランスの上に成り立っていることを、後に思い知ることになる。そのことはここでは割愛させて頂きますが、1つだけ、ここでは上げたいと思う。

 安全保障の件。実は古代ローマ帝国は拡張主義に走らないというのが基本方針でした。それは初代皇帝から領土にはある指針を与えられていたからです。
 ※後の時代に4分割統治等を試みているので、ローマ帝国の統治方法では領土経営の限界だったのかもしれない。

 つまり基本は守勢だったのです。この守勢を通してイノベーションをすることは誰もができることではないと思う。だからこそ、枠をはめられた既成概念をそのまま引き継いでいくことが多かった。野戦だとローマ軍は強すぎたので、尚更にこのような状況を許してしまったんでしょうね。

 『歴史を眺める際に、我々は全て、我々の見地が、たまたま我々の各々が生まれた時代と場所によって、大部分決定されていることをに気づく。人の見地は、要するに、特定の個人、特定の国民、特定の社会の見方である。』(「歴史の研究」日本語版への原稿者の序より A・J・トインビー)

と述べたとおり、長く続いた社会の目から見ると、変革しないことも当たり前になり、だからこそ、積み上げてきた価値も解らず壊してしまい、絶妙なバランスを自らの手で崩してしまった。

 だからこそ、トラヤヌス帝のように、今までの既成概念を壊して領土拡張をしたあの行為は必要だったと思う。※そもそもダキア遠征自体には、ローマ帝国側にはそれなりの理由があった。

そういう意味では、この2つの機能「マーケティング」と「イノベーション」が機能不全に陥ったからこそ古代ローマ帝国は滅んだのかもしれない。

(前述)『もはや創造的ではなくなり、実際、歴然と衰退の道を辿りつつあった。』とあったけど、創造的であるには、この「超越した見方」を意識し、「マーケティング」と「イノベーション」の繰り返しによって、なされることかもしれません。

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