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二百光年のおやすみなさい

 ベッドの真ん中。
 君と僕の間には目に見えない境界線があるよね。

 境界線上に僕が右手を出すと、君が僕の手を握ってくれる。
 そのまま僕は寝たふり。
 ベッドは夜へ滑り出す。浮遊するんだ。
 寝たふりしたまま、いつの間にか夢の中。

 でも今日は何だか眠れないね。
 繋いだ指先から伝わる君の緊張。


 ひとつお話をしようか。

 君は驚いて手を離そうとした。
 僕は君の手を握り直す。
 大丈夫。
 境界線は超えないから、手は繋いでいて。

 ふたりで天井を見る。
 天井が透けていく。


 想像して。
 今から3秒後に地球に隕石がぶつかる。
 すごく巨大な隕石なんだ。
 ぶつかった衝撃で生まれたピンク色のガスが人々を眠らせる。
 誰もその眠気からは逃れられないんだ。

 僕たちは手を繋いだまま眠ってしまう。

 やがて隕石衝突のために空中に舞い上がった塵が人々の上に降り積もり始める。

 砂漠にも、森にも。
 動かない乳牛の背中にも。
 湖は埋もれてなくなる。
 エッフェル塔も塵の下に。
 眠る街の上に、眠る人々の上に、微細な塵が静かに積もり、やがて全てを覆い隠す。


 悲劇じゃないよ。
 最後まで聞いて。


 想像して。
 やがて二百光年の彼方から、銀色に輝く宇宙船が姿を現す。地平線を照らすよ。
 塵の上に地球外生命体が降り立つ。

 どこに降り立ったと思う?
 この真上さ。
 僕たちの。

 彼らは何かに突き動かされたかのように足元を掘り進むんだ。


 ほどなく僕らは発見される。
 ベッドの上の君と僕。

 塵に覆われていたせいで奇跡的に僕たちは、そのままの姿をとどめているんだ。
 眠りについた時のまま。
 手を繋いで。

 外気に触れたとたんに僕たちはさらさらと解けるように消えていく。
 君の髪も睫毛も指先も。
 唇は最後に。
 
 二百光年先に起こることさ。


「おやすみ」
 僕が言う。
「おやすみ」
 君が言う。

 今夜も。
 おやすみのひとことにたどり着けたことに、僕は安堵する。


 恋人になっちゃったら、いつか終わりが来るよね。

 二百光年の彼方でも友達なら一緒にいられる。
 そうは思わない?


 君と手を繋いで死にたい。
 おんなじベッドの上で。
 素敵じゃないか。


☆あとがき☆
エブリスタの妄想コンテスト「おやすみ」には、まったく引っかからなかったんですが💦このポエム的なのを割と気に入っています。

二百光年は距離なのか、時間なのか……

おやすみベイビー☆良い夢を! 

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