見出し画像

狂言ござる乃座 64th@国立能楽堂

今回は野村万作さんの卒寿の記念公演です。おめでとうございます!
卒寿(90歳)でも年齢を感じさせない舞台姿に感嘆。
と申し上げても学生の頃の観劇教室を除けば狂言はまだ見始めて片手以下の超初心者なので基本全てが初見です。気付かない内に見過ごしていたり勘違いしているところもあるかと思いますが、その辺りは御容赦を。今回も楽しかったので備忘録的に感想を書きたいと思います。
拝見したのは10月31日公演、演目は こちら ↓ です。

画像1

先ずは「素袍落」。こちらは歌舞伎でも上演される(元は狂言)作品です。粗筋を現代に直すと、上司がいきなり「今から世界旅行(伊勢参り)に行くぞ!」と言い出して、部下の太郎冠者が上司の同行予定者(上司の親戚のおじさん?)に都合を伺いに行くも、そんな突然言われたって困るし、そもそも突然今から行くような場所でもないよね?的な返事をされて、「そうですよね~、うちの上司、我儘でホント困るんで、今度、言ってやって下さいよ~」と愚痴る。そんな太郎冠者を同情したのか?、訪問先でお酒を御馳走になって、お土産?に「古着だけど良かった太郎冠者にあげるよ」とスーツ(素袍)を頂き、良い気分で一曲歌いながら戻るも、千鳥足なので頂いた素袍を落としたことにも気付かない。帰りが遅い!と待ち受けていた上司がそれを拾い、太郎冠者を問い詰める。まだ酔っぱらってる太郎冠者の返答は要領をえないけれど上司に「それ返して下さいよ~」と頼む場面で終る、といった感じ?でしょうか。

当時の御伊勢参りと言えば一生に一度行けたら幸せなレベルの話で、親戚は元より御近所の方々など多くの方から餞別を頂くような一大イベント。その変わり餞別を頂いた方々への御土産も必須だったり、行くのも帰るのも大変だったみたいです。その御伊勢参りに今直ぐ行く!と言い出す時点で御主人の我儘さが実感できますよね。今も昔も宮仕えの大変さを思わせる作品ですが、その分、観てる方からすると太郎冠者に共感しやすい感じがします(笑)
一つ(へぇ~)と思ったのが、お酒の飲み方。盃は歌舞伎に出てくるのと一緒なんですが、飲み方が違うんですよね。偶々なのか?そういうものなのか?判らないんですが。歌舞伎の場合は最初に酒の香りを楽しむ?かのように首を左右にうねってから一気に飲むことが多いですよね。狂言の場合は正面から真っ直ぐに飲み干す感じなんですかね?
こういう違いもあるんだな~と思いました。

素囃子を挟んで、「唐人相撲」。
凄い!舞台上に何十人いらっしゃるんだろう?もうぎゅうぎゅう詰めなくらいの密集度(笑) 演者さん達と御囃子さん達含めて、ざっと50人弱って感じでしょうか?
粗筋としては簡単明瞭で、留学?に来てた相撲取りが帰国したいのでその願いを帝(皇帝?)に伺ったら、帰る前に相撲が見たい!と所望されたので、相撲取りと唐人?達の相撲が繰り広げられるも相撲取りの圧勝でw、業を煮やした帝が御自ら相撲を挑む!けれど、取り組んだだけで(そりゃ相撲ですからねw)この尊き体に触るなんて許せん~~って怒られちゃう不条理さ(笑)
今の芝居でいうとナンセンスコメディーなんですかね?
唐人達もあの手この手で頑張るんですが、その負け方が鮮やか(ジャンプしての欄干?超えとか)だったり可愛らしかったり(子役ちゃん達も活躍)するし、また万作さんが演じられる帝がほのぼのキャラなんですよね。きっと治世も権力や武力でというよりは、国民に慕われて治まってる感じに思えるんです。帝の不条理さも笑って許せちゃうような♪ 日本で言うと、水戸黄門様に一番イメージが近いかも?
相撲取りが野村裕基さん、そして相撲取りと帝の間の通訳として活躍する(昔のタモリさんのナンチャッテ外国語を髣髴とさせるナンチャッテ系の通詞)のが野村萬斎さん、帝の野村万作さんと三代揃っての舞台です。裕基さん、以前はまだ少年っぽい面影がある線の細さを感じた記憶があるのですが、少しの間に大人っぽくなられたような? 萬斎さんも御元気そうです(笑)
現在放送中の「ドクターX」の中でしばしば登場する「飛沫防止の御意」ですが、あのポーズが舞台上でも出てくるんですけど、あれは今回用のスペシャル?それとも以前からそういう動き?なのか判らなくてモヤモヤ~(^^; 今回のXに合わせてだとは思うんですが?、違うのかな?

それにしても、いやはや、笑った!笑った!
今までで拝見した狂言の中で一番笑っちゃった作品です(^^)
多分、初心者あるあるだと思いますが、まだ見慣れぬ世界の舞台って、必要以上に「台詞を一音一句、聴こうとしてしまう」んですよね。歌舞伎はもう40年弱観てるので、良い意味で?聞き流せて。大意さえ掴めていればオッケー、肝心なところだけ耳の集中度を高める、そんな案配を自然にこなせ、その分、五感とか心を自由に動かせるのですけれど狂言に関しては知らないことばっかりなので、集中し過ぎちゃって(それが悪いわけではないけれど)他の観劇の時に比べてまだまだ心が固いんですよね~~(解って頂けるかな?このイメージ)
そんな自分を自覚していたのですが、今回のこの演目に関しては、そうした自分自身の固さを良い感じに壊して下さって。思わず笑っちゃうし、予定調和じゃない拍手や手拍子が客席から自然に起こって、皆で地元の小学校の運動会を見て応援してるような(笑)、朗らかな楽しさが能楽堂を包んでいたように思います。

歌舞伎にもこうした「誰が見ても初めてでも解る作品」があって、例えば「身替座禅」なんてその最たる例だと思いますが、いつの世も変わらぬ、人が持つ愛くるしさを愛でる御話。たとえ言葉が解らなくても見てるだけで自然に場が解るし思わず笑っちゃうような、そうした「その世界への導入」にはもってこいの作品に出会えると、身構えるような緊張も無くなりますよね。そうした作品があることは伝芸の世界の強みの一つかな?とも感じました。
何でも、この「唐人相撲」は二十年ぶりの上演とのこと。これだけの規模ですと、そうなっちゃうのも無理もないのかな?と思うと同時に、これほど初心者向けの作品もないんじゃないかな?とも感じるので、もっと頻繁に上演されたらいいのになぁ~~~とも思いました。


今度は「白寿」の御祝いを、出来ますように!と願いつつ。
この度は「卒寿」、まことに、おめでとうございました(^^)