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一次創作小説まとめ・彼と彼女のアジアート

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一次創作小説まとめ
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キャラクター設定 彼と彼女のアジアート

彼と彼女のアジアート CharacterDesign稲田南天 巣鴨雄大(すがも・ゆうだい)  そそっかしいところがあるが、素直で表情がコロコロ変わる。小型犬のような人なつっこさがある。  ひょろりとした身長で、鍛えても筋肉がつきにくい体質なのを気にしている。インドア系の見た目だが、アクティブなところがあり、出かけることが好き。生まれも育ちも神奈川県民。  ベッドの上では恋人・晶にマウントをとられている。かろうじて童貞を捧げることは出来た。  趣味はショッピングと水彩色鉛筆で

それはやっぱり季節イベント

「うーん……悩ましいな……」    王道でもいいけど、やっぱりチョコまみれのもおいしかったしなあ……いや、でもそもそもこれじゃないのでも……  ぶつぶつと独り言を言いながら、巣鴨雄大は悩んでいた。その悩みは、だいたい二月の終わりがけから、彼の脳の片隅にぼんやりとあったもので、ついぞ解消されることもなく三月半ばまで来ているものだった。  悩みの具体的な内容は、すでに去った二月十四日が理由だった。いわゆる、バレンタインデーだ。職場からも恋人からもチョコレートをはじめとした菓子類を

小さな犬と大きな猫のワルツ1

「気がついたんですけど」 「何に気がついたのよ」 「いや、俺、やっぱり恋人にかっこいいって思われたいなって」 「ごめん、巣鴨。ちょっと印刷したやつ持ってきてくれない?」 「あ、はい」  部署の先輩である佐藤美奈子に指示されるがままに、巣鴨は複合機に向かう。印刷が終わったA4の紙を彼女に手渡すと、やっぱり印刷すると粗が見えてくるわね、と難しい顔をする彼女に、フォントが詰まってるように見えますよね、と巣鴨が指摘する。やっぱりそう思うか、と唸った美奈子はパソコンに首ったけになる。

小さな犬と大きな猫のワルツ3

「かっこいい、か……」 「そう! 妋崎さん……この間友達になった人に言われたんだ。晶ちゃんのかっこいいが分からないと、方向性がまとまらないでしょって」 「ふうん……」 「ということで! 晶ちゃんがかっこいいって思うことを教えてください!」  目をキラキラと輝かせて尋ねてくる巣鴨に、晶は目を閉じて悩むことでその輝きを直視するのを避ける。そもそも、どうして晶にかっこいいと思われたいのか、が晶本人には分からないのだが、それをつつくのは野暮だというものだろう。数回とは言え、身体をつ

小さな犬と大きな猫のワルツ2

 花金で飲んだ翌日に待っているのは二日酔いだ。そこまで酷い二日酔いにはならなかったが、どうにも酒が残りやすい体質の巣鴨は、重たい体を引きずってシャワーを浴びる。  熱いシャワーを浴びて多少体が軽くなった気がしたまま、シャワーのコックを捻る。濡れて下がってきた前髪をかき上げて、曇った鏡を拭う。目を細めて、鏡の向こうに見える自分の顔は、まだ疲れているように見える。 「ううう……酷い顔してるなあ……」  もそもそと風呂場を出た巣鴨は、のろのろと髪と体をふかふかのタオルで拭く。ボ

小さな犬と大きな猫のワルツ4

「天気もいいし、お出かけ日和だよねえ」 「ん」 「洗濯物もよく乾きそうだしね。あ、このノート可愛い」 「買うのか」 「いや、まだノートはたくさん買ったのがあるから……大学時代に……」 「そうか」  使い切ってから新しいのを買うよ。そう苦笑いしながら、巣鴨は手にしたノートを什器に戻す。ちら、と晶は巣鴨が手にしていたノートを見る。夜の海のような色合いに、きらきたらとしたゴールドが散らされているその表紙は、たしかに欲しくはなるのかもしれない、と思う。元より物欲に乏しい晶にはよくわ

小さな犬と大きな猫のワルツ5

「マヨネーズを軽く滑らせ……うわっ、ドバッといっちゃった! ……誤魔化せるかな……」 「……パンに水分を吸わせないために塗るのが、マヨネーズなんだが」 「……明らかにマヨネーズで水分吸ってそう!」  ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、食パンにマヨネーズを滑らせていく巣鴨。マヨネーズサンドに出来そうな塗りたくり方に、晶は思わず口角をわずかに上げてしまう。  慣れた手つきで、彼女は茹でたブロッコリーを三センチ程度に粗めに刻む。ざくざくと刻みながら、ゆで卵をフォークで潰すように巣鴨に指示

小さな犬と大きな猫のワルツ6

 たまには温泉気分になろうよ、と雄大が入れた乳白色の入浴剤がよく溶けた湯に浸かりながら、晶は自分の手を見る。日に焼けた浅黒い、変わり映えのしない手だ。  幼い時から晶は女子の中では抜きん出て体格が良かった。母の胎内に柔らかさを置いてきたのか、と親戚から揶揄されるほどで、その都度に母がそんなことを言われるために産んだわけではない、と激昂していたのをよく覚えている。  ……晶としては、実際年の離れた妹・澪の方が、背もほどほどに低く、曲線美のかわいらしさを活かした性格をしているのだ

小さな犬と大きな猫のワルツ7

「……そんなことがあったんですよ」 「ふーん」 「あ、これ話聞いてない返事だ」 「職場の休憩時間以外で惚気に付き合わない、って決めてるんで」 「そこはちょっとくらい付き合って欲しいんですけど!」 「付き合える友達を見つけた方が早いのでは?」 「社会人なりたてなんで、友達を作れるような地域サークルに入る時間を作れないんすよね」 「二十六でしょ。なりたてって年ですかねえ」 「妋崎さんより六つ下ですよ! なりたてですよ!」  新卒四年目なんて、社会人なりたてと変わらないですって。

サンセット・ユートピア

title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)    「ただいまぁ」  程よい冷房が効いた自宅に帰った巣鴨は、疲れたよぉ、と情けない鳴き声をあげながら玄関のドアを施錠する。  へにょへにょとした疲れ切った顔をした彼は、トートバッグを抱えてリビングに向かう。靴下を脱ぎ、左手に持ったまま素足でリビングに向かうと、ちょうど晶が夕食を並べているところだった。  おかえりの言葉に続いた、靴下は洗濯機、にもちろんだよ、と返事をして脱衣

ポーカーフェイスの夕刻

title by Cock Ro:bin(http://almekid.web.fc2.com/)  ツイッターをはじめとしたソーシャル・ネットワーキング・サービスを時折見る巣鴨雄大は、勢いで買い物をすることがままある。大抵はささやかな物を買う程度であるから、ちょっとした失敗談として話のネタにする程度だ。  今回も、そんなネット通販の失敗のひとつだった。いや、ある意味では成功談かもしれないが。 「……それを普通に着ちゃう晶ちゃんも晶ちゃんだよなあ……」  若干の遠い目を

分け合う熱量

 うつらうつら、としていた巣鴨は、テレビのスピーカーから聞こえる音で、はっ、と目が覚める。  晶と二人で折半して購入したこたつに埋もれていた巣鴨は、起きあがろうとして、テーブルに腹を打つ。こたつ布団に衝撃は吸収されて対したダメージにはならなかったが、起き上がることに失敗した彼は、ぐえ、と潰れたカエルのような声を出す。  のそのそと体をずり上げてから起き上がった彼は、年越しちゃった、と向かいに座っていたはずの晶に声をかける。みかんを食べていた彼女は、今からだな、と返事をする。テ

シナモンとローアンバー。時々ゴールドを添えて

 巣鴨雄大はスマートフォンの画面とにらめっこをしていた。ブラウザーの検索履歴も閲覧履歴もバレンタインで埋まるほどには、ここ最近の彼はそれを検索していた。というのも、目と鼻の先に迫っているチョコレートの祭典のためだった。  女性だてらに男よりも男らしい恋人である晶は、それはもうチョコレートを大量に貰ってくる。通勤に使っているバイクに乗り切る分にしてくれ、と言っているのか、周囲が気を利かせているのかは定かではないが、ぎりぎりの積載量で帰ってくるのがこの時期の常である。バレンタイン

二人でやったら、面白いよ

「お好み焼き作れる?」 「作れるが……どうした」 「いや、食べたいなーって」 「そうか。なら、夕飯はお好み焼きにするか」 「やった!」  粉物って時々無性に食べたくなるから不思議だよねえ。そう言いながら巣鴨は横になったまま腕を伸ばす。天井に向かって伸ばされた腕を見ながら、そんなものか、と晶は尋ねる。欲求が乏しい彼女からすれば、何かが食べたい、と積極的に教えてくれる巣鴨は不思議で仕方がない。彼女が一人で暮らしていた時は、それこそ賞味期限順に消費していくのが料理だったからだ。