入れない中華屋

かれこれ現住所に移って2年が経過するが、ずっと気になっている中華屋がある。

行けばいいじゃん、ちゃんちゃん。
で済ませたいのだが、どうも葛藤している胸の内をどうか聞いてはいただけないだろうか。

その中華屋は自宅の最寄り駅から5分ほど歩いた住宅街の中にしれっと現れる。
2階建ての一軒家、築30年はいったであろう。
壁はくすんだベージュ色をしていて、色落ちしまくった赤色をした三角屋根だ。
中華屋とわかる理由は主に2つ。
1つは店名だ。
個人的あるあるで「中華料理を提供する店は店名が漢字4文字で構成されがち」というのがあり、
例にもれず、この店も漢字4文字で構成されている。
臥薪嘗胆みたいな令和を生きる日本人には、字を見ただけでは想像しづらい店名となっている。

もう1つは看板だ。
15~20種類のメニューが載った看板が1階部分を埋めている。
あと、店の入り口横にスナックの入口によくある店名を記した電飾看板がある。夜になると看板横のライトがチカチカしていてまぁまぁ目立つ。

こんな感じで、特徴をここまで5分で書き上げられるにはその店に興味を抱いている。
では、なぜ入れないか?

それは、単純明快。
店内の様子がまったく見えないから。
このお店、店内が見えないのだ。
入り口は15~20cmの階段を一段上がって、襖のようにドアを開ける仕様だが、すりガラスでもない素材のため店内が全く見えないのだ。
想像してみてほしい。
店内の雰囲気がつかめない、どんなひとが接客しているのかわからないという状況で入れるだろうか?
客いれる気ないだろ、とも思うし、入れたら最後でれなくなるのでは…などと余計な空想を浮かべてしまう。
まだ横浜や神戸の中華街みたいに店のドアを開け放して、全力で勧誘してくる店員さんの方がよほど安心するこの気持ちは何なのだろう。

気になり始めて2年。
今日も入れなかった。
今のところ、私がその店を通りすぎる過程でお客さんが入ったことはみたことがない。

気配を感じた時は、大概週末で店内から数人規模でのどでかい中国語会話が聞こえるのみ。

ある種、本格的な中国世界を体感できるのかも?
パラレルワールドに入る勇気を持ち合わせた時、その店には入れるのかもしれない。



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