ショートショート「環状線」

「次は 今宮 今宮です。」


列車の中にアナウンスが響いた。僕が降りるのはこの駅ではないから、未だに悠々閑々とインスタグラムとにらめっこをしている。

僕はこの電車があまり好きではない。二人分の席が向かい合わせに配置されているタイプの電車のことだ。横向きに長椅子が伸びているロングシートに対して、これはボックスシートと呼ばれるそうだ。

僕は通路側の席に座っていたが、どうやら窓側に座っているこのおじさんは次の駅で降りるようだ。直接降りますと告げられたわけではないが、出していた荷物をカバンにしまい、降りる準備をし始めたように見える。それであれば、通してあげなければいけない。

僕は自分が席に座った状態で、自分の足の前にある狭いスペースを人に通らせるのが嫌いだ。だから、一度席を立つ。席を立って通してあげるのだ。無事、彼は下車していった。

「次は、新今宮 新今宮です。」

ここも僕の降りる駅ではない。