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降る銀は百色


title by alkalism(https://girl.fem.jp/ism/)


 星間連絡船はたいていが乗合形式だ。大型種族用のものもあれば、小型種族むけのものもある。本来とは別に小さな形になれる種族は、大抵小型種族向けのものに乗ることが多い。理由は簡単だ。安いのだ。
 地球の基準にして全高六メートルまでの小型種族向けの星間連絡船にサロセイルは乗っていた。サロセイルが向かう惑星は、該当する銀河系の中でも端の方にあるためか、連絡船の中にひとはまばらである。それでも、屈強な肉体を持っていたり、明らかに商売人らしい人々が乗っている。それもそうだろう、これから彼が向かう惑星は、銀河系の中では貴重な鉱石が算出する場所なのだから。肉体労働で稼ごうとするものもいれば、採掘用の機械でも売り込みに行くつもりなのだろう。
 随分と賑やかなことだ、とサロセイルは据え置かれた飲み物の販売機の近くにあるベンチに腰を下ろす。先ほど販売機で買った薄い水色をした飲み物は、この銀河系の中心惑星で流行っている飲料水らしい。一番人気、と大きくポップが添えられていた。試しに買ってみて、口を付けてみれば、なんともぱちりとはぜる炭酸の飲み物だった。それほど激しく弾けないから、比較的飲みやすい。地球で言うレモンソーダのような味だった。
 流行る味はどこでも爽やかな物が多いな、とサロセイルが今まで飲んできた流行のものを思い出していると、あんたもあの惑星にいくのか、と声を掛けられる。声を掛けてきた方向を見れば、そこに居たのは屈強な肉体を衣類に隠した獣人種族だった。この惑星は獣人種族――頭部が狼系だったり、尻尾を持っていたり、手足が獣のそれだったりする種族が多かったな、とサロセイルが思い出しながら、そうだね、とにこやかな笑顔を浮かべる。


「そんなひょろっこいなりで大丈夫か? それとも、商売人か?」
「ふふ、どちらでもなくてね。私は旅人でね、観光で訪れるのさ」
「観光ぅ? あんな石ばっかりの惑星にか?」
「そう。あんな石ばっかりの惑星に、さ」
「もの好きなんだな、あんた」


 所謂、地球で言うところの狼の顔をした男は、なんとも言えない表情を浮かべる。毛むくじゃらの体をかがめてベンチに腰を下ろした彼は、サロセイルと同じように飲み物の入ったカップに口を付ける。中身は見えなかったが、別段興味も無いことである。
 ずるずると飲み物を飲んでいる男に、サロセイルはにこにこ笑いながら話しかける。男は気が良いのか、それともただただ暇だからなのか、サロセイルの話に付き合ってくれる。


「石ばっかりだからこそ、珍しいものがありそうじゃないか」
「そうかあ? あそこは採掘師ばっかりだって聞くし、面白いものは無いと思うんだが……」
「ふふ、面白いものがあるのか、ないのかは私が決めるのさ」


 だから、行ってみるまで面白いものがあると思っているのだよ。そう笑ったサロセイルに、あんたの生き方は退屈しなさそうだな、と男は苦笑する。どうせ一度きりの人生なら楽しまなくては損だろう、とサロセイルはからからと笑う。男も釣られるように笑って、それもそうだな、と言う。
 飲み物を飲み終えたらしい男は、立ち上がってゴミを捨てる。ちょうど同じような狼の獣人種族が彼に近寄るから、連れがいたのかとサロセイルはぼんやりと考える。
 男は二言三言ほど連れの獣人種族と話していたかと思うと、サロセイルの方を振り返り、手を振ってくる。それに少し驚きながら、サロセイルもまた小さく手を振りかえす。


「気のいい人だな」


 サロセイルはカップの飲み物を飲み終えると、もう一度飲料販売機に向かう。使い回すカップを注ぎ口にセットして、先ほどとは違うボタンを押す。星間連絡船の多くは、搭乗客の飲食代を乗車賃に含めているから、こうして飲み物は無料で買える。
 カップの八分目まで飲み物が注ぐと、取り出し口のロックが解除される。取り出し口からカップを取り出し、飲み物に口をつける。今度は薄桃色をしている、弾けるような強炭酸の飲み物だったから、サロセイルはまじまじとカップの中身を見てしまう。


「先ほどの飲み物と、炭酸の強度を半分にすればだいぶ飲みやすいのではないかな……」


 首を捻りながら、ばちばちの強炭酸のそれをもう一口嚥下する。大きな強化素材が使われた壁に投影される、外宇宙の光景は相変わらず真っ暗闇で、ときどき鮮やかな白色だったりするものが浮かぶ程度で、面白い風景は見当たらない。
 先ほどまで腰を下ろしていたベンチに、もう一度腰を下ろしながら、サロセイルは持ち込んだ映像表示の端末を取り出す。ホログラム技術が使われているそれは、投影装置も小型で持ち運びが楽なことがメリットだ。問題は地球でいうインターネットのような回線への接続ができないために、別の端末を経由して映像情報をダウンロードして取り込む必要があるということだけだ。
 とはいえ、大抵の――標準的な宇宙技術をもつ惑星の端末へのアクセス端子を備えているから、ダウンロードに困ることは少ないのだが。
 それなりの金額で取り回しのいいそれを愛用しているサロセイルは、地球で購入した漫画の情報を表示させる。変わり映えのしない外の光景を眺めるより、三回目の閲覧となる漫画を読む方がよほど有益な時間の潰し方だった。


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