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ザ・細かすぎて伝わらないモノマネ2024夏

僕が中学の修学旅行の宿舎で流れてたのを覚えている。
芸人になって1年目の時にオーディションに行った。
テレビ局に行くのも初めてで緊張しながらちょろちょろっとモノマネをやって何の手応えもなくオーディションの部屋を出ると順番待ちで並んでる椅子に横澤夏子さんが座っててノートを5冊ぐらい(定かじゃないけど僕にはもうそう見えた)膝の上に置いて見てた。
あぁだめだ。あんなに面白い人があんなに努力して挑んでるんじゃ無理だ。慌てて控え室に戻って荷物まとめてフジテレビを飛び出してプライベートでお台場来た顔作って帰った。
そっから1度もオーディション受けなかった。
弊社としては自分の面白くなさを直視するわけにはいかなかったので。
あれから10年経って僕は運良く相方や周りの芸人さんにも恵まれ色んな人の助けがあって賞レースの決勝にも行けた。
安定なんて全くしてないし苦しい事の連続だがお笑いで飯を食えてて幸せだ。
去年細かすぎて伝わらないモノマネの放送を観てる時に自分が中学の時から放送してたのを思い出して人生で1回は出てみたい!と思い挑戦する事にしマネージャーさんに出たいのでオーディション受けさせてくださいと伝えた。
『ええ?マジっすか!分かりました!』
ええ?の意味もマジっすか!の意味も分かるぐらいに自分の事は分かってる。
毎月やってる市川刺身のお造りライブというライブで何本かモノマネをやって見たら1本反応が良かったので、よしよしこうやって作っていけばいつか出れるかな!と妄想してると3月のスケジュールにオーディションが入った。
そんなに早くからやるの?
ビビった。慌てふためいた。ライブ終わりに劇場に残ってモノマネを考えて作ったが何が正解なのか分からず迷走しまくりなんとかモノマネをこしらえてオーディションに向かった。
そもそもオーディションを受けること自体、何年もしてないので緊張した。
受付で名前を言ってエントリーシート的な紙に控え室で記入をする。
モノマネを書く欄があって書ける分のモノマネを書いた。
でもこれは提出しちゃうから順番分かんなくなっちゃうな!と思って自分のノートに全く同じ文字をもう一度書く。
次オーディションを受ける時は、やる順番のモノマネを印刷して持って行ったら楽だし自分の漢検五級3回落ちた下手くそな字も見られずに済むなぁ。
周りの人達がすごく楽しそうに大きな声でモノマネの練習をしてる。
『市川くん!』
大きな声で声をかけてくれたのは僕の高校の同級生で最近ものまね芸人になった「ちなっぴー」という子だった。
それとない会話をして僕の荷物の定位置に戻るとちなっぴーの周りの人が「なに〜?友達?」とか色々声が聞こえてきた。
楽しそうだなぁ。
エントリーシートを受付の方に出すと『もういけます?』と聞かれた。
このままいくと飲まれそうな気がして『煙草一本吸ってきたらいけます!』とワガママに答えて喫煙所まで行き煙草を吸いながら小声で練習してからオーディション部屋の順番待ちに並んだ。
まるで本物みたいな芸能人の声が漏れ聞こえて静かになり本物みたいな人が部屋から出てきて僕の番になった。

声を大きく元気よく声を大きく元気よく。
自分の渾身のモノマネをぶつけた結果2本可能性がありそうと言ってもらえた。
これは非常にプラスな捉え方をしたが10本ほどボツった結果でもある。その中にお造りライブでやったモノマネがいてひっくり返りそうになった。
オーディションしてる作家さんはすごく優しくてモノマネの感想と『どんなのでもいいから持ってきて見せてください』と言ってくれた。
ノートに残った2本のモノマネのタイトルに丸をつけて帰った。
数日後スケジュールにまたオーディションが入った。
2次オーディションに進めた。
これで11年前の自分は超えた。やった。
ライブの合間や終わりにモノマネを考えて1回目で残った2本の他に新作を足してオーディションに臨んだ。
前回よりどうしようもないモノマネもあったけど少しフィットしてる感じはあった。
今回も感想をもらって2本残してもらい3次オーディションに進んだ。
3次オーディションの前に劇場で細かすぎて伝わらないモノマネで優勝経験者の、たつろうさんとスクールゾーンの俵山さんに今度3次オーディションだという事を伝えて相談に乗ってもらってモノマネを修正した。
新作もプラスしての勝負の3次オーディション。
修正した所もプラスした新作も良い感じで今までで1番手応えがあった。
これは、、、もしかしたら出れるかもしれない!
大興奮で湾岸スタジオから東京テレポートまでの広くて長い道を早歩きで帰った。
やった!やった!

それから何日か経ってスケジュールを見たら4次オーディションがスケジュールから消えてた。
気のせいかと思って何度も見返したけど無くてマネージャーさんに『細かすぎてってどうなってる?』と聞いたら気まずそうな顔で『保留ですね、、』と言われた。4次オーディションに進んだ人の中に僕の名前は無く保留という欄に名前があるらしい。
『これは落ちたってこと?』
『いやっまだ分かんないっす!保留なんで!こっからいける可能性も無くは無いと思います!』
『まぁしょうがないね!また頑張ります!』
『ツスゥ〜』
マネージャーの池本くんはこういうどうにもならない時、僕の肩を撫でながら口から空気を出す。
気を使わせまいと長年培ってきたピエロ笑顔で応える。
2人とも不幸せな空間だ。
何があるか分からない世界だし。そんな甘くないもの。あぁ悔しい。

それから何週間か経ってマネージャーの池本くんと煙草を吸っていると『細かすぎての5次に呼ばれました』とサラッと言われた。
何があるか分からない。
首の皮1枚残ったか。収録の日程的に最後のオーディションだろう。ここまできたら絶対出たい。
湾岸スタジオに行くと控え室がいつもと違う階で会議室のような場所だった。
エントリーシートにモノマネを書く。4回目となれば慣れたもんだ。
スタッフさんに呼ばれてオーディションの部屋に行くといつもと違う部屋だった。
声を大きく元気よく声を大きく元気よく。
部屋に入るとたくさんの大人の人がいた。
これが最終オーディションか、しびれるぜ。
1次オーディションの時からいる作家さんが口を開く。

『刺身くん収録決定という事で何やりますか?』

!!!?????
収録決定!?
『収録決定です。』
合格した。
あの時逃げるように帰ってから11年。
合格した。
いつもみたいにモノマネの感想をもらって、どのモノマネをやるか順番を相談して帰った。
何があるか分からない世界だからスケジュールに収録日が入るまで信じないようにしてたが(仮)のついてないザ・細かすぎて伝わらないモノマネの収録が入った。
もう出れるのが嬉しくて収録日が待ち遠しかった。
収録日前日にリハに行かせてもらうとモノマネ出演者の名簿が壁に貼ってあった。
自分の名前がある事を確認して準備してスタジオに向かう。
同じ時間のリハのグループに、にぼしいわしがいた。同期だけど喋った事なかったので話せて嬉しかった。
リハで登場の音を聞いたり落とし穴を見たりして緊張してると作家さんが『楽しんでやってね』と声をかけてくれた。
びっくりしたのが、こんなにたくさんの組数がいてネタ数も多いのに全部覚えてた。
スタッフさんみんなすごく熱があってとても素敵だった。
帰宅して服は何を着てやったらいいか悩みながら眠った。

起きていつも賞レースとか大事な日と同じように頭を刈り上げて新しいブリーフを履いて準備した。
局に入ると収録スタジオの隣のスタジオがまるまる楽屋になってて沢山の人がいた。
後輩のスーパーサイズミーとスクールゾーンさんとたつろうさんのいる吉本若手テーブルで喋ってるとあっという間に時間が過ぎた。
スーパーサイズミーが『刺身さん1人でどんなモノマネするんですか?』と聞かれて恥ずかしくて小声で『あるあるモノマネ、、』と呟いたのをみんなに大いじられした事以外は平常心でいれた。

収録が始まる。
みんな次々とモノマネを披露して笑いを取っていく。
名前を呼ばれて袖にスタンバイする。
緊張がえげつない。
出囃子が鳴って出ていき1本目のモノマネ。
落とし穴に落ちるとクッションのスポンジであまり音が聞こえなかった。
楽屋に戻ろうとすると作家さんが良かったよ。と言ってくれた。
1本目を終えたら少し緊張がとけた。
たつろうさんも俵山さんも『良い感じだったよ』と言ってくれた。
1周目が終わり、おかわりタイムに入った。
おかわりに入れてもらってたので2本目の準備をして袖に向かう。
2本目も無事終えたけど1本目の方が良かった気がした。
おかわりの2周目が終わったら審査タイムに入り決勝進出者が発表されるらしく煙草を吸って待機する。
決勝いけなかったらこれで終わりかと思うとなんか色々後悔してきた。3本目に用意してるモノマネが1番やりたかったモノマネだったのでそれをやればどうだったのだろうとか、まだ終わっても無いのに。
楽屋に戻り審査タイムの結果を待つ。
スタッフさんが入ってきて決勝進出者を発表する。
緊張感が充満し100人以上人がいるのにとても静かだ。
スタッフさんが大きな声で俵山さんの名前を呼んだ。周りからの拍手。
たつろうさんの名前も呼ばれる。
にぼしいわしの名前も呼ばれた。
呼ばれた人は駆け足で隣の収録スタジオに向かう。
呼ばれろ。呼ばれろ。

『56番市川刺身さん!』

呼ばれた!!!!!
スーパーサイズミーが大きく拍手をしてくれた。
急いで海パン一丁に着替えて隣の収録スタジオに向かう。
スタジオに向かう道の曲がり角を曲がるとスクールゾーンのはしもさんが立ってて手を叩きながら『いけいけいけ』と言ってくれて優しカッコ良過ぎて泣きそうになった。
収録のスタジオに入って袖に行くと先に入った俵山さんとたつろうさんが驚き喜んでくれた。
作家さんが袖に来て初登場の僕とにぼしいわしに『良い夜になったね』と言ってくれた。
1番やりたかった3本目のモノマネをやれるだけでとても嬉しくて全力で3本目のモノマネをやった。

モノマネを終えて楽屋へ戻るとモニターで見ていた横澤夏子さんが『刺身!!めちゃくちゃ良かったよ!!』と言ってくれた。
吉本若手テーブルに戻るとスーパーサイズミーが『優勝あるんじゃないですか?』と言った。
僕が謙遜してると、たつろうさんが『ある!まじある!』と言ったので海パン一丁じゃ風邪ひきそうだし4本目の衣装に着替えた。
決勝が全組終わって審査に入り。
最後の見たい!の人と上位3組が呼ばれる。
スタッフさんが大きな声で叫んだ。

『56番市川刺身さん!』

みんなが拍手をしてくれる。
駆け足で収録スタジオに移動する。
袖には7組ほどの集まった。
1組ずつマイクをつけてスタンバイしていくと僕と、よね皮ホホ骨さんと、おいらさんが残った。
作家さんがやってきて『じゃあ今回は3.2.1だね!』と1人1人指差して1の時に僕を指差した。

『刺身くん!優勝!』

!!!!!!!!!
何があるか分からない。
溢れ出しそうな涙を押さえこんだ。
まだモノマネやるから。
1組1組モノマネを終えていく。
振り返ると僕の後ろに人はいない。
緊張で手汗がやばい。なんで最後に小道具を使うモノマネを選んじまったんだ。
1次オーディションからいたスタッフさんが『私このネタが1番好きです。』と言ってくれた。
柴田さんが言う『今回の優勝はこの方です!』
モノマネのオチで落とし穴に落ちるとクッションのスポンジの中でも聞こえるぐらい大きな拍手が聞こえた。
楽屋に戻るとモノマネ出演者の方がみんな拍手で出迎えてくれた。
みんな面白くて優しくて素敵だった。
RGさん鬼奴さんボルサリーノ関さんこがけんさん夏子さんハギノリザードマンさんが囲んでおめでとう!と声をかけてくれた。
吉本若手テーブルに戻るとみんなもおめでとうと言ってくれた。
吉本の社員さんがいたので全然マネジメントの管轄関係無い方だったけど『ありがとうございます』と言って握手した。
収録が終わってセットの所で写真撮りたいと言ったら1次オーディションからいたスタッフさんが撮りますよ!と言ってセットの所に連れていってセットをバラすのを中断して撮ってくれた。
エアドロップで送ってくれた写真に僕が最後にネタをする直前の背中を撮った写真が入ってた。
『めっちゃ良い感じだったんで』
スタッフさんは大忙しで片付けに向かった。
みんな愛があってとても素敵な番組だ。
もう終電間近だ。
楽屋に戻るとほとんど人がいない殺風景で吉本若手テーブルに、たつろうさんと俵山さんとスーパーサイズミーの岡田がいて待っててくれた。
温かくて優しくて面白い人達に囲まれてる。
こんな素晴らしいお笑いの世界にもっといられるように頑張ろう。
本当に運が良い。
11年前に逃げ帰る時にノート持ってる夏子さんを見れてよかった。
おかげで頑張れた。
この気持ち忘れないようにしよう。

あとボケで衣装を
かが屋のネタの時の衣装で貝殻の刺繍が入ってる黒のTシャツでジーパンで、かが屋の加賀ちゃんの衣装モノマネしてたんだけど放送後SNSでそれについて呟いてたの0件だった。
全然伝わってなかった。
忘れよう。

また出れますように。
そんで沢山仕事もらえてそいつどいつのコントを観にきてくれる人が沢山増えてチケット即完の売れっ子人気芸人になって全国で単独ツアーやってタクシー移動オッケーになって終電間際の山手線でコントの小道具多すぎて周りの若者に聞こえる声でバカにされるのを薄ら笑いで耐え忍ぶ事が無くなっていつか高円寺で煙草吸える喫茶店やれますように。

高校の同級生のモノマネ芸人ちなっぴー
よね皮ホホ骨さんとおいらさん
スタッフさんが撮ってくれた写真
労ってくれた先輩方
ずっと喋っててくれたこがけんさん
最後まで待っててくれた3人
セットの上で
最終3組
最後のネタ前

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