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『零號琴』読書感想文

零號琴を読んだ。何はともあれこの小説、文体がかっこいい。
プロローグの一文を引き写そうかな。

無辺の沙漠を想え。小さな白い砂が細緻な風紋をどこまでも広げ、横臥する女のような丘をいくつも並べて果てもない。

かっけー。飛浩隆氏の文章、本当にいいですね……

あらすじとしては
時代はるかな遠未来。地球人類は8000光年にも及ぶ古代文明の跡、「轍宇宙」(わだちうちゅう)で繁栄している。轍宇宙には古代文明が遺した「特殊楽器」が点在している。主人公のひとりセルジゥ・トロムボノクはその特殊楽器の修理。調整を行う特殊楽器技芸士。彼と相棒のシェリュバンは大富豪パウル・フェアフーフェンの依頼で惑星「美縟」へ赴く。首都磐記では開府500年を記念して大陸全体に配置された特殊楽器「美玉鐘」を再建。秘曲「零號琴」を開府以来初めて演奏しようというのだ。

物語のなかで上演されるVR/AR的な劇中劇「假劇」では、プリキュアをはじめサブカルチャーへのオマージュが大量にちりばめられている。プリキュア、戦隊もの、ウルトラマン、ゴジラ。もしかしたらまどマギ、エヴァ、手塚治虫とかも入っているかも。

気楽な雰囲気で始まった零號琴は、終盤は惑星「美縟」のグロテスクな歴史が語られ、地獄の様相を見せてくれる。結局地獄絵図が始まるのが飛浩隆作品。『グラン・ヴァカンス』、『自生の夢』、『ラギッドガール』の順に読んだかな。どれも美しく残酷で、おすすめ。

そして「想像しえぬものが、想像された。」の帯にある通り、何かとてつもなくすごい音として音響彫刻なる音楽が出てくる。時間方向に対称な音楽っていってしまえば音楽というよりただの音なのだが、「すごい音」が文章として表現されてしまった感動があった。

とはいえ600ページ近くあって長い。本当に長い。

【追記】まったく余談になるけど、黒と金の対比と仮面のモチーフって『Death Stranding』っぽいかも。とくに作中でタールのような黒色の液体が描かれるシーンも多い。こじつけですが。


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