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【日本語】詐欺師扱いされて死んじゃった(『天空の城ラピュタ』)

ラピュタについての記事を読んでいて、ふと、長年引っかかっていたこのセリフを思い出した。

冒頭、主人公のパズーがシータに、父親について語った言葉である。

「◯◯されて死ぬ」の「◯◯」にはふつう死因となるような加害行為が入る。

「殴られて死ぬ」「刺されて死ぬ」「毒を盛られて死ぬ」。

しかし、詐欺師扱いされることが直接の死因となることは、普通ない。

それが心理的負担となって、あるいは遠因となって自ら命を絶ったり、落ちぶれて名誉回復することなく命を落とすことはあるだろう。

しかし「詐欺師扱いされて、病気になって死んじゃった」「詐欺師扱いされて、絶望して死んじゃった」ということになると、父親を死に至らしめた加害者がいることをほのめかさざるを得ない。

「父さんは詐欺師扱いされたが嘘つきではない、ラピュタは本当にあるのだ」ということを伝えるのが目下の目的だし、冒険譚に復讐劇はノイズとなりうる。

とはいえ、父親がどこかに生きているのだとすると、なぜいっしょに住んでいないのか、なぜいっしょにラピュタを探していないのかが問題となる。

この、シナリオ上のさまざまな要求と、ノイズを排除しようとする配慮の結果生まれてしまったのが、舌っ足らずで不自然だが印象的な、いかにもパズーらしいセリフ「詐欺師扱いされて死んじゃった」なのではないか。たぶん熟慮の結果ではなく、一瞬の判断だろう。

はっきり言って、私はこのセリフはミスだと思っている。誤った日本語だ。しかし、修正すべきだとは思わない。

代案として「詐欺師扱いされたまま死んじゃった」でもいいと思う。ストーリーにも尺にもキャラクター造形にもほとんど影響を与えないはずだ。だが引っかかる人はいなくなるだろう。何もはしょってないから当然だ。そして何より音の響きとして、オリジナルの方がスマートだ。

修正することで得られるものはほとんどなく、かえって大事なものが失われることもある。そういうことって見過ごされがちだけど、世の中にはけっこうあると思う。

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